EVを登場させることはむしろ原点回帰
2018年6月、ポルシェが同社としては初めてとなる純粋な電気自動車に「タイカン」という名前を与えると発表して以来、ファンの間にモヤモヤした感情が生まれているようだ。
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2つのモーターを搭載することで、600馬力(440kW)を超えるシステム最高出力を発生するといっても、そして0-100km/h加速タイムは3.5秒以下、0-200km/h加速タイムは12秒を下回るとアナウンスされても、ハイブリッドではない完全な電気自動車(つまりエンジンを積んでいないということだ)をポルシェが出すことに、どこか反発する感情があるのだろう。
とはいえ、「ローナー・ポルシェ」と称される20世紀初めに生み出された電気自動車があるのもまた事実。これは、ポルシェの創始者であるフェルディナント・ポルシェ氏が若かりしころ、主任設計士を務めていたローナー社で生み出した電動車両の総称だ。前輪駆動のインホイールEV、その発展形としてのインホイール4WD、さらに発電用エンジンを積んだシリーズハイブリッドなどさまざまなバリエーションが確認されているが、当時まだ20代だったフェルディナント・ポルシェ氏によるクルマ作りの原点が電動車両にあったことは歴史的な事実だ。
つまり、ポルシェのヒストリーから考えるフィロソフィーとしては、電気モーターによる駆動はごくごく自然なことであり、非難することでもなければ悲観する必要もない。「ローナー・ポルシェ」が世界初のハイブリッドカーと喧伝されることで、ポルシェにとってエンジンは欠かせないと思われている節もあるが、もともとの「ローナー・ポルシェ」は純粋な電気自動車であった。バッテリーの性能不足を補うために発電用エンジンを積んだバリエーションが追加されたに過ぎず、ある意味では妥協の産物であったともいえる。
「タイカン」の航続可能距離は欧州サイクルで500kmを超えるという。それだけのバッテリーと、それを支える急速充電システムが確立したいま、エンジンを取り払うというのは、若き日のフェルディナント・ポルシェ氏が目指した方向性を受け継ぐものであり、まさに正統的なコンセプトといえる。
エンジンを失ったからといってポルシェでなくなると言えないどころか、エンジンを降ろすことこそ、ポルシェのクルマ作りにおける原点回帰と言っても過言ではないのだ。
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