「温故知新」の逆というわけではないが、最新のプジョー車に乗りながら、古(いにしえ)のプジョー車に思いを馳せてみたい。今回は、人気のSUVである3008から、プジョー車のデザインの変遷を振りかえってみたい。(タイトル写真は、上が1938年に発表された202、下が最新の3008)
マイナーチェンジで斬新さを増した「3008」
3008は、兄弟車の5008とともに、近年のプジョーの好調を支えるヒットモデルとなっている。3008の全長は3列シートの5008より短く、車重も少し軽い。昔でたとえるなら、5008がワゴンで、3008がセダンかハッチバックというような感じだ。
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5008は全長の長さによる積載能力の高さを持つ一方、3008はクルマとしてのバランスに優れ、それほどの差はないとはいえ軽快に走る。それは見た目のスタイリングでも演出されていて、ショルダーラインが直線的な5008に対して3008はリアドア付近からキックするようにせり上がって動きを表現している。ただ、ルーフラインはあくまで実用的なSUVらしい形状を保っている。
車高の高いSUVとはいえ、3008はワインディングロードを安定して気持ち良く走れる。足の硬さも適度で、際立ってソフトというようなことはないが、少しがんばって走っても安定した接地感や正確性が失われることはなく、シャシはやはりプジョーらしい仕立ての確かさが感じられる。
3008が個性的なのは、内外装のデザインだろう。とくにエクステリアはけっこう斬新で、日本導入当初は少しとまどった人もいたように思う。ただ、それからまだ4年しか経っていないが、まわりのクルマのデザインも変わり、今ではとくに斬新という印象は薄れた。なにより世界的に販売は好調なのだから、巧みなデザインという評価が妥当だと思う。
もっとも、2020年秋のマイナーチェンジでまた顔つきが変わり、再び「斬新な印象」を取り戻した感もある。508以来導入されている、ライオンの牙をモチーフにした垂直に伸びる左右のデイタイム ランニングランプに加え、新たなグリルパターンが採用された。このグリルの装飾は非常に凝っていて、細密な工芸品のような趣で、しかもグリルの外のバンパーにまで細かく刻まれたスリットが何本も入っている。プジョーはこれをフレームレスグリルと称しているが、グリルとボディの境界をなくすようなデザインは先ごろ登場したホンダ ヴェゼルでも採用されており、今後の自動車デザインの傾向を先取りしているのかもしれない。
とはいえ、とくにプジョーのこれはアールデコ的とでもいうのか、装飾的な美しさがあり、ちょっとしたデカダンス(退廃的)の雰囲気も感じられる。やりすぎには見えないし、グリルの細密パターンは、208や2008でも採用されており、プジョー ブランドに則したものとしてデザインが決定されているのだと思う。ただ間近で見るとかなり見応えがあり、ついつい見入ってしまうほどだ。
斬新な流線型ボディをまとって登場したプジョー 402
プジョーはかつて、前衛的デザインで名を馳せたことがあった。近年もつい10年ほど前まで、307や407などに極端なスラントノーズのデザインを採用していた時期があったが、それはちょっと意地悪くいえば「フェラーリ症候群」のデザインみたいなもので、必ずしもフランス的なウィットのあるデザインには思えなかった。
プジョーが前衛に走ったのは、このときだけではなく古くは第二次世界大戦の前にまでさかのぼる。1935年、402が登場したときだった。比較的オーソドックスなスタイリングで知られていた従来のプジョーは、突如として路線変更して斬新な流線形ボディを採用して世に送り出したのだ。
そもそも1920年代頃まで、プジョーに限らずどのクルマも四角いボディを持ち、スタイリングに大きな違いはなかった。それが次第にボディの角を丸めて、ラジエターグリルも斜めに傾けて、だんだんとスタイリッシュなものに変革しはじめた時代であり、プジョーも順当にそうした傾向に従っていた。ところが1935年の402で、いきなり極端な流線形ボディに飛躍したのだった。
流線形ボディは、1930年代後半には、多くのメーカーが採用するのだが、このプジョー 402はその先陣を華々しく切ったもので、しかも流線形が徹底されていた。実を言うとそれより1年前に、クライスラー エアフローが流線形を採用しており、これはデザイン史の教本に必ず出てくるような歴史的なデザイン作品で、プジョーはその影響を受けていた。
同じく流線形ボディを取り入れた2社だったが、その後の展開で大きな違いを見せた。クライスラーは技術的トラブルもあったとはいえ、商業的には失敗作に終わったのに対し、プジョーの流線形は成功したのだ。
それにはフランス市場のほうが、アメリカ市場よりも、前衛を受け入れる素地があったという見方と、プジョーのデザインのほうが洗練されていて、完成度が高かったという見方もある。いずれにしても、クライスラーは間もなく流線形を修正してやめてしまうのだが、プジョーはその後302や202などもすべて同じ流線形デザインにし、全モデルをそれで統一してしまった。
402は、クライスラーと違って、ヘッドランプも流線形のグリルのスリット内に隠してしまって、まさに前衛的で、デカダンスの雰囲気も感じられた。細かいスリットのグリルとライトが融合するというのは、3008も同じようだといえなくもない。ひょっとすると、3008のデザインには、この1930年代のプジョーのデザイン ヘリテージが継承されているのかもしれない。(文:武田 隆)
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