レクサス初のBEV専用モデルとして登場したRZは、レクサスならではの走りの味「Lexus Driving Signature」を徹底した作り込みによって進化させた。2035年の100% BEV化へ向けてのファーストステージとして、このRZからレクサスエレクトリックの新時代が始まろうとしている。(Motor Magazine2023年7月号より)
一体感ある走りを追求したBEV専用プラットフォーム
RZはレクサスブランドにおいての、第二弾となるBEVだ。第一弾として登場したのはCセグメントSUV、UXのバリエーションという位置づけになる300eだが、こちらもRZの国内発表に合わせるようにアップデートが施されている。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
搭載バッテリーを刷新しその容量をRZより多い72.8kWhに増強。航続距離を当初から約4割増のWLTCモード512kmとするなど、実用においての不満を大きく解消する仕様となっている。価格は当初から50万円上がったが、性能向上分の対価としては納得の範疇だろう。
と、ここで不思議に思うのは、なぜ専用アーキテクチャーで肝煎りのRZに被せるようにUXの改良が発表されたのかということだ。恐らく年次ごとに弛まぬ改良を続けていくというレクサスの基本方針に加えて、35年には販売全量のBEV化を目標に掲げている以上、常にそこへの前向きな姿勢を見せておきたいという思いもあったのではないかと察する。
話は戻って今回のRZだ。既報のとおり、専用アーキテクチャーを持つ初のBEVとなる、そのベース車となっているのはトヨタbZ4X/スバル ソルテラだ。
RZはそれらに比べると寸法的には全長が115mm、 全幅が35mm 大きく、全高は15mm低 い。ホイールベースは同じだが、トレッドは前後ともに10mmず つ広くなっている。タイヤサイズはリアが20mm幅 広になるなど細かく仕様が異なっており、単なるバッジエンジニアリングとは一線を画する。
開発プロセスを聞くとバネ、ダンパー、ブッシュなどのセットアップはまったく異なっており、後述するステアバイワイア仕様についてはレクサス側のエンジニアがゼロベースで開発、それに合わせてレクサスがDIRECT4と呼ぶ駆動コントロールも独自の制御となっている。
車台はe-TNGAをベースにスポットの短ピッチ化や、ウインドウ、ドアまわりなどの開口部のレーザースクリューウェルディングやレーザーピーニングなどの特殊接合、リアゲート開口部の二重環状構造や高剛性発泡剤の注入、ホイールハウスや床板まわりを中心とした構造用接着剤の使用など、徹底した剛性向上策がほどこされている。
大幅な出力アップにも関わらず、航続距離もしっかり延長
この車台の床下に積むバッテリーの容量は71.4kWh。これはbZ4X/ソルテラと同じだ。ただしRZはインバーターに炭化ケイ素=SiC素子を用いたパワー半導体を用いて省エネ化を進めている。Si素子に対しては特定領域でパワーロスを半減以下にできるという。それは、電動車において10%程度の効率向上が期待できるという。
その甲斐あってか、RZの航続距離はWLTCモードで494kmと発表されている。これはbZ4X/ソルテラの487kmよりもわずかに長い。なんだその程度かと早計しそうになるが、RZは前軸部にbZ4X/ソルテラでは前輪駆動モデルのみに用いられる高出力モーターを採用しており、システム総合出力は313psと、bZ4X/ソルテラの全輪駆動モデルに対して95psの高出力化が図られている。
と、それによる電費の減損分をSiCインバーターがカバーしているという見方もできるだろう。ちなみにRZの0→100km/hは5.3秒、最高速は160km/hと発表されている。
エクステリアで特徴的なのは「スピンドルボディ」と称される新しいデザインランゲージだ。電動化時代を見据えてスピンドルシェイプをグリルではなくボディと一体化された形で見せるというこの意匠、RZの後に登場したRXや、直近で発表されたLMにもそのイメージが看て取れる。
電動機の発する音が小さいこともあって、吸音材などの物理面のみならず空力面からの消音に力が注がれているのもRZの特徴で、ボンネットは開口部全周をシーリングするほか、床下のフラット化や側面の整流、前後ラミネートガラスの採用などさまざまな手段が講じられている。
副産物として理想的なエアフローが実現したことで、リアスポイラーはスプリットタイプとなり、リアウインドウはワイパーレスになっているのも外観上のアイキャッチとなっている。
後席の居住性は床面がやや高く前席下部への足入れ性が悪いなどのウィークポイントもあるが、空間前後長を活かして足元の空間はており、他のBEVと比べても停止時の静粛性はすこぶる高い。このあたりは長年HEVを手掛けるノウハウの広さや深さを感じさせる。そして走り出しからモーターの稼働音やインバータのノイズなどもしっかり封じられている。
低重心と高剛性ボディによるBEVならでは高い走行性能
バネ下の動きは至ってスムーズでブレや跳ねのようなものは滅多に感じることがない。路面のオウトツに応じてしっとりと歩を合わせていることがクリアに伝わってくる。濁りのない応答感に一助しているのは車体の減衰特性を整えるパフォーマンスダンパーだろうか。
このあたりのフィーリングはbZ4X/ソルテラと大きく違う。直接のライバルと想定されるのはドイツの3強になるだろうが、近しいグレードのモデルを思い浮かべても低中速域での動的質感は勝るとも劣らずという印象だ。
速度が増すと伝わってくるのは前述の、車体剛性強化への念入りな施しだ。そもそもが強固な建て付けのバッテリーユニットのおかげで低重心化や床面の強化が副産物として現れるBEVでは、むしろ上屋や足まわりの剛性もそれに負けないところまで高めておかなければ、衝撃がヤワなところに集中してしまう。そういったネガを地道に潰していった成果が、多少は大きな入力にもまったく動じずスキッと減衰させるクルマの度量の大きさにつながっている。
前後軸のモーターからなるダイレクト4は理論的に0対100~100対0の前後駆動配分が可能となるが、発進時や加速時はピッチング姿勢を抑えるべく約60対40~40対60の間で、旋回入りは約75対25~50対50と前軸基調で引っ張り、脱出時は約50対50~20対80と後軸基調で蹴り上げるという制御をシームレスに行うという。
その加速感や旋回感はあくまでリニアで刺々しい着色がない。激しいアクセルペダルのオンオフを試みても、首をもっていかれるほどのドギツイ姿勢は敢えて抑えて、ぐうっと全体を沈み込ませるように操作に反応する。プレミアムのゾーンにはRZより体感的に速いBEVはいくらもあるが、RZZより綺麗な所作で走るBEVVはいくらもないかもしれない。
将来的には自動運転との親和性も高いステアバイワイア
それはコーナリングでも同じで、アクセルペダルのオンオフに伴う上屋のラフな動きは最小限に留められ、パワーをぐんと乗せていってもサスペンションはじんわりと沈み込みながら、底づき感もなくぐっと踏ん張り抜いてくれる。
この駆動配分によるボディコントロールがさらに活きるのが、前述のステアバイワイアシステムだ。円形ハンドルと同等の仕事を左右150度の作動量でこなすという。それは、プロトタイプを経験する限り、緻密な駆動配分が旋回姿勢の安定化において少なからぬ貢献を果たしているように感じられた。
キャリブレーションに時間を要しているらしく、今も発売未定だが、将来的には自動運転などとの親和性も高いメカニズムゆえ、この開発で得た経験値は後々アドバンテージとなるはずだ。
RZはBEVにあって、安直な刺激ではなく、自然に綺麗に振る舞うことを由として開発されたクルマだ。その狙いはきちんと達成されていると思う。レクサスは常々動的質感の作り込みにおいて「すっきりと奥深い」というテーマを掲げてきたが、そこに最も近いのはこのクルマかもしれない。
BEVの拓く新世界みたいなところを期待するならステアバイワイア仕様を待つべきだろうが、恒常的ないいもの感でBEVを求めようというのなら、かなり魅力的な選択肢だと思う。(文:渡辺敏史/写真:井上雅行)
レクサスRZ450e“バージョンL”主要諸元
●全長×全幅×全高:4805×1895×1635mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:2100kg
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:前150kW(203.9ps)、後80kW(109ps)
●モーター最大トルク:前266Nm、後169Nm
●バッテリー総電力量:71.4kWh
●WLTCモード航続距離:494km
●駆動方式: 4WD
●タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20
●車両価格(税込):880万円
[ アルバム : レクサスRZ450e“バージョンL” はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
じゃあダメじゃん