■ホンダの「ゼロシリーズ」始動! その完成度は?
2024年1月にアメリカ・ラスベガスで開催の「CES2024」で世界初公開された、ホンダの次世代EV「Honda 0(ゼロ)シリーズ」。
そのコンセプトモデルとして「サルーン」と「スペースハブ」がお披露目されました。
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市販バージョンはSUVを中心に、複数のモデル(2030年までにグローバルで7車種)が検討されているようですが、中でもサルーンはシリーズのフラッグシップとなるモデル。
開発アプローチの「Thin, Light, and Wise(薄く、軽く、賢く)」を解りやすく体現したものとなります。
サルーンは低全高でスポーティなスタイルと、大人4人がゆったり過ごせる広々空間を両立させたパッケージが特徴で、EV時代におけるホンダのMM思想(マン マキシマム・メカ ミニマム)を具現化。
単なるコンセプトではなく、ホンダは「ほぼこのスタイルで2026年に市販化させます」と語っています。
そんなゼロシリーズに搭載される技術は、これまで概念的には語られてきましたが、今回ホンダの開発拠点で行なわれた「Honda 0 Tech Meeting」でその多くを公開。
更にゼロシリーズの開発車両の試乗も実施。その実力(の一部)はどうだったのでしょうか。
まずは今回公開の、ゼロシリーズに採用される主な技術を紹介しましょう。
クルマの根幹となるプラットフォームはEV専用で、2.0GPa級のホットスタンプ材(超高張力鋼板)を採用。
床下はホンダが長年培ってきた低床フロア技術の応用で、重量物をより低く/車両中心に配置すること可能となり、素の状態で低重心/低慣性を実現。
車体は従来のモデルとは異なる発想で、コーナリング時にあえてしならせる挙動を与えることでタイヤの荷重をコントロール。要するに部位に応じて剛性を切り分けた「強靭でしなやかな車体」となっています。
モーターは前後に小型かつ高効率なe-Axle(180+180kW)を搭載。ちなみにこのe-Axleは、一般的なEVと比較してインバーターを約40%小型化する事により、従来モーターではレイアウトが難しかった横型配置のパッケージを可能にしています。
その結果、フロントは低いボンネット高、リアは内燃車とほぼ変わらないラゲッジスペース高を実現しています。
バッテリー(リチウムイオン)はLGエナジーソリューションと共同開発された軽量・薄型化されたもので、メガキャスト(高圧高精度鋳造:6000トンクラス)と3D摩擦攪拌接合(FSW)技術を採用した薄型バッテリーケース(一般的なバッテリーに対して6%薄い)に搭載されます。
バッテリー容量は未公表ですが、航続距離はEPAモードで約300マイル(WLTPモードで600km程度)と公言しています。
サスペンションは4輪独立式のエアサス、ステアリングシステムはホンダ初のステア・バイ・ワイヤ式、ブレーキシステムはバイ・ワイヤ式を採用。
これらとモーターを、高精度なセンシング技術(高精度三次元ジャイロ姿勢推定と安定化制御)によりシームレスに連動させる「モーションマネージメントシステム」が採用されています。
■「CR-V」ベースの“魔改造”車 そのデキに驚愕…
今回の試乗車は2台ですが、いずれもゼロシリーズそのものではなく、見た目は「アコード」と「CR-V」。一方でパワートレイン/シャシーをはじめとする機能部分は、全てゼロシリーズという“魔改造”開発車両でした。
筆者(山本シンヤ)はCR-Vベースの開発車両に試乗できました。風の噂(?)では、アコードベースの開発車両よりもこのモデルのほうが完成度は高めのようです。
エクステリアはライトやグリルをブラック化、前後バンパーは下部をカバーで覆われており、大幅な車高ダウンに加えて大径タイヤ(245/50R20サイズのミシュラン「eプライマシー」)に合わせてオーバーフェンダーを装着。
ノーマルのCR-Vに対して「ワイド&ロー」なスタイルに仕上がっています。フロントフェンダー左右には充電口も追加されています。
インテリアはメーターが薄型のデジタルメーター、シフトレバー(Pはボタン、D/Rは引いてダウン/アップ)はワイパースイッチの位置に変更されていますが、それ以外はほぼCR-Vのままの状態です。
パワートレインはモーター駆動の応答の高さは言わずもがなですが、一般的なバッテリーEVのような「アクセル踏んだらモリモリトルク」ではなく、アクセル開度に合わせて精緻にトルクコントロールが行なわれている印象です。
そのため、わかりやすい力強さはないものの、その加速力が高い車速域まで衰えずに続く「伸びの良さ」が印象的でした。
例えるならば、トルクバンドが広く、超洗練された内燃機関のようなイメージでしょうか。
フットワークは統合制御でコントロールされているため、試乗前は「人間の感覚とズレがあるかな」と心配したものの、それは単なる取り越し苦労でした。その印象はズバリ「The Natural」です。
もう少し具体的に言うと、カチッとしているのにしなやかさを感じる車体、穏やかなのに阿吽の呼吸で反応するステアリング系、ステアリングの切り始めた瞬間からノーズが自然かつ素直にインを向く回頭性の高さ、軽快なのに安定した挙動、低重心かつ重量配分の良さを実感する滑らかな旋回、グリップを実感できるトラクションと、コーナリングの一連の流れが超自然/超シームレスに行なわれています。
要するに、わかりやすい走りの良さではなく本質的な走りの良さ。「究極の“普通”のハンドリング」と言うわけです。
これらは基本素性+統合制御のタッグによるモノですが、機械に制御されている感じは皆無で、むしろ背中をそっと押してくれるような、自然でさり気ない介入なので、多くの人は気にならないはず。
つまり、いつでも、どこでも、誰でも、理想の姿勢で「意のままの走り」が可能なのです。
筆者はこれまで、ホンダの制御を用いたフットワークに疑問を持っていましたが、今回試乗して「デジタルのフル活用で、究極のアナログを目指す」という事だと理解しました。
実は試乗中にどことなく「新しいのに懐かしい」といった印象を受けたのですが、それは気のせいではなかったようです。
今回の試乗車には搭載されていませんでしたが、開発アプローチの「Wise(賢い)」の部分では、独自のビークルOS搭載とコネクテッド技術により、クルマその物が賢くなる「SDVの実現」についても言及されました。
その重点項目は、先に記した「操る喜び」に加えて、「自動運転/先進運転支援システム」、「エネルギーマネージメント」、「デジタルUX」の4点ですが、こちらも気になるところです。
今回の試乗では、ゼロシリーズはハード&ソフト共にゼロから作り上げられていますが、その内容は決して飛び道具ではなく、これまでの積み重ねから生まれたアイデアが多いように感じました。
「ゼロからスタート」ではなく、「プロローグからのゼロ」。つまり、歴史はシッカリと繋がっていると思わせられたのです。
試乗後、開発メンバーに「ゼロシリーズは次世代のホンダの象徴となるモデルになりますが、『次世代のホンダらしさ』はどこにあるとお考えですか」と質問をしてみたところ、このように答えてくれました。
「第2の創業期と言っていますが、開発に関わるメンバー全員がスタートアップのようなマインドで挑戦を行ったことで、イノベーションが生まれ突き抜けられたと自負しています。そう考えると、次世代ホンダらしさとは『総力の塊』だと思っています」
正直に言ってしまうと、これまでホンダがゼロシリーズで何がしたいのかが良くわかりませんでしたが、実際に技術を見て、聞いて、体感した事で、次世代ホンダの「想い」と「本気」が理解できたような気がしています。
ちなみに今回公開された技術を具体化させた姿として、ゼロシリーズの新たなモデルを2025年1月にアメリカ・ラスベガスで行われる「CES2025」で公開予定です。今まで以上に楽しみになってきました。
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