BMWの基幹車種である3シリーズ。昨年フルモデルチェンジされ日本に投入された際には、まず330と320の4気筒ガソリン2リッターエンジンが導入。その後しばらくして6気筒ガソリンエンジンのM340やプラグインハイブリッドの330e、そして4気筒ディーゼルモデルの320dが追加された。
ちょうど京都まで取材で出向かなければならなかったこともあり、早速ディーゼルモデルを引っ張り出し、およそ1200km走らせてみたのでその印象を記してみよう。なお、試乗はCOVID-19緊急事態宣言以前に行われたものである。
◆最新機能がこんなに入っているの?
BMW320d xDriveは、低回転域と高回転域で切り替わる2ステージターボシステムを採用することで、低回転域での加速性を向上させるとともに、BMWの四輪駆動システム「xDrive」を搭載している。このxDriveは、走行中にセンサーが常に路面状況を検知し、車両速度やドライバーのステアリング操作に応じて電子制御で前後トルク配分を最適化することで、常に安定した走行を実現し、日常走行における快適性や操作性を高める機能である。そして、安定走行時には、後輪にほぼ100%エンジントルクを配分することも可能であり、燃費効率をより高めている。スペックは、排気量1,995cc、直列4気筒ディーゼルエンジン、最高出力190馬力/4,000rpm、最大トルクは400Nm/1,750~2,500rpmを発揮し、WLTC燃費消費率15.3km/Lを記録している。
またこの2019年夏以降の販売モデルには、「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能」が搭載されている。これは、高速道路での渋滞時において、ドライバーの運転負荷を軽減し安全に寄与する運転支援システムだ。この機能は、
“絶えず前方に注意するとともに、周囲の道路交通や車両の状況に応じて直ちにハンドルを確実に操作することができる状態にある限りにおいて”、
ステアリングから手を離して走行が可能となるのだ。具体的には高速道路(ナビとカメラで認識)において、およそ50km/h以下になった時点で作動可能だ。重要なのは“”で囲った部分。つまり、あくまでも自動運転ではなく、その責は常にドライバーにあるということ。渋滞中でこの機能を作動させたとしても、その間、本を読んだりすることはできないということなのだ。その操作と評価は後程。
今回借り出したのはBMW320d xDriveのMスポーツ仕様であった。
◆エンジンとトランスミッションはベストマッチ
駐車場でクルマをぐるりとひと回りしてみると、明らかにBMWならではの精緻なデザインが見て取れる。幅広くなりかつ全体がつながったキドニーグリルのピーク部分はヘッドライトよりも若干上に位置し、セダン系であることを主張(Z4などのスポーティー系はヘッドライトよりも下にある)。リヤまわりはBMWらしいL字型のテールランプが目につく。
そして従来型までで特徴的だった、“ジッカ(ジッケ)ライン”と呼ばれる前後ドアハンドルを貫通するボディサイドの鋭いプレスラインは現行型で廃止。その代わりウエストライン付近に削ぎ面がデザインされ、プレスラインよりも豊かな面構成を中心にデザインされていることがわかる。
ドアを開け室内に乗り込むと、インテリアの雰囲気はこの3シリーズ以降のBMW車に共通したレイアウトとなる一方、これまでBMWに親しんできた方にとってはその変貌ぶりに戸惑うかもしれない。特にナビの階層はかなり変わっているので注意が必要だ。
センターコンソールにあるスタートストップボタンを押し込むと、若干の振動とともに簡単にエンジンは目覚めた。気になるディーゼルエンジンの音は室内にいる限りそれほど気にはならない。シフトレバーを“D”にセレクトして走り始めると、大きく2つのことに気付いた。それはトランスミッションとエンジンのマッチングが非常によいということ。それとMスポーツ仕様による硬められた足まわりだ。
前者に関しては400Nmのトルクを上手に使い、とてもスムーズに走ることが出来る。しかも、少し強めにアクセルを踏み込めば思った以上に鋭い加速も味わえるので、混んだ都内でも余裕をもって走らせることが出来るだろう。
一方、後者の乗り心地に関してはかなり硬く、特に一般道においてはやりすぎだ。お腹いっぱいご飯を食べたあとは正直乗りたくないと感じるようなもので、これは後席においても同様。常に体がゆすられる感覚が付きまとっていた。
もう一つ気になる点をあげるならばブレーキフィールだ。停止寸前にアイドルストップが介入するのだが、その際、非常にスムーズに停まるときと、停止直前にブレーキペダルの踏力を緩めたにも関わらずそのまま停止しショックが出てしまうときがあり、スムーズに停止させにくい状況になることがしばしば見受けられた。
◆高速でこそ光る操安性
高速道路に乗り入れると印象はかなりよくなってくる。特に乗り心地に関しては十分耐えられるところまで回復する。京都まで片道500km少々。途中ではトイレ休憩や食事のためにSAやPAに立ち寄ったが、疲れたためだけに立ち寄ることはなく、上手くすればノンストップで京都までたどり着くことも可能だった。同時にシートも比較的疲れにくい形状で、長距離を走らせた後に疲れを感じることはなかった。
xDriveの影響もあり、直進安定性は上々。もともと3シリーズが高い直進安定性を備えていることもあり、特に新東名などの直線が長く続くルートなどではその恩恵はより高まるだろう。
せっかく長く高速道路を走らせるのだからと、以前記したBMW 8シリーズと同様、ハンズオフ機能を試してみた。ハンズオフ機能はACC(アダプティブクルーズコントロール=前走車追従機能)使用時に条件が整うと、アシストプラスレディという表示がメーター上に点灯。その際にステアリングのMODEボタンを押すと起動するという簡単なものだ。実際に作動するとステアリングに埋め込まれたグリーンのLEDが点灯するのでわかりやすい。
渋滞時に試してみると、ACC作動時と同様、ブレ-キングが若干ハード気味になることが多いものの(車間距離は若干短めに設定した場合)、全体としては8シリーズの時と同様、違和感を覚えることなく淡々と渋滞をこなしていく。50km/hを超えるあたりでハンズオフは解除されるが、その時にはきちんと警告が発せられるので問題はないだろう。ただ、再び渋滞に遭遇したときには、リジウムボタンはなく、最初から設定をしなおさなければならない。ACCに関しては80km/hから90km/hほどで走行中、コーナー等ではスムーズではなく多角的にハンドル操作が介入されるので、決してスムーズな印象はなかったことを付け加えておく。
8シリーズと同様、このハンズオフ機能搭載車でACCを使用した際は、高速道路だけでなく一般道の渋滞時でも、停止時間に関係なく前車が発進すればこちらも自動的に発進する。これまでACCを使い慣れたドライバーは注意が必要である。
◆残念なナビシステム
ナビに関しては、正直退化といっていいだろう。この3シリーズからシステムが入れ替えられ、純正ナビゲーションが一新している。新しいのだから進化してると考えるのが普通だが、このナビには首をかしげざるをえない点がいくつか見られた。
まずは地図表示から。VICSが対応している道路はグリーンに表示されるのだが、目的地に向かうルート指示もグリーン表示なので、いったい自分がどこを走っているのかわからなくなってしまうのだ。また、翌朝早いからと前夜に目的地を設定していても、時間がある程度経過するとリセットされてしまう。
さらには目的地設定をした際にいくつかのルート選択が出来るのだが、そこに料金が書いていないもの=一般道優先という判断をして走り始めると、勝手に高速を選んでしまう。どうやらシステムのおおもとで時短ルートを選択していると自動的にリルートがかかり有料道路へ誘導してしまうようだ。
つまり、複数ルートが表示されたとしても、どれが自分にメリットがあるのかわからないのだ。ちなみに一般道を優先したい場合には、前述のおおもとの設定でその選択をしなければ、常に有料道路を選択する。そのほかにも目的地の微修正は出来なくなったし、音声アナウンスも不自然になるなど、今回のシステム変更にメリットはまったく感じられなかったのには残念だった。
◆燃費は平均的
最後に燃費を記しておこう。
市街地:11.9km/L
高速:20.1km/L
郊外:13.3km/L
平均:15.1km/L
という結果だった。カタログを見ると、WLTCモード燃費はトータルでしか表示されていないのだが、その値は15.3km/Lであることを踏まえると、ほぼカタログ値並みの燃費が記録されたといっていいだろう。
2Lディーゼルターボとしては平均的だが、4WDにも関わらず高速は比較的伸びているので、このパワートレーンの効率が高いことが伺える。
◆Mスポーツは仕様変更されるらしい
最後に乗り心地に関して新情報が入ってきたのでお伝えしておこう。昨年7月以降のMスポーツ仕様生産車においては、乗り心地が大幅に改善されたとのことだ。発売後約半年での改良はあまり聞いたことがないが、その理由は前述同様あまりにも硬いという評価が各国から噴出したことで、本社としても即対応に踏み切ったようだ。
当初硬かった理由は、グローバル市場において3シリーズのMスポーツ仕様の割合は2割程度(ちなみに日本はなんと8割ほど!)。そこでより尖った乗り心地でよいと判断したためだ。しかしどうやらやりすぎだったようで、かなりの改善が見込まれるという。いずれ機会を見つけて改めてレポートしてみたい。
さて約1200kmを取材の足として使った結果は、乗り心地を除いては非常によく出来たビジネスサルーンということだった。いろいろ気になることは書き連ねたが、それらの多くは細かい使い勝手の部分であり、今後、十分に改善が可能なものばかりだ。
それ以前にクルマそのものの出来の良さは非常に高く、東京~京都の往復程度は楽々とこなしてくれる。さらには大人4人がしっかりと座れ、かつ、十分な容量(480リットル)を備えた極めてコンサバティブなセダン(近年はクーペライクなセダンなどが流行っているが)を考えている向きには、ショッピングリストにあげて間違いはないだろう。
文&写真=内田俊一 Shunichi Uchida
driver@web 編集部
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