■まるで高級セダンのような開発コンセプト。常識を覆し原2クラスで大ヒット!
2009年に誕生し、日本では2010年に販売を開始した「PCX」は、ワンランク上の上質感とコンフォート性で人気を博し、原付二種スクーター市場を活性化させてきました。開発キーワードは“Personal Comfort Saloon(パーソナル コンフォートサルーン)”で、まるで高級セダンのよう。原2スクーターに使われるなんて、「PCX」登場前なら想像もできませんでした。
ホンダ「フォルツァ125」新型登場 プレミアム感と空力性能の向上を両立した原付二種スクーター
低価格で速い、それが原2スクーターに求められる必須条件と思っていたところに、高級感や快適性、先進性も加わってきたから30万円超えでも大ヒット。ホンダ開発陣は時代を先読みしていたと言えるでしょう。
2012年に高出力と環境性能を高い次元で両立する「eSP(enhanced smart prwer)」エンジンを搭載し、速度レンジの高い郊外や高速道路も視野に入れた排気量150ccモデルもラインナップに追加。2014年には全灯火器をLED化し、2018年にはフレームをアンダーボーン構造からダブルクレードル式に刷新し、ハイブリッドモデルと電動エレクトリック車も登場しました。
売れる機種ですから、スポーツモデルのようにどんどん進化していきます。ましてやグローバルモデルとして、市場が拡大するASEANや中南米、アフリカはもちろん日本や欧州など成熟市場にも展開できるのですから惜しみなく開発コストもかけられ、どんどん製品がブラッシュアップできるのです。
■フレームもエンジンも大刷新! ライバルの追従を許さない
今回のフルモデルチェンジでは、ライバルの追従は許さないという強い意志を感じます。2年前に新開発したダブルクレードルフレームを採用したばかりなのに、もう完全新設計。開発責任者の大森純平さん(本田技研工業株式会社二輪事業本部ものづくりセンター)によると「フレームボディ単体で760gの軽量化を達成し、各部を構成するパイプ径や肉厚、材質の選定やこれらの接合位置をCAE解析により最適化しています」とのこと。
フロントのみディスク式だったブレーキは前後ディスクブレーキにグレードアップし、さらに「ホンダセレクタブルトルクコントロール」=トラクションコントロールシステムを搭載。シート下ラゲッジスペースは広くなり、容量を28リットルから30リットルへと拡大しています。フロント左側インナーボックス内には、USBソケット(TYPE-C)も新たに標準装備となりました。
エンジンは「eSP+」に進化し、ボア×ストロークもまったく異なる上、4バルブ機構を採用。クランクまわりが高剛性化され、ピストン裏側にエンジンオイルを噴射するピストンオイルジェット機構や油圧式カムチェーンテンショナーリフターも採用されています。
■PCX(従来型からの変更)ボア径:φ52.4mmから53.5mmへストローク量:57.9mmから55.5mmへ圧縮比:11.0から11.5へ
■PCX160(従来型からの変更)ボア径:φ57.3mmから60.0mmへストローク量:57.9mmから55.5mmへ圧縮比:10.6から12.0へ
■ハイスピードレンジでの走りに余裕が生まれた
実車を目の前にすると、ボリューム感が増してより堂々としたように見えます。ボテッと太ったのではなく、ワンクラス上の上質さを直感でき、ダイナミックな流れを感じさせるプロポーション。デザイン担当の岸 敏秋さん(株式会社本田技術研究所デザインセンター)は「水上を悠々と疾走するパワークルーザーのような水平基調で伸びやかなプロポーション」と言います。
細い5本の光のラインを並行して配置した吊り目レンズのヘッドライトなど新しさに満ち溢れていますが、すぐにPCXとわかる“らしさ”のあるスタイリングデザインです。
シートにまたがると、足もとが広々とした印象です。車体設計の前田匡雅さん(本田技研工業株式会社二輪事業本部ものづくりセンター)に聞くと「フロアステップのフットスペース平面部を車体前方と外方向へそれぞれ30mm拡大しました」と教えてくれました。着座位置の自由度が高いシートとの相乗効果もあり、ゆったりとしたライディングポジションです。シート高は764mmで、身長175cmの筆者(青木タカオ)は両足カカトまでベッタリ地面に届き、足つき性は相変わらず良好と言えるでしょう。
当然ながら、排気量アップした「PCX160」はパワフルさが際立ちます。アクセルの開け始めからトルクフルで、最高出力15.8PSを発揮する8500rpmまでスムーズに回っていきます。中間加速も良くなり、高速道路に上がるランプからの合流でもズバッとダッシュし、クルマの流れに素速く合流できるのでした。
エンジン設計を担当した武市廣人さん(本田技研工業株式会社二輪事業本部ものづくりセンター)は、スロットルボディー径も26mmから28mmに拡大したと説明してくれました。さらに整流板を採用し、スロットル低開度から力強いドライバビリティを実現。これは特許出願中とのこと。
エアクリーナーからインレットパイプまでを構成する各部品の吸気経路が拡大し、吸気効率を向上。また、マフラー内部の膨張室をつなぐパイプがストレート構造となり、力強い走りと高い環境性能を両立しています。
エンジンのパワーアップとともに車体も剛性を上げ、ハイスピードレンジでの安定性を向上していることが乗るとよくわかります。5本のY字スポークデザインを持つ新設計アルミ製ホイールには、ワイドサイズのタイヤが組み込まれ、太いトレッド幅と豊富なエアボリュームによるリニアなハンドリング性能と快適な乗り心地が両立されているのです。
■タイヤサイズ(従来型からの変更)フロント:100/80-14から110/70-14へリア:120/70-14から130/70-13へ
また、路面からの突き上げもしなやかに吸収するのは、アクスルストロークを従来比10mm増加し、95mmとしたリアサスペンションの働きによるところ。エンジンリンクとの取付け角度が見直され、レシオ変更によるスムーズなストロークを実現。衝撃吸収性を向上したタイヤもあいまって、高速道路でも優れた乗り心地を発揮しています。
■125cc版も飛躍的に進化。トルコン搭載で欧州の石畳も余裕!?
また「PCX」、つまり125cc版もキビキビ走ります。車体は「PCX160」と共通で、安心してアクセルを大きく開けられます。上質な乗り心地は、ラバーマウント構造のハンドルホルダーを採用したことも影響し、車体からライダーの手へ伝わる振動が軽減されています。扱いやすく力強い低中回転域はそのままに、高回転域でのパワーの伸び上がりが増し、4バルブ化のメリットを感じます。
両車ともハンドリングは軽快で、太くなったタイヤのおかげで旋回中の接地感が増し、落ちつきのあるコーナリング性能を発揮してくれます。また、前後ディスクブレーキとなったことに加え「Hondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)」も搭載し、スリップしやすい状況でも安心して走れるのは、大きなアドバンテージになるでしょう。とくに石畳や路面電車の線路が市街地にある欧州では、ユーザーが歓迎するのは間違いありません。
それでいて、お値段がグンと上がることはなく、「PCX」が35万7500円、「PCX160」は40万7000円、「PCX e:HEV(ハイブリッド)」は44万8800円と抑え気味です(いずれも消費税10%込み)。
クラスを牽引するのに「PCX」シリーズは盤石の構えです。「PCX e:HEV」についてもアレコレと開発責任者に聞いてきましたので、そちらはまた後日レポートしましょう。
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