2008年、ランボルギーニ ガヤルドはマイナーチェンジを機に「LP560-4」というサブネームを纏って登場した。V10エンジンが直噴化されるなど、「新生」なったことを示していた。Motor Magazine誌はアメリカ・ラスベガスで開催された国際試乗会に参加。アウディR8やポルシェ911ターボとの関係性をも視野に入れた当時の試乗記をお届けする。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年7月号より)
ランボルギーニビジネスを大きく変えたガヤルド
ランボルギーニの自動車製造がビジネスとして成り立つようになったのは、ごくごく最近のことである。1970年代始めに創始者であるフエルッチョ・ランボルギーニが会社を手放してから1999年にアウディによって買収されるまで、ファイティングブルは時代の波に翻弄され続けた。
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設立から45年の月日が経った今、ランボルギーニのビジネスはようやく順調に推移しはじめている。
2002年までは年間わずか250台という規模だったものが、ムルシエラゴやガヤルドといったモデルを世に送り出すことで、今ではその十倍の台数を捌くまでに至った。この3年間における発展が特に顕著で、売り上げは倍に、利益に至っては10倍に達している。
そして、現代のランボルギーニビジネスにおいて最も貢献度の高いモデルはといえば、年間総生産台数の8割以上を占め、バリエーション展開を積極的に推し進めるガヤルドである。
ステファン・ヴィンケルマン社長が「われわれは腰を落ち着けて1年に1車種ずつ、ニュースとなるモデルを増やしていくつもりだ」と常々口にしてきた通り、ガヤルドは、2005年のSEを皮切りに、2006年のスパイダー、2007年のスーパーレッジェーラと続き、そして今年2008年にはマイナーチェンジによるLP560-4が登場している。
ガヤルドの登場は2003年のジュネーブショーだ。アウディ傘下となって初めての新型車となった兄貴分のムルシエラゴが、ディアブロの言わばビッグマイナーチェンジモデルであったのに対して、ガヤルドはボディからシャシ、V10エンジン、パワートレーンに至るまでアウディのテクノロジーとサプライヤーネットワークをふんだんに活用した、正真正銘のオールブランニューモデルである。
いずれのモデルもサンタガタ・ボロネーゼ(ランボルギーニの本社があるモデナ近郊の村)が開発の主導権を握ってはいるが、ドイツの血がより濃くなった(ように思える)ガヤルドが、21世紀のランボルギーニビジネスを大きく変えたといっても過言ではない。
モアパワーと環境性能を両立させた直噴化
LP560-4という新たなサブネームが与えられたが、モデルの基本的な成り立ちはこれまでと同様である。つまり、アルミニウム製スペースフレームとボディのミッドにアウディ由来のV10エンジンを積み、1993年のディアブロVT以来好んで使われているビスカスカップリング方式の4WDシステムとダブルウイッシュボーン式サスペンションを組み合わせている。
後に比較することになるが、アウディR8がガヤルドの兄弟車と言われる由縁も、この成り立ちにみてとれる。ちなみに新たなサブネームは、LPがカウンタック以来のエンジン縦置きミッドシップを、560は馬力を、4は4WDであることを、各々意味する。
スタイリングのフォルムこそ以前と変わらないものの、フロントおよびリアのデザインは、世界限定20台のスーパースポーツのレヴェントンやフラッグシップであるムルシエラゴLP640と同じイメージが与えられた。
フロントセクションはヘッドライトを小ぶりにしつつ大型で攻撃的なフロントエアロバンパーとすることで迫力が増し、リアセクションは横長のライトやアンダーディフューザーなどにより幅広な雰囲気へと大幅にイメージチェンジを果たした。これぞファイティングブル、これぞランボ、というべき存在感が一層強くなったというのが、いちファンとしての感想である。
対して内装の変化は最小限に留まる。ゲージ類がムルシエラゴと同じテイストとなり、「いかにもアウディっぽい」と酷評を受けたセンターコンソールのスイッチデザインが改められた。日本人にとっての朗報は、ようやくナビゲーションシステム(ケンウッド製のHDD2DINタイプ)が装着されたことくらいだろうか。
見栄えの変身度合いも気になるところだが、スーパースポーツカーのマイナーチェンジにおいて注目すべき点は、やはりその中身であろう。
「最高速度と加速、そしてサウンド」という3つの要素がスーパーカーの魅力であるとヴィンケルマン社長が言い放った通り、さらなる高性能を実現する工夫がエンジン、パワートレーン、シャシのすべてに施されている。
まずはエンジンだ。スーパーカーといえども燃費改善や排ガス対策などをおろそかにすることができない今、モアパワーとの両立を図るべく、ついにV10エンジンは直噴化された。
ボッシュとの共同開発による直噴ユニットを積む5.2L V10は12.5:1という高圧縮比を実現して560ps/540Nmを発揮。同時に燃費の改善と、ガス排出量を18%減らす(エンジン単体では15%、その他3%は軽量化やフリクションロス低減、空力で達成)ことに成功した。
コンベンショナルなHパターン6速マニュアル(グラツィアーノ製)と、オプションで2ペダルの6速ロボタイズドミッシンのeギア(マニエッティマレリ製)が選べるのはこれまで通りだが、eギアはSカムによる回転式変速機構を用いた最新世代へと移行した。これにより、微速域でのマナーと変速時間の短縮(新たに追加されたコルサモードにおいてマイナス40%、つまりシフトアップ時で最速120msとなった)を実現しているという。
VT(ビスカス・トラクション)システムもフロントデファレンシャルを中心に改良を受け、足まわりもNVH改善に向けて大幅に進化した。
シャシの基本構成こそ従来と同じだが、ジオメトリーをはじめ新設計のアルミニウム製キネマティックサスにはビルシュタイン製のニューダンパーシステムと新スプリングが組み合わされている。リアアクスルにはトラックロッドを追加。さらにラバーメタルブッシュを採用することで、ライドコンフォート性能とスポーツドライブ性能の両立を図っている。
軽量化も新型ガヤルドのポイントだ。エンジン単体重量が増えたものの、ミッションやフロントデフ、足まわりの軽量化により従来比20kg減とし、パフォーマンスだけでなく燃費や環境性能の向上にも貢献している。
結果、最高速度は325km/h、0→100km/h加速はなんと3.7秒を叩き出すというから、そのパフォーマンスは前期型ベースのガヤルドスーパーレッジェーラを凌ぐものだと言って良さそうだ。
同じグループ内に存在する競合スーパーカーとの関係
ラスベガスで開催された国際試乗会に参加して半日触ってみたが、パワーアップによる速さもさることながら、ライドフィールの質が格段に良くなったことが強く印象に残っている。
まず発進時や車庫入れ時にギクシャクすることがほとんどなくなった。アシの動きがスムーズになり、いかにもスーパーカー的な硬さはあるものの乗り心地が相当に良い。
依然としてVTを速く走らせようと思えば独特なテクニックが要求されるが、フロントの食いつきが増し、その動きも素直に伝わってくるから、従来に比べると一層扱いやすくなった。
そんなわけだから、加速フィールに恐怖感やスリルは皆無である。それ故、腰を抜かすほど速いとは思わなかったが、速度計を見れば知らないうちに信じられない領域にまで達していて、それに驚きアクセルペダルにおいた右足を上げてしまうほどだった。
そうなるとまず疑問に思うのは、兄弟車とも言うべきアウディR8との関係である。Sカムeギアの採用でライドフィールは全般的にR8を上回る。もちろん、R8も今後、どのような形式であれ進化を果たすだろうから、あくまでも現時点での話だが、価格帯が違うとはいえ、もう少し異なる刺激のクルマであってもいいのではないか。
もっと言えば、以前にも増してポルシェ911ターボに近い存在となった。911ターボとパフォーマンスで互角、扱いやすさやGT性能でも互角、となれば、この同門3つ巴のスーパーカー合戦をスポーツカーファンはどう捉えておけばよいのだろうか。ブランドイメージが異なる、価格帯が違う、つまりはユーザー層が違う、が果たして通用するのだろうか。
その答は、恐らく、ランボルギーニ自身が新型ガヤルドの派生モデルでまず世に問うことになるだろう。(文:西川 淳/Motor Magazine 2008年7月号より)
ランボルギーニ ガヤルド LP560-4 主要諸元
●全長×全幅×全高:4345×1900×1165mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:560ps/8000rpm
●最大トルク:540Nm/6500rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AMT(e-gear)
●最高速:325km/h
●0→100km/h加速:3.7秒
※欧州仕様
[ アルバム : ランボルギーニ ガヤルド LP560-4 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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