はじめに
第4世代のA8が、アウディの最新スーパーサルーンとして、またテクノロジー面のフラッグシップとして登場してから、およそ3年が経過した。しかし、これまでロードテストの遡上に載せる機会はなかった。今週、いよいよその状況が変わる。
とはいえ、年内にはメルセデス・ベンツがSクラスをフルモデルチェンジする見通しだ。今回のテスト結果がどうなろうと、この巨大で見栄えのみごとなアウディが前途多難であることに変わりはない。
これからテストの模様をお伝えするのは、A8の32年にわたる歴史においてはじめて、プラグインハイブリッドパワートレインを積んだバージョンとなる60 TFSIe クワトロだ。
現行A8はすでに、数多くの先進技術を導入している。自動運転は、同一車線内での速度調整や進路操作ができるレベル3を達成。アクティブサスペンションは前後左右のストロークを予測し、各輪に配したアクチュエーターで独立制御して不整路面でもスムースな乗り心地を実現する。
これらの運用は、最新の制御システムであるzFASと、車体の各部に散りばめられた24ものセンサーとカメラがあればこそ。それらはいわば、クルマに与えられた頭脳と感覚器だ。
予測制御は、自動運転や乗り心地改善にとどまらない。衝突が予測される場合にぶつかるである側の車高を上げ、ドアより丈夫なサイドシルで対象を受け止めるなどという芸当も可能にするのだ。そしてどれも、小手先の開発で実用化できるようなものではない。
そうした革新的テクノロジーに加えて、今回のA8には高性能なパワートレインが備わっている。ガソリンユニットと電気モーターを組み合わせ、巧妙にコントロールするハイブリッドシステムだ。
とはいえ、Sクラスの牙城に挑もうというサルーンに必要な基本要件は、そうしたハイテクではない。世界的にみて屈指の静粛性や、抜群に洗練された乗り心地だ。
A8はいまだかつてこの強力なライバルを脅かすに至ったことはなく、しかしインゴルシュタットの面々はそれを熱望しているに違いない。2020年半ばにあって、アウディの旗艦モデルの現在地は、どこまでシュツットガルトの金字塔に近づくことができているのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
プラグインハイブリッドを擁する今回の60 TFSIeと、571psのV8を積むS8の登場には、現行A8の発売から3年ほど待つこととなった。アウディはもっとも興味をそそられるバージョンを、最後までではないにせよ、かなり出し惜しみしていたわけだ。
このもっとも燃費がいいA8は、3.0Lで340psを発生する既存のV6ガソリンターボと組み合わせたパワートレインを搭載。これに、8速トルクコンバーターATのハウジング内に収めた136psの電気モーターを組み合わせる。
そのスペックは、最高出力が449ps、最大トルクが71.3kg-mで、パフォーマンスの点ではS8に遠く及ばない。駆動トルクは可変配分式だが、常に四輪へ伝送されるフルタイム4WDだ。
駆動用電源は、荷室床下に積載された14.1kWhのリチウムイオンバッテリー。ドライバーはまず、その電力のほとばしりを、ドライブトレインを通して知ることになる。始動すると、60 TFSIeは静かに目を覚まし、モーターのみで走り出す。大人しくスロットルペダルを操作すれば、最高で135km/hまではゼロエミッション走行が可能だ。
モーター単体以上の推進力がほしいとなれば、これにエンジンが加わることになる。しかし、バッテリーがフル充電なら、航続距離が公称46kmという電力走行が優先される。そのため、このA8をEVのように走らせるのは難しい仕事ではない。
もちろん、1台のクルマにふたつのパワーソースを詰め込むことには、ネガティブな面もある。このプラグインハイブリッドのロングホイールベース版A8、車両重量は2330kgで、V6単体のA8を335kg上回る。しかも、直接の競合モデルといえるメルセデスのS 560eやBMWの745Le xドライブ より重いのだ。
さらに、エアサスペンションに支えられるボディはライバル2台よりも長いのだが、ホイールベースと荷室容量では下回っている。このパッケージも驚かされるところだ。
内装 ★★★★★★★★☆☆
ライバルたちもそうなのだが、最上級グレードであっても、インテリアの変更は表面的な仕立てだけで、専用に設計しなおすということはしていない。だから、A6やA7との差別化がはっきりみてとれる。
たとえダッシュボードの、センターコンソールの2箇所とメーターパネルを埋めたディスプレイにほとんどの機能を集約しているといった要素が、下位モデルと共通していてもだ。
曲線や曲面を多用したSクラスや、スポーティさと高級感で訴求する7シリーズに比べれば、A8のキャビンは飾り気や遊び心が控えめでビジネスライクな印象。オーナードライバーより、ショーファードリブンでより歓迎されそうだ。
ところが夜になると、その印象が一変するようなおもしろみのある空間になる。キャビンを囲むように埋め込まれた細い照明のラインは、どの色を選んでも熱気ある雰囲気を醸し出してくれるのだ。
A8に乗って、スペースや快適性が足りないと思うひとはいないだろう。とくにロングホイールベース版なら、後席のレッグルームは130mm延長され、その広さはメルセデスやBMWのライバルすら凌ぐ。
4ゾーンエアコンや前後の電動調整式シートは標準装備で、後席にもディスプレイを用いたコントロールパネルが据え付けられている。さらにロング版には、電動サンシェードも備わる。
ドライバーズエイドもまた充実。たとえば予測機能付きナビゲーションは、ジャンクションやラウンドアバウト、制限速度の低下などを検知すると、その手前でクルマを自動的に減速させる。
多くの電動化車両がそうであるように、室内環境を乗車前に調整しておくこともできる。操作は、スマートフォンアプリのマイ・アウディを介して行える。
これもプラグインハイブリッドにありがちだが、バッテリーはトランクの床下に設置。そのため、積載容量は非ハイブリッドモデルの505Lから、390Lへ大幅に目減りしている。これはA4と比較してもかなり小さく、しかもこのA8ではリアシートのフォールディング機構が備わらない。
走り ★★★★★★★★★☆
高級サルーンにとって、パフォーマンスについて語る場合、論じられるべきは加速や制動のタイムといった絶対的な数値だけではない。デリバリーの性質もまた重要になってくる。むしろ、そちらのほうが重視されるといってもいい。
3.0LターボV6と電動モーターがともにマックスまで性能を発揮すると、このA8 L 60 TFSIeは2330kgの車重をものともせずに、発進から5秒以下で100km/hに到達する。だが、それがもし手に負えないスクランブル発進のような加速だったなら、このクルマのまさにレゾンデートルが揺らいでしまう。
幸いにも、この新たなパワートレインのパワーとトルクのデリバリーは、エレガントでコントロールの効いたものにほかならない。電気モーターのあまりあるアシストがあって、スロットルレスポンスは速く、そこから推進力が思った通りに、そして望めば迅速に増していく。
とはいえ、71.3kg-mものシステム最大トルクがたった1370rpmから発生するのだから、回転計の針が2000rpmを超えることはそうそうない。この回転域なら、二重ガラスに囲まれた金庫のようなキャビンで、エンジンの仕事ぶりを感じ取ることはまずないはずだ。
フルスロットルでは、ディーゼルとは違って甘美なエンジンサウンドが、驚くほど響き渡るのを味わえる。もっとも、745Leの直6サウンドほど耳を楽しませてはくれないかもしれないが。
ただし、この手のクルマのほとんどはショーファードリブン的な使われ方をするだろう。控えめな速度で走ることも多いだろうが、そこではアウディが電力走行のセッティングに精通しているとよくわかるはずだ。
ひくついたり、反応が遅れたりすることはなく、作動の複雑さを教えるような音もほとんど聞き取れなかった。8速ATの変速も上々で、流れが明らかに途切れるようなことは皆無だ。
燃費については、45kmを謳うEV走行のポテンシャルをどう使うかに左右される。バッテリー残量なしで、高速道路を8速で流した場合、テスト車がマークした燃費は12.4km/Lだった。
使い勝手 ★★★★★★★☆☆☆
インフォテインメント
アウディのMMIシステムの最新版には賛否両論あるが、それにはもっともな理由がある。
インフォテインメント用の10.1インチとエアコン用の8.6インチ、2面のディスプレイを上下に並べたレイアウトは、ギミック好きにはウケるはずだ。
しかし、実体スイッチを徹底して排除したことで、走行中の素早い操作が難しくなり、しかも画面上に指紋が残ることが避けられない。7シリーズのダイヤル式コントローラーのほうが、その点ではずっと楽だ。
実のところ、ナビゲーションのメニューに関していえば、高精細のグラフィックや操作を助ける指先へのフィードバックも、MMIがBMWのiDriveほど直感的でないことをカバーしきれない。ただし、コネクティビティは範囲が広く、Amazon Alexaも含む。
テスト車は、コンフォート&サウンドパッケージ装着車だった。これに含まれるバング&オルフセンのオーディオは、装備する価値のあるアイテムだ。
操舵/快適性 ★★★★★★☆☆☆☆
もしもシームレスなパフォーマンスが優れたサルーンに期待される要素なら、根本的な概念そのものの浮沈を決めるのは乗り心地だ。
悲しいかな、45扁平タイヤと精巧なエアスプリングをもってしても、このクルマが路面の凹凸や波打ちを思った以上に拾ってしまうのを隠しきれてはいない。
ボディの上下動はうまく処理してくれる。問題はセカンダリーライド、つまりは細かい振動や突き上げだ。過敏で、ストラットが唐突な負荷を吸収してほしいところでは強く叩かれるような衝撃が出てしまう。
英国の公道は常に、こうした部分を試してくる。このA8のサスペンションが140kgほどあるバッテリーの重量に対処するべく根本的に改修されていても、おおむねスムースなドイツのアウトバーン向けのセッティングだとしても、結果は残念なものだったというしかない。
それ以外の部分は悪くない。速度感応式でギア比は速くないステアリングは軽いが十分に正確で、このクルマの走りにフィットしている。
ハンドリングのバランスは、フルタイム4WDでありながら間違いなくフロント優勢。それでも、ダイナミックモードでそれなりに飛ばしても、コントロールを失う心配をすることなく操作できる。
ストロークの長いサスペンションは、上下と横方向のコントロールが同時に要求されると瞬間的に振動を発生させる傾向がある。たとえば、コーナリング中に凹凸があった場合などがそうだ。それでも、大柄なアルミボディは、頼もしいまでに動きを抑えられている。
ただし、総じてA8には、Sクラスのように走行中の外乱を遮断したエレガントさも、7シリーズを脅かすような走りの魅力もありはしない。
エンジニアリング的には、世界トップレベルの高級サルーンになれる要素が十分ある。にもかかわらず、アウディはこのA8をどのような立ち位置にしたいのか、それを決めあぐねているように、われわれには思えてならない。
購入と維持 ★★★★★★☆☆☆☆
英国では支給された社用車に対する税額が、車両価格に応じて決定される。A8 60 TFSIeの場合は税率がEVなどに近い15%で、A8のラインナップの中では突出して低い。ただ、ライバル車にも同等の仕様は存在する。
たとえばS 560eだが、これは基本的に今回のA8より出来がいい。その代わり、価格は9万7490ポンド(約1365万円)と、1万ポンド(約140万円)以上高いのだが。
自家用車とするなら、気になるのは残価率だ。これはアウディもメルセデスも、3年・5.8万km走行後の予想値が30%程度でほぼ変わらない。しかし、8万5260ポンド(約1194万円)のBMW 745Leは今回のA8より安価なうえに、残価率は3台中でもっとも高い38%と予想されている。
このミュンヘン代表、英国内でのテストはまだ実施していないが、国外で試乗した経験からいえば、乗り心地も走りの魅力もインゴルシュタットの旗艦を凌いでいる。3台の比較テストは、なかなかタフな戦いになるだろう。
スペック
レイアウト
A8のプラットフォームは、フォルクスワーゲングループで広く使われるMLBエヴォ。Q7やQ5、ベントレー・ベンテイガやポルシェ・カイエンといったSUVとも共通のコンポーネントだ。
ボディはアルミニウムとスティール、マグネシウム、カーボンFRPを混成。サスペンションは3チェンバーの車高調整式エアスプリングを備える。
新型A8は48V電装システムを採用しているが、60 TFSIeは車体後部に14.1kWhのバッテリーを搭載した。
エンジン
駆動方式:フロント縦置き四輪駆動
形式:V型6気筒2995cc、ターボ、ガソリン、電気モーター
ブロック/ヘッド:アルミニウム
ボア×ストローク:φ84.5×89.0mm
圧縮比:11.2:1
バルブ配置:4バルブDOHC
最高出力:449ps/5000-6400rpm
最大トルク:71.3kg-m/1370-4500rpm
許容回転数:6250rpm
馬力荷重比:193ps/t
トルク荷重比:30.6kg-m/t
エンジン比出力:114ps/L
ボディ/シャシー
全長:5302mm
ホイールベース:3128mm
オーバーハング(前):989mm
オーバーハング(後):1185mm
全幅(ミラー含む):2130mm
全幅(ミラー除く):1945mm
全高:1486mm
積載容量:390L
構造:アルミニウム、モノコック
車両重量:2330kg(公称値)/-kg(実測値)
抗力係数:0.26
ホイール前・後:9.0Jx19
タイヤ前・後:255/45 R19 104Y XL
スペアタイヤ:なし
変速機
形式:8速AT
ギア比/1000rpm時車速〈km/h〉
1速:4.71/9.8
2速:3.14/14.6
3速:2.11/21.9
4速:1.67/27.7
5速:1.29/35.9
6速:1.00/46.2
7速:0.84/55.0
8速:0.67/69.2
最終減速比:3.08:1
燃料消費率
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:34.5~38.5km/L
燃料タンク容量:65L
バッテリー容量:14.1kWh
現実的な航続距離:644km
EV航続距離:46km
CO2排出量:60g/km
サスペンション
前:マルチリンク/エアスプリング、スタビライザー
後:マルチリンク/エアスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動アシスト機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:-回転
最小回転直径:12.9m
ブレーキ
前:通気冷却式鋳鉄ディスク(サイズ未計測)
後:通気冷却式鋳鉄ディスク(サイズ未計測)
各ギアの最高速
1速:61.2km/h(6250rpm)
2速:91.7km/h(6250rpm)
3速:136.8km/h(6250rpm)
4速:173.8km/h(6250rpm)
5速:225.3km/h(6250rpm)
6速:249.4km/h(5404rpm)
7速:249.4km/h(4534rpm)
8速(公称値):250.0km/h(3604rpm)
8速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):1628rpm/1860rpm
結論 ★★★★★★★☆☆☆
どんどんマッチョになるエクステリアデザインや、最近のマーケティングにおけるクワトロ4WDの強調ぶりに目を奪われがちだが、アウディのコアとなる魅力は伝統的に声高でなく新しいことを採り入れる点にあった。
その点でいえば、4代目A8は原点回帰した印象がある。プラグインハイブリッドシステムはふたつのパワーソースを巧みに使いこなし、状況をモニターしてドライバーによりよい決定を下すよう促すAIとシャシーの電装系はじつに複雑だ。
それらが伝えてくる全能ぶりや安心感は、けっして見過ごしにはできない。このアウディの冷めた感じに、無駄遣いすれすれの贅沢な質感が加われば、たまらなく魅力的だと思えるだけの明らかな理由がたしかに見出せる。
しかし同時に、シュツットガルト方面、すなわちSクラスにも目移りする要因もまたある。それは、スタンダードな仕様であっても不整路面の扱いに苦労するA8が、重いバッテリーを積んだことでその欠点を悪化させているという事実にほかならない。
早い話、世界レベルの高級サルーンが備えているべき快適性が、このクルマには欠けているのだ。われわれとしては、とてもおすすめできるものではない。
担当テスターのアドバイス
リチャード・レーンこのクルマ、ブレーキパッドを交換することになるとは到底思えない。0.3Gまでのブレーキングは、モーターの逆回転で事足りてしまうからだ。よほどの急ブレーキでもない限り、これ以上の減速Gに達することはまずない。
マット・ソーンダースレーンキープアシストをオフにしたくなるときがあるはずだ。これほど幅の広いクルマであれば、車線を跨ぐことが少なくないので、しょっちゅう作動してしまう。そんなときは、ワイパーレバーの先端にあるボタンを押そう。
オプション追加のアドバイス
テスト車はオプション少なめながら装備水準はすばらしい。欠けていたのはエレガントさだ。明るい色合いのレザー内装とユーカリのウッドパネル、パノラミックグラスルーフを付けたいところだ。
改善してほしいポイント
・これほど大きなサルーンなら、バッテリー容量を拡大して、EV走行距離を延ばせるはずだ。
・セカンダリーライドは改善の必要がある。ライバルに比べると不満を感じる。
・インフォテインメント系の実体スイッチは、すべてとはいわないが復活させてほしい。
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