クロカンやSUVというと車高があり走破性が高いイメージを持つが、調べてみると販売は2WDが中心となっている。
例えば2021年4月23日に発売されたホンダヴェゼルの最初の1か月の受注状況では、FFが81%に対して、4WDはわずか19%となっている。
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なぜSUVの売れ筋はFFとなっているのだろうか?
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
[gallink]
■SUVが売れる2つの理由
2021年10月登場の日産 ノートオーテッククロスオーバー。SUVは新型車の発売も活発だ
今の売れ筋カテゴリーはSUVだ。2010年以前のSUV比率は、国内で新車として販売される小型/普通車の10%弱だったが、今は25%に達する。小型/普通車の販売ランキングを見ても、ヤリスクロス、ヴェゼル、ライズ、ハリアーなどが上位から中堅に並ぶ。
SUVでは新型車の発売も活発で、新規車種としては2021年9月にカローラクロスが導入された。10月にはノートの派生車種として、ノートオーテッククロスオーバーも加わっている。
既存の車種では、レクサスNX、ランドクルーザー、アウトランダーPHEVなどがフルモデルチェンジを行ったから、話題になるクルマの大半がSUVだ。
新型車にSUVが多い理由は、日本と海外の両方で、人気のカテゴリーになるからだ。軽自動車やミニバンは国内が中心で、クーペやセダンは海外が主力になる。
国内と海外の両方で好調に販売できるカテゴリーは、以前はコンパクトカーの一部車種のみだったが、今はSUVが世界の市場で売れ行きを伸ばした。その結果、車種も増えている。
それならなぜSUVは世界的に人気が高いのか。そこには2つの理由がある。まずは外観のカッコ良さと、優れた実用性を両方とも備えることだ。
SUVの外観を見ると、ボディの下側は大径タイヤの装着などによってカッコ良く、上側はワゴン風だから4名乗車が快適で荷物も積みやすい。車種によっては3列のシートを備え、多人数乗車を可能にしたSUVもある。
ほかのカテゴリーを見ると、クーペやセダンは外観はカッコ良くても車内が狭く、ミニバンは実用的な代わりにデザインや走りのスポーティ感覚が乏しい。カッコ良さと実用性の選択を迫られるが、SUVでは両立できるから人気を高めた。
2つ目の理由は、SUVではいろいろなパターンの車種を開発できることだ。
ランドクルーザーのような後輪駆動ベースの4WDを搭載する悪路向けのSUV、ハリアーのような前輪駆動をベースにした舗装路向けのシティ派SUV、RAV4のようにメカニズムやプラットフォームはシティ派のハリアーと共通でも、デザインや機能をランドクルーザーなどの悪路向けに近付けたラフロード派もある。
さらにスバルXVは、インプレッサスポーツをベースに外装をSUV風に仕上げ、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)も200mmに高めて人気車となった。前述のノートオーテッククロスオーバーも、ノートをベースに開発されている。
このように既存の車種を活用することで、コストを抑えて開発できることも、SUVが増えた理由だ。
■本格4WDが少ないワケ
本格的な悪路走破を想定して開発されたSUVは写真のランドクルーザーなどごくわずかだ
しかし、さまざまな形態のSUVが、すべて偏りなく販売されているわけではない。今は大半が前輪駆動ベースのSUVで、後輪駆動ベースの4WDシステムを搭載する悪路向けは、日本車ではランドクルーザー、同プラド、レクサスLX、ジムニー、同シエラだけだ。
冒頭で取り上げたヤリスクロス、ヴェゼル、ライズ、ハリアー、RAV4などは、すべて前輪駆動とそれをベースにした4WDになる。
なぜ前輪駆動ベースのSUVは車種も豊富で好調に売られるのに、後輪駆動ベースは少数派なのか。その背景には複数の理由がある。
まずSUVの歴史を振り返ると、最初は後輪駆動ベースでスタートした。もともとSUVは悪路を走るためのクルマで、ランドクルーザーはトヨタジープの名称で1951年に誕生している。
1970年には軽自動車サイズの悪路向けSUVとして、ジムニーも発売された。これらは初代モデルから現行型まで、一貫して後輪駆動ベースの4WDを搭載する。
また1982年には、三菱がジープの技術を生かした初代パジェロを投入して人気を高めた。これもデザインはワゴン風だが、メカニズムの基本は後輪駆動ベースの悪路向けSUVであった。
1980年代の中盤から1990年代の初頭には、初代パジェロのような後輪駆動ベースのSUVが活発に投入されて人気を高めた。ハイラックスサーフやテラノが好調に売られている。
ところが需要は長続きしなかった。ランドクルーザー、パジェロ、ハイラックスサーフ、テラノなどは、外観は野性的で悪路走破力も高いが、ボディは重く床は高めで小回りの利きも良くない。動力性能、走行安定性、燃費、街中での取りまわし性、乗降性などに不満を感じることが多く、価格は高めだった。
そして抜群の悪路走破力は、日本では真価を発揮させる機会が少ない。国内で4WDを必要とする場面は、キャンプ場などに見られる雨上がりの未舗装路や雪道程度で、4WDが装着されていれば悪路向けSUVでなくても不満は生じなかった。
このような事情で、悪路向けSUVの走破力を過剰な性能と考えるユーザーも少なくなかった。一度購入したものの、乗り替え需要を保ちにくく、悪路向けSUVから離れるユーザーも増えた。
■安くてカッコいい都会派SUVの台頭
1994年発売の初代トヨタ RAV4。都会派SUVの始祖的存在だ
こういった悪路向けSUVの衰退に合わせて、タイミング良く登場してきたのが、前輪駆動ベースのシティ派SUVだ。特に1994年に発売された初代RAV4は、5ナンバーサイズのボディに直列4気筒2Lエンジンと前輪駆動ベースの4WDを搭載しながら、外観をカッコ良く仕上げて運転感覚も楽しい。
しかも価格は159万8000円~189万8000円と割安だ。当時は若年層のクルマ好きも多く、注目されてヒット商品になっている。
1995年には初代CR-Vも発売された。これも2Lエンジンと前輪駆動をベースにした4WDを搭載して、空間効率の優れた5ドアボディを備える。後席と荷室も広かった。前後席を連結してフルフラットにアレンジする時は、後席の座面の角度を変えて、デコボコのないフラットなベッドが得られるように工夫した。
ファミリー層を含めた幅広いユーザーから支持され、CR-VはRAV4と併せて好調に売られた。
さらに1997年には、初代ハリアーと初代フォレスターが発売されて人気車になり、1998年にはワゴンRなどとプラットフォームを共通化した軽自動車のKeiも注目されている。
2000年になると初代エクストレイルが発売されてヒット商品になった。前輪駆動ベースのSUVでありながら、外観は悪路向けSUVに似ていて、荷室には水洗いの可能な処理も施されている。撥水加工シートも用意され、初代エクストレイルは、悪路に乗り入れる実用指向のユーザーからも支持を得た。
これらの前輪駆動をベースにしたシティ派SUVは、外観は野性的でカッコ良く、居住性や積載性も優れている。後輪駆動ベースの悪路向けSUVで欠点とされた取りまわし性や燃費の悪さも改善され、価格はミニバンやセダンと共通化される機能も多いから割安だ。
唯一悪路走破力だけは、悪路向けSUVに勝てなかったが、日本では雪道や短い未舗装路を走破できれば4WDの性能は十分だ。シティ派SUVの4WDでも不満はない。
また2000年頃にはワゴンの人気が下がって車種も減り始めたから、前輪駆動(2WD)のシティ派SUVを購入して、ワゴンのように使うユーザーも増えた。
こうなるとメーカーも、前輪駆動ベースのSUVを活発に開発する。その結果、車種の数も増えて、販売ランキングの上位にヤリスクロス、ヴェゼル、ライズ、ハリアーなど前輪駆動ベースのシティ派SUVが並ぶようになった。後輪駆動ベースの悪路向けSUVは、需要を奪われて車種の数も減った。
■原点回帰!? 本格SUVに人気の兆し
本格派SUVのスズキ ジムニーは登場当時より生産台数を増やしたものの、納期は依然1年近いという人気ぶりだ
ところが最近は、前輪駆動ベースのSUVが売れ過ぎて市場が飽食気味になり、一度衰退した悪路向けSUVが再び注目されている。
例えば悪路向けSUVのジムニーは、2018年の登場時点に比べると生産台数を増やし、1か月の届け出台数は発売当初の1.7倍に増えた。
それでも販売店では「ジムニーのお客様は発売から3年以上を経過した今でも増えており、納期は依然として1年近い」という。ランドクルーザーは「納期は2年以上は確実で、正確には分からない。3年を要するかも知れない」と述べている。
輸入車では悪路向けSUVのジープラングラーが、2021年7~9月の輸入車販売ランキングで5位に入った。6位はフォルクスワーゲンのT-Roc、7位はポロだから、ジープラングラーがコンパクトな定番車種を押さえて好調に売られている。これも以前は考えられなかった販売傾向だ。
SUVの売れ筋は今でも前輪駆動ベースのシティ派だが、新しい原点回帰の販売傾向も生まれている。このように流動的なトレンドがあることも、SUV市場に活気がある証なのだろう。
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みんなのコメント
側だけ良くて動けば良いというのが、日本の車の基準になってきた。
ガチ4WDは高すぎでなんちゃって4WDもどきで事足りる、海外はガチで未舗装路や動力、運動性能を求める需要が高いからね。
ワゴンが欧州や欧米でしっかり残ってて売れるのもうなずける。