市販車を改造した特認車両からスタートした
歴史あるル・マン24時間レースもシーズンカレンダーに含まれるFIA世界耐久選手権、通称WEC。日本からはトヨタがハイブリッドシステムを搭載したマシンで2012年から参戦しています。2014年にはシリーズチャンピオンを獲得し、2018年は遂にル・マン24時間レースで優勝を飾りました。そんなWECでの活躍を語るうえで欠かせないハイブリッドシステム。市販車とは異なるレース専用のシステムで、WEC参戦前から開発が行われていました。
序盤5時間をトヨタが1-2体制でリード! 丸3年ぶりに観客を入れてフル開催の2022年【ル・マン24時間レース2022】
2006年 DENSO LEXUS GS450h
日本のモータスポーツシーンにトヨタがハイブリッドを投入したのは2006年。当時国内唯一の24時間レースであった、スーパー耐久シリーズの十勝24時間レースにレクサスGS450hをベースとした、レーシングハイブリッドマシンで参戦しました。
急減速と急加速を繰り返すモータスポーツの走行状況においては、バッテリーよりも急速充放電が得意なキャパシタが適しているのではないかという考えのもと、GS450hのニッケル水素バッテリーにキャパシタを追加する独自のレーシングハイブリッドシステムを開発。エンジンの最高出力は296ps、モーターの最高出力は200psでシステム最高出力345psを誇っていました。現代の市販車と比べても高出力なモーターを搭載しているのが興味深い点です。
このマシンは大きなトラブルを起こすことなく24時間を完走。さまざまな実戦データを蓄積するとともに、THS-R(トヨタ・ハイブリッド・システム・レーシング)がモータスポーツ史にその名を刻み始めた瞬間でもありました。
2007年 DENSO TOYOTA SUPRA HV-R
2006年に十勝24時間完走を果たしたトヨタは、翌2007年に新開発したレース専用ハイブリッドシステムを搭載したレーシングマシンで、ふたたび十勝24時間レースに挑みます。
ベース車として選ばれたのは、2006年までSUPER GTで戦っていたスープラ。このレーシングマシンにキャパシタとモーターからなるオリジナルのハイブリッドシステムを搭載していますが、前年とは異なりバッテリーは搭載していませんでした。
モーターは後輪駆動用に150kWがひとつ、左右のブレーキローター裏に10kWのものがひとつずつの計3基を搭載。あくまでも市販車ベースのシステムだった2006年から比べると、レース用システムとして大幅な進化を遂げています。この「スープラHV-R」と名付けられたマシンは大きなトラブルを起こすことなく、無事完走。見事総合優勝を飾りました。この総合優勝は準国際格式のレースでハイブリッド車が初めて総合優勝を成し遂げた出来事でもありました。
2012年~ apr PRIUS GT
トヨタのレーシングハイブリッドは、国内を中心としたカテゴリーであるSUPER GTでの活躍も忘れてはいけません。2012年から神奈川県に本拠地を置くレーシングカスタマーaprは2012年から、ハイブリッドシステムを搭載したプリウスで参戦をしています。
こちらはキャパシタを中心とした独自のレーシングシステムではなく、市販車のシステムを使用。2013年はモーターを軽量なアクアのものに変更し、2014年にはハイブリッドシステムを軽量化……といった具合でマシン開発はもちろん、ハイブリッドシステムに関しても年々改良を施し、ハイブリッドにこだわってSUPER GTに参戦を続けているのです。
例年変更が加えられる車両レギュレーションにより、有利なシーズンと不利なシーズンがあるものの、シーズン2位を記録したこともあり、戦闘力は高いマシンと言えます。
2012・2013年 TS030 HYBRID
2011年10月に発表された2012シリーズからのWECへの参戦。SUPRA HV-Rから進化を重ねたハイブリッドシステムを、プロトタイプレーシングカー「TS030 HYBRID」に搭載しました。
参戦するトップカテゴリーであるLMP1の規定に合わせて、後輪のみで回生とモーターアシストを行うシステムとなったレーシングハイブリッドシステム「THS-R」。SUPRA HV-Rと比べたシステムの最大の進化ポイントはキャパシタです。スーパーキャパシタと呼ばれる蓄電量を高めた電気二重層キャパシタを採用し、後輪で回生したエネルギーをスーパーキャパシタに蓄え、後輪で使用していました。
これにNAの3.4L V8エンジンを組み合わせ、最終的にはシステムで800ps以上の出力があったと言われています。TS030は2台体制で2012シーズンと、改良型を投入することになった2013シーズンに参戦。どちらのシーズンもランキング2位に終わり、ル・マンでの勝利は後継のTS040へ託しました。
2014・2015年 TS040 HYBRID
大幅な車両レギュレーションの変更があった2014シーズンから、トヨタはマシンを進化させた「TS040 HYBRID」へとスイッチします。ハイブリッドシステムの面でのレギュレーション上の大きな変更点は、1周あたりの最大放出エネルギー量です。
ル・マン24時間レースの舞台であるサルトサーキット1周あたり、2MJ/4MJ/6MJ/8MJの4段階から任意でエネルギー放出量を選べるようになりました。こうなると8MJを選択すれば有利と思ってしまいますが、数値を大きくすればシステム重量が増えてしまい、運動性能で不利となります。
トヨタはバランスを考慮した結果6MJを選択。これに合わせてスーパーキャパシタも進化させます。またレギュレーション上フロントでのモーター駆動も可能となり、前後の駆動をモーターでアシストするようになりました。V8エンジンは3.7Lに拡大したことで、システム出力は1000ps以上と言われていています。ル・マン24時間での勝利は逃したものの、2014年シーズンは見事チャンピオンを獲得しました。
2016~2020年 TS050 HYBRID
2016シーズンに向けてトヨタは大幅にシステムを変更し、「TS050」へと進化させます。8MJに対応できる軽量小型なハイパワー型リチウムイオン電池の開発に成功し、キャパシタに変えてこちらを採用。それにコンディション変化への対応がしやすいV6ツインターボエンジンを組み合わるなど、パワートレインを大幅に変更しました。
2016年のル・マン24時間では終了前3分までトップを走行していたものの、残りわずかというところでパワーダウンし、そのままストップ。トヨタにとって悲願であったル・マン初優勝があと一歩のところで逃げていきました。この年のシリーズランキングは3位。以降もTS050の改良を施しながら参戦を続け、2017シーズンはシリーズ2位、2018シーズンはシリーズタイトルと悲願のル・マン優勝を成し遂げました。以後、2018-2019、2019-2020シーズンともにシリーズタイトル獲得とル・マン王者の座に輝いています。
2021年~ GR010 HYBRID
車両規定が大きく変更された2021年以降のWEC。従来のLMP1に代わるWEC最高峰クラスとして設定されたル・マンハイパーカー規定に合わせ、トヨタは「GR010」を開発します。
マシンコスト低減を目的としたレギュレーション変更により、パワートレインが大幅に変わりました。680psの3.5L V6ターボエンジンはリヤタイヤのみを駆動し、回生と駆動はフロントのみで、モーター出力は272ps。パフォーマンスを落とす方向性のレギュレーションにより、162kgの重量増加と32%のパワーダウンとなっています。しかし、この新規定でもトヨタは強さを見せ、2021年のWECではシリーズタイトルを獲得。2022シーズンも第5戦終了時点でランキングトップに付けています。
トヨタがハイブリッド×モータースポーツを切り開いた
トヨタがモータースポーツシーンにハイブリッドを持ち込んだ2000年代後半は、まだハイブリッドでレースするという考え自体が浸透しておらず、スーパー耐久へのスポット参戦も特認車両として認められての参戦でした。
しかし、今やWECをはじめF1やWRCなどトップカテゴリーに電動化技術が採用されています。これもトヨタがGS450hやSUPRA HV-Rでハイブリッドでのモータースポーツ参戦を切り開いたことも、少なからず影響しているでしょう。これからどのように世界のモータースポーツシーンが変わっていくのか? そしてモータースポーツで得たハイブリッド技術がどのように市販車へ生かされていくのか? モータースポーツファンとしてとても楽しみな部分のひとつと言えるでしょう。
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みんなのコメント
モータースポーツの場合、世界優勝したメーカーの技術を自分で買う事ができる。なんと素晴らしい事か。
ルマンカーで通勤する事はできないけど、プリウスやアクアで十分その一端を感じられる。最高でしょ。