小さくパワーも少ないクルマが、大パワー車を打ち負かすシーンは痛快だ。そりゃあ、直線が続くコースでは大パワー車に打ち勝つことは難しいけれど、クネクネタイトターンの細い山道などでは、大柄な車体の大パワー車は力を持て余してしまい、軽くコンパクトな小パワー車にぶっちぎられる……なんてシーンもある。
トップの写真は、「プロドライバー山野哲也氏、アルトターボRSでGT-Rを抑え込む」の図だ。アルトターボRSのエンジンは直3、658ccターボで最高出力64ps、最大トルク10.0kgm。対するGT-Rはといえば、3.8L、V6ツインターボで570ps/65.0kgmという大パワー。パワー差約9倍、トルクは6.5倍の差がある。
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まさに「小よく大を制す」を体現するバトルとなったわけだが、その詳細や山野氏のお話を交えながら、すぐそこまできている「小パワー&小サイズのクルマたちの時代」についてお話ししてみたい。
※本稿は2017年のものです。
文:ベストカー編集部
写真:池之平昌信
取材協力:茂原ツインサーキット(0475-25-4433)
初出:『ベストカー』2017年10月26日号
GT-Rを引き離すアルトターボRS
「でもね、ボクがずうっと参戦しているジムカーナなんか、パワーよりも軽くてキビキビ走れるクルマのほうがタイムよかったりするからね」
マシンコントロールの天才、山野哲也は言う。
「アルトターボRS、初めて乗ったけれど、いま走った茂原ツインサーキットのショートコースだったら、GT-Rといい勝負だと思う」と証言。
「GT-Rはもちろんものすごくよくできたハイパフォーマンスマシンで、1760kgという車重や、見た目の大きさからイメージするほど鈍重ではありません。コース幅が狭く、タイトターンが連続するコースでも、思った以上にキビキビと走ることができました。でも、アルトターボRSはとにかく軽くてスパスパッとS字の切り返しなど走ることができて、コーナーの立ち上がりもタービンが小さいためか、ターボラグも少なくシュッと加速する。GT-Rはやっとターボが効いてきたと思った瞬間アクセルオフしてフルブレーキングなのですが、アルトはストレスなく次のコーナーに切り込んで行けちゃうから気持ちいいんです」
さすがにGT-Rが先頭でのバトルではアルトターボRSが引き離されそうになっていたが、逆にアルトの前走りでバトルしてみると、GT-Rはアルトに付いていくのが精いっぱい。まさに「小よく大を制す」痛快なシーンが茂原ツインサーキットで繰り広げられた。
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もちろんこれはヤラセなどではない。あえてタイトターンが連続するカートコースを選んだのだが、コースによってはこんなことも実際に起こるのだから面白い。直線は短く、2速にシフトアップしたらすぐにブレーキングというようなコースだからこそ、パワーが9分の1しかないアルトターボRSが軽くコンパクトなボディを生かし、GT-Rから逃げ切ることができた。
そして、これはこのバトルのみにあてはまる結果では決してない。
この先、自動車界は日本のみならず世界的にも二極化がさらに進むことになる。
これまでずうっと拡大、拡大と、大きいことこそが正義だと言わんばかりに、日本のクルマも大きく、排気量も拡大してきた。それこそレクサスLCやNSXのような、大パワーユニットを搭載する大型スポーツモデルや、レクサスLS、海外だったらベンツのSクラスのような大型サルーンが消えることはないだろう。
しかしそのいっぽうで、使い勝手に優れ燃費もいい、小排気量を搭載したコンパクト車が次々と登場する。しかも「小さい=廉価版」ではなく、排気量やボディサイズにとらわれない新たなカテゴリーとして、『小』が存在感を放つ時代となるだろう。
スズキは20年ぶりにジムニーをフルモデルチェンジした(2018年7月)。SUVが大きく高級車になっていく最近の流行とは真逆の方向性だが、新時代のジムニーに対する期待は大きい。トヨタのヤリス4WDや、ホンダが開発を進めるS1000にも期待したい。
大サイズ&大パワーに引けを取らない、小パワー&小サイズのクルマたちの時代がやってくるのだ。
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