ストリート前提のアナログなドライバーズカー
実は、ポルシェが911にS/Tの2文字を与えるのは珍しい。初めてSが掲げられたのは、1967年。160psへパワーアップした911だった。
【画像】ストリート前提の極上ドライバーズカー ポルシェ911 S/T 競合クラスのスポーツクーペと比較 全150枚
その後、レーシングカーの911 Rが登場する一方、モータースポーツを志す顧客には、911 Sのアップグレードキットを設定。1970年には公道用のオプションとして、M471パッケージが提供された。この仕様を、同社は非公式にSTと呼んでいたらしい。
それから半世紀後、992型のGT3やGT3 RSの開発に携わった技術者は、ストリートへ焦点を当てたアナログなドライバーズカーを作ろうと考えた。低く構えたスタンスの911に、往年のS/Tの2文字が与えられることになった。
ポルシェで「GT」を冠するモデル開発へ今も携わるヴァルター・ロール氏は、これまでで最高の公道用911だと説明する。世界ラリー選手権を2度も勝利したドライバーが語るのだから、相当な仕上がりなのだろう。
果たして、落ち着いたボディカラーをまとい、巨大なリアウイングは載らないが、基本的にS/TはGT3 RSの兄弟。ラップタイムを追求するのではなく、純粋に公道で運転を楽しむことを目的にしている。ニュルブルクリンクのタイムは、計測されていない。
トランスミッションはマニュアル。911 GT3と同じ6速だが、ショートレシオで、ファイナルレシオも詰められた。通常は2速で9000rpmまで引っ張ると、130km/hに達してしまうのだが、S/Tでは119km/hへ低下している。この差は小さくない。
GT3 RSに並ぶ525ps 徹底的な軽量化で1400kg切り
リアの自然吸気・水平対向6気筒エンジンは、3996cc。僅かに手が加えられ、最高出力はGT3 RSに並ぶ525ps。ドライサンプで、シリンダー毎にスロットルバルブが並ぶ。ピストンは鍛造で、コンロッドはチタン製だ。
ツインディスク・クラッチとシングルマス・フライホイールは専用の軽量化品。クランクシャフトが直接回す質量を、10.5kgも削っている。
リミテッドスリップ・デフは機械式。マグネシウム鍛造ホイールは、前20インチ、後21インチで、タイヤはGT3と同じサイズを履く。フェンダーとツライチでカッコいい。
軽量化は徹底的。992型で初めて1400kgを切っている。6速MTのGT3 ツーリングより38kg軽く、64Lの燃料タンクを満タンにして計測したら、1408kgだった。
フロントフェンダーとドアは、GT3 RS譲りのカーボンファイバー製。ロールケージとリアのアンチロールバー、補強用シャシーパネル、フロアパンもカーボンでできている。バッテリーは3kg軽い。
ドアを開くと、適度にクラシカルな雰囲気のインテリアが広がる。品質は高く、ヘリテージ・デザインのコニャック・レザーとクロスが美しい。歴代の911で、最も印象的な車内の1つだといえる。
タコメーターのグリーンは、初代911を彷彿。ドアパネルには、ストラップがぶら下がる。しっかり身体を包む、カーボン製シェルのバケットシートは標準だ。
ロールケージは見た目が素晴らしいが、実用性を考えると必要ないかも。そうすれば、フロントのボンネット内と合わせて、フェラーリ・ローマへ負けない荷室を得られる。
MTが生む深い充足感 極上のNAフラット6
高鳴る胸を抑えつつ、エンジン始動。サウンドは、フラット6らしいドライで金属的な唸りに、軽量フライホイールが生む不均一なザラつきを加えたような響き。高級感漂う内装と相反するが、機械的で特徴的だ。
クラッチは、ストロークが浅いものの、3枚のペダルの重み付けは調和。1速では、ECUが5000rpmでリミッターをかけるが、0-100km/h加速は3.7秒でこなす。実際に。表面が剥けたタイヤなら、もう少し縮まりそうだ。
最新のスーパーカーなら、1秒ほど速く100km/hへ到達できるとしても、64km/hから96km/hへの上昇は2速で1.3秒。ランボルギーニ・アヴェンタドール SVJから0.1秒遅れるに過ぎない。
4速で48km/hから112km/hへの加速も、6.1秒。GT3 RSより速い。とはいえ、この特別な992型は、数字以上に感覚的な部分へ焦点が向けられている。
ギアを自ら選ぶ行為には、深い充足感がある。シフトレバーはかなりショートストロークで、適度な重みがあり、正確にゲートへ収まる。3速ではなく1速へ間違って押し込み、エンジンブローさせるリスクは限りなく小さい。
滑らかなぶん、変速も迅速。0-240km/h加速は、PDKのGT3より0.3秒遅いだけ。3回のシフトアップを挟むにも関わらず。
何より、エンジンは極上。3000rpmを超えると、圧巻の音響とともに、芳醇なパワーが開放される。徐々に高音へ転じ、吸気音とクロスオーバー。軽いフライホイールが、高回転域へ猛烈に引き上げる。
パワーデリバリーは、素晴らしく直線的。アイドリング直後から8500rpmまで、真っすぐ上昇する感覚がある。レブリミットの9000rpm間際は、悦楽の世界だ。
路面へ追従するサス 911らしい旋回性
加えて、S/TとGT3 RSを最も差別化する部分が、内装の他にサスペンション。ダンパーはGT3 ツーリング譲りの2モード仕様だが、専用に調整されている。GT3のように、120km/h以下では滑らかに動かないほど硬い、ということはない。
路面へ追従するようにタイヤは上下動し、出色の正確性と応答性を生み出している。その落ち着いたマナーは、姿勢制御へ高級感のある繊細さをもたらしている。GTを名乗る911では叶えられなかった、流暢な表現力をシャシーに与えている。
コーナリングは、リアエンジンらしいオーバーステア。そこへ特有のサスペンションが融合し、体験を強く印象づける。荷重移動がわかりやすく、911特有の旋回性を味わうこともできる。GT3 RSと異なり、ダンパーを最もソフトに変える必要はない。
さらにポルシェの技術者は、切り始めの反応が鋭いステアリングは、このサスペンションに合致しないと理解していた。カーブが連続する区間では、切り返しで挙動が乱れる可能性がある。
そこで911 S/Tのレシオは、僅かにスロー。ボディロールの立ち上がりと、見事に一致している。これも幸福感を高めている。
運転席からの視界は、あらゆるミドシップ・スーパーカーより良好。ポルシェの911という、目立ちすぎない容姿も好ましい。
ロードノイズは、GT3 RSと同等だろう。極太のミシュランタイヤとボールジョイントが備わり、ノイズを吸収するリアシートはなく、うるさい。長距離移動の快適性を重視するなら、911 GTSの方がベターだ。
公道を走れる911で、突出して素晴らしい
さて、こんな特別なS/Tを、ポルシェは1963台だけ製造する。911の誕生60年を記念して。英国価格は23万1600ポンド(約4725万円)だが、既に英国では完売状態とのこと。転売された車両が、倍近い高額で既に市場へ出ているけれど。
ちなみに、試乗車のショア・ブルー塗装は素晴らしかった。2546ポンド(約52万円)のノーズリフト機能は、追加した方が良いだろう。今回の平均燃費は、10.9km/Lだ。
遡ること数年前、992型の911 GT3が登場した時、サーキットへ特化したようなシリアスな内容へ、筆者は少し落胆したのを覚えている。マイルドなGT3 ツーリングでも、荒れた路面では落ち着きを維持しきれない場面があった。
しかしS/Tは、公道を走れる911の中で、突出して素晴らしい1台だと断言できる。興奮を誘うフラット6エンジンに、柔軟なサスペンション、アクセルの加減でライン調整できる操縦性、高級感漂うインテリアが組み合わさり、最高の992型へ仕上がっている。
GT3 RSの技術を巧みに活用し、徹底的な軽量化を図り、公道へ最適化させることで、ドライバー中心のポルシェが完成した。惜しむらくは、お高めの価格と、極めて限定的な提供数だけといえるだろう。
◯:公道前提のサスペンションが叶えた安楽さと奥深さ MTと自然吸気エンジンが生むクルマとの一体感 ベーシックな911に準じる実用性の高さ
△:走行中の車内ノイズが大きい 既に定価での購入は難しい
ポルシェ911 S/T (英国仕様)のスペック
英国価格:23万1600ポンド(約4725万円)
全長:4542mm(標準911)
全幅:1852mm(標準911)
全高:1279mm(標準911)
最高速度:299km/h
0-100km/h加速:3.7秒
燃費:7.3km/L
CO2排出量:313g/km
車両重量:1380kg
パワートレイン:水平対向6気筒3996cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:525ps/8500rpm
最大トルク:47.3kg-m/6300rpm
ギアボックス:6速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
金だけあるクルマ ポルシェ情弱者だよな。
スーパーカーの投資案件としての新車買いならわかるんだが。