ヤリスの回転シートは
運転席にも助手席にも装備可能
フィットの発売時期が遅れたことで、ガチガチのライバルであるヤリスとほぼ同時に販売がスタート。これまでの受注台数や販売台数を見るとほぼ互角の戦いを繰り広げている。両者を比較してもガソリンエンジン仕様とハイブリッド仕様を設定していて、価格設定までよく似ているから、両社の販売戦略のしたたかさを感じる。
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装備もよく似ていているが、今回注目したいのは前席の乗り降りが楽になる回転シート。ヤリスはトヨタ初(福祉車両以外)の「ターンチルトシート」を前席に装備してきた。これはおもに女性向けの装備で、シートが回転することで足をそろえたままでも乗降がしやすいというのがポイント。さらに回転しながらチルト(10度傾く)するためスカートをはいているときや和服を着ているときでもスマートに乗り降りできる。もちろん、足腰が弱った高齢者など乗降が大変という人にも優しいシートだ。
●ヤリスのターンチルトシート
操作は簡単でスライドレバーを引いて席を後方に下げて、サイドの専用回転レバーを引くと席が回転する。次に足を車外に出してもう一度レバーを引くと、さらに回転して乗降しやすいポジションになる。回転させてチルトした後のシートは、背もたれを軽く押すことで車内に簡単に戻すことができる。
●ヤリスはターンチルトシートを助手席にもオプション設定
ヤリスがスゴイのは、このターンチルトシートをZ系グレード以外の運転席と助手席にオプション設定していて、両席セット(一部グレード)で装着することも可能だ。価格は運転席が8万8000円、助手席が9万200円、両席セットで17万6000円。セットのほうが少しだけ安く設定されている。女性だけでなく、足腰が弱った人を助手席に座らせるときに便利なオプションだ。
フィットは助手席のみに回転シート
折り畳み式のステップも用意
対するフィットは、ノーマル車のグレード設定では回転シートは紹介されていないが、福祉車両としてラインアップされている。福祉車両という目的のため回転するシートは助手席のみに設定され、運転席には設定されていない。ここがヤリスと大きく異なる点だ。フィット用は福祉車両だからヤリスとはやや仕様が異なっていて、助手席には足を置くための折り畳み式ステップが装着されている。シートの取り付け位置や回転軸の位置などを最適化することで、ドアとシート先端の間隔を確保しているという。
●フィットの助手席回転シート
●フィットは折り畳み式のステップを用意
シート形状も専用でクッション先端の形状を滑らかにすることで、乗降時の下半身の移動をラクにしている。座面中央をやや持ち上げることでヒップのズレも抑制しているという。このように回転シートまでガチガチのライバルなのだ。
ただしフィットの助手席回転シートは、ヤリスと違い前後のシートスライドができない。そのためクルマに乗り込んでもシート位置を後方に下げることができないため、やや足元が狭くなってしまう。ヤリスは両席ともに前後スライドが可能で回転までできてしまう。
どこからどこまでが
福祉車両で非課税になるの?
ここで少し福祉車両を説明する。体の動きが不自由な人や障がいを持っている人がクルマを運転したり、移動することを目的にしている。そのため障がいの程度などに合わせていろいろなバリエーションが用意されていることが多い。運転するための補助装置は多くのモデルに取り付けることができるし、ミニバンや1ボックスのようなボディタイプは、車いすのままで乗車することが可能だ。
ヤリスは通常グレードにオプションとして回転シートを装備することができるが、別に福祉車両も設定されている。トヨタは福祉車両を「ウェルキャブ」と呼び、ヤリスには「車いす収納装置付車」が設定されている。リヤのラゲッジスペースに専用のリフト機能が付き、重い車いす(35kgまで)でもラクに収納することができる。ヤリスの場合は歩行に支障があり、車いすで移動するユーザ向けの仕様のため前席にはクルマに乗り込みやすくする回転シートも付けられている。
●回転シートだけでは非課税にはならない
ヤリスは助手席ターンチルトシートのタイプIと、助手席に加えて運転席にもターンチルトシートを備えたタイプIIを設定。タイプIは車いすを使う障がい者が助手席に乗って移動するためのモデルだが、タイプIIは運転手もクルマの乗り降りが少し不自由という人向けだ。
このように回転できるシートが付いていると便利だが、ヤリスはオプションでフィットは福祉車両。もしかしてヤリスのノーマルグレードに回転シートを付けた仕様は消費税が課税されるが、福祉車両のフィットは非課税扱いかも、と思った方も多いだろう。確かに福祉車両の多くは消費税が非課税で障がい者ではない人が購入しても課税されない。だがヤリスとフィットは課税される。ただし、ヤリスの車いすを収納する機能を備えた回転シート車は福祉車両と認められ非課税扱いになる。
なぜ回転シートは非課税ではないのか
福祉車両の非課税かどうかの分岐点とはどこからだろうと不思議に思う方も多いだろう。これはクルマの歴史に関係している。
●1984年に登場した2代目アルト。このクルマに回転シートが用意されていた
じつは運転席回転シートは、1989(平成1)年の消費税が導入される以前に、すでにスズキ アルトに設定されていたのだ。1984年に登場した2代目アルトの一部グレードに運転席回転シートがあり、当時美脚モデルとして絶大な人気があった小林麻美をCMに起用。「麻美のアルト」のフレーズを聞けば、思い出す人も多数いるだろう。アルトもヤリスと同様にスカートの女性が“パンチラ”を気にせずに乗降できることをアピールしていた。この普通のクルマに付けたことで、後に一般的になる福祉車両に影響を及ぼすとは開発者を含めて思いもよらなかったはず。
その後、消費税が導入され、福祉車両は消費税の対象から外れることになったが、すでに一般車用に回転シートがあったため、この機能だけでは非課税とはならなくなってしまった。現在は高齢ドライバーが多くなり社会問題化しているが、クルマというパーソナルモビリティをいかに安全に長く乗ることができるかということも重要な点だ。そうした観点で見るとヤリスやフィットのような回転シートも、福祉車両に含めて非課税にすることが望ましいと思う。
〈文=丸山 誠〉
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