電気自動車(EV)の普及に対し懐疑的な意見はまだ多い。しかし、日産が開発・販売するEV「リーフ」は、2010年の登場以降、世界累計約32万台の販売実績を残す。うち、日本国内は約10万台だ。また、シリーズハイブリッド技術「e-POWER」を開発。「ノート」や「セレナ」に搭載し、販売台数を大きく伸ばした。
ほかにも、超小型EVモビリティ「ニューモビリティコンセプト」を2010年にリリースしている。こちらは、アライアンス関係にあるルノー(フランス)が開発した「トゥイージー(Twizy)」がベースだ。それ以前にも日産は、「ハイパーミニ」と呼ぶ2人乗りEVを2000年に開発し、カーシェアリングの実証実験に提供した。
“S“の刺激はダテじゃない!──ニッサン ノート e-POWER NISMO S試乗記
つまり日産は、早い時点からEVに積極的であったのだ。背景にあったのは、ハイブリッドモデル(HV)への出遅れである。トヨタが「プリウス」をリリースしたのは1997年だったが、日産のハイブリッドカー登場はそれから遅れること3年の2000年だった。
ようやく登場した「ティーノ ハイブリッド」は100台限定、かつインターネット販売のみの特殊な販売形態で、とても一般的なモデルではなかった。以降、しばらくのあいだ日産からハイブリッドモデルは登場しなかった。ちょうどこの時期の日産といえば、カルロス・ゴーンがCOOに就任し、再建計画である「リバイバルプラン」推進の真っ最中。HV市場の未来が不透明な時期だっただけに、新たな投資は難しかったのだ。
一方、日産はEVに適していると言われるリチウムイオンバッテリー開発で、ソニーとともに早くから取り組み、トヨタがニッケル水素バッテリーを実用化しプリウスに搭載してもなお、リチウムイオンバッテリーの開発を続けた。さらに、NECとともにバッテリー生産会社を設立したため、EVの早期開発・導入に結びついた。これにより、HVで出遅れた日産は、EVで一気に巻き返しを図ったのだ。
とはいえ、滑り出しは順風満帆といかなかった。短い航続距離と充電設備といったインフラの未整備が大きなネックだった。それも年を追うごとに改善されていき、今では日常生活で困らない程度にEVライフを送れるようになった。
くわえて、2015年に起こったフォルクスワーゲンのディーゼル排ガス偽装問題や、フランスとイギリスが「2040年にエンジン車販売を禁止する」と表明したことも追い風になり、EV普及に向けた流れがより加速。これにともない、リーフをはじめ日産のEV事業はますます注目されるようになった。
とはいえ、EV普及にともなう課題は多い。ひとつはバッテリーのリサイクルだ。これについて、日産は早い段階で専門会社「4R(フォーアール)エナジー」を立ち上げた。創立は、初代リーフ発売前まで遡る。
当時日産社内では、「リーフ発売によってEVが普及した場合、中古バッテリーの処理をどうすべきか?」と、すでに問題視していたという。結果、リーフ発売前に4Rエナジー社設立に踏み切ったのだ。
ちなみに社名にある“4R”は、「Reuse(リユース)」(再利用)、「Resale(リセール)」(再販売)、「Refabricate(リファブリケート)」(再製品化)、「Recycle(リサイクル)」(再循環)の頭文字からである。
EVとしての使用寿命がきたリチウムイオンバッテリーも、バッテリー最大容量の約7割まで蓄電出来るため、定置型蓄電池などほかの商品としては十分使用に耐えうる。だから、単に廃棄するのではなく、4Rエナジー社が再製品化し販売するのだ。
設立から8年を経た今年4月、4Rエナジー社は福島県浪江町にバッテリーの再製品化工場を立ち上げた。ここでは使用済みになったリーフのバッテリーを再製品化する。
ただし、バッテリーの再製品化も課題が山積みだった。もっとも難しかったのは、リチウムイオンバッテリーの性能確認である。当初、性能確認になんと16日も掛かっていたそうだ。それでは商売にならない。
あまりにも長い確認期間を短縮すべく、技術開発に取り組み成功。半分の時間で確認出来るようになった結果、中古リチウムイオンバッテリー事業が本格化した。現在、1台のリーフから取り出した使用済みリチウムイオンバッテリーを3つの等級に分け、性能を揃えて再製品化する。Aグレードは中古EV向けの積み替え用、Bグレードはフォークリフトなどの電動車両用、Cグレードは定置型の装置(蓄電器など)用といった具合だ。Cグレードといえども、車両には不向きであるが、たとえばスマートフォンへの簡易充電器などとして十分に役立つ。
トヨタは先般、プリウスで使い終えたニッケル水素バッテリーを定置型の電源として、セブン-イレブンの店舗に設置する実証実験を開始した。しかし、バッテリーの性能検査やグレード分けまでにはいたっていない。
ほかにも日産は、2011年の東日本大震災を受け、EVから家庭へ電気を供給する「リーフ・トゥ・ホーム」を翌2012年に実用化し、一般向けに販売開始した。ちなみに欧州の自動車メーカーのEVやプラグインハイブリッド車(PHV)は、今なおクルマから社会への電力供給は実現していない。
日産は世界にさきがけ実用的なEVを市販したことで、EVにまつわる数々の知見を得るとともに、エンジン車やHVでは実現できないような社会基盤としての役割にまで視野を広げているのだから凄い。
リーフをこれまで購入した世界32万人の顧客から、現実的な情報を入手しているのは相当な強みである。これから先、EVの研究・開発において日産は間違いなく優位にある。くわえて、販売された32万台のバッテリー事故が“ゼロ”の実績も、今後のEV開発に大きく貢献するはずだ。
EVにまつわる日産の実力はまだ世間に広く認知されていないように思う。しかし今後、世界中でEVの普及が進むにつれ、力量の差が明らかになっていくのではないだろうか。日産の未来に期待したい。
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