1960年代の巨匠ミケロッティの手がけた、スタイリッシュなビーチカー
高価なクラシックカー/コレクターズカーのオークションは、開催されるロケーションや顧客層、あるいは会場の雰囲気によって成否が大きく左右されがちです。2024年3月1~2日、フロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにあるクラシックホテルを会場としてRMサザビーズ北米本社が開催した「MIAMI 2024」オークションでは、ビーチリゾートでもあるマイアミにピッタリのイタリア製ビーチカー、フィアット「850スピアジェッタ」が出品され、オークショネア側のもくろみどおり高値で落札されました。今回はその「スピアジェッタ」のモデル概要と、注目のオークション結果について、お伝えします。
フェラーリやマセラティも手掛けた! 「ヴィニャーレ」が手掛けたフィアット「600」とは
イタリア発祥のビーチカー「スピアッジャ」とは?
1950~60年代のイタリアでは「スピアッジャ(Spiaggia:デッキチェア)」というジャンルで呼ばれるクルマたちが、名門カロッツェリアによって少数生産されていた。
ルーフもドアも持たないボディには、イタリア語のジャンル名が示すごとく、濡れた水着のままでも乗車できるようにラタン(籐)で編まれたデッキチェア状のシートを前後に配し、リゾートではタクシーなどにも使用されたビーチカーである。
もともとは、J.F.ケネディ元大統領夫人だったジャクリーンの再婚相手となったことでも知られるギリシャの海運王、名うてのプレイボーイでもあったアリストテレス・オナシスの依頼により、カロッツェリア・ギアがフィアット「600」をベースとして製作した「ジョリー」に端を発するもので、イタリアをはじめとする南欧では富裕層のステータスシンボルとして人気を獲得。そのニッチな市場に向けて、ギア以外のカロッツェリアも小型のフィアット製シャシーを使ったスピアッジャの製作に乗り出すことになる。
この「ストゥーディオ・ミケロッティ」作品は、ヨットのデザイナーとして名を馳せたフィリップ・シェルと、イタリアで最も重要なスタイリストのひとりであり、コーチビルダーであるヴィニャーレやマセラティ、ランチア、BMW、そして日本のプリンスや日野自動車のためにデザインした数々の傑作で名を馳せたスタイリスト(デザイナー)、ジョヴァンニ・ミケロッティとのコラボレーションから生まれた。
デザイナーのシェルの名にちなんで「シェレット」、あるいは「スピアジェッタ(Spiaggetta:小さなスピアッジャ)」など、さまざまな愛称で知られるこのモデルは、フィアット「850」のフロアパンをベースとして、モダンでスタイリッシュなスタイリングにくわえて、ジョリーには望むべくもなかったヒーターやカーラジオなどの「豪華な」装備を備えていた。
また、47psを発生する水冷4気筒OHVエンジンを搭載し、最高速度は約100km/hという現代の道路を走るにも十分といえる速さを持つうえに、フロントのディスクブレーキとリアのドラムブレーキで、十分な制動力を発揮する。つまり、フィアット600や「ヌォーヴァ500」をベースとしていたギア・ジョリーに比べても、自動車として遥かに常識的なパフォーマンスを備えていたことになる。
800万円超えの落札価格には、地の利が生かされていた?
ストゥーディオ・ミケロッティ製のフィアット「850スピアジェッタ」は、この種のビーチカーの元祖である「ギア・ジョリー」の発案者たるオナシスの配偶者、ジャクリーン・ケネディ・オナシス夫人や、ヘリコプターや高性能モーターサイクルで有名な、イタリアのアグスタ一族に代表されるセレブリティたちのために、わずか80台しか製造されなかったとされており、ほかのビーチカーたちと同様、海辺のヴィラ周辺でのアシ車として供用されたり、ヨットのテンダー(補給船)として使われたりすることが多かったという。
このほど「MIAMI 2024」オークションに出品された850スピアジェッタは、このモデルのデザイナーとして関与したフィリップ・シェルの友人といわれているロイス・フィリップス・ポスターに、新車として引き渡されたもの。そののち21世紀初頭まで、彼女の所有車両であったといわれている。
その後の経緯はオークション公式ウェブカタログにも記されていないが、2012年にニューハンプシャーの納屋で発見されたことは判明しているそうだ。
この「バーンファインド」のあと、魅力的なオリジナルの籐シートはそのままに、天板はオリジナルのデザインを維持してリニューアルされた。さらにそののち、スピアジェッタは2年前に今回のオークション出品者でもある現オーナーによって引き取られ、それ以来、彼らの空調管理されたコレクションルームで大切に保管されていると伝えられる。
公式カタログのキャッチコピーでは「良好なランニングコンディションで提供されるこの“陸上のヨット”は、マイアミでもそのほかの土地でも、ビーチサイドのクルーザーとして最適」と謳われたフィアット850スピアジェッタには、現オーナーとの協議の結果、5万ドル~6万ドルというエスティメート(推定落札価格)が設定された。
そして迎えた競売ではビッド(入札)も充分に伸びたようで、終わってみれば5万3200ドル、現在の為替レートで日本円に換算すると約810万円という、なかなかの高値で落札されることになったのだ。
この、売り手にとっても買い手にとっても悪くないかと思われるハンマープライスに、ビーチカーとの生活が想像しやすいマイアミというロケーションの利が作用したことは、きっと想像に難くないだろう。
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みんなのコメント
粋な車ですね。
これなら整備士じゃなくても自分でメンテナンス出来る部分は多いと思う