最近、「高すぎる」、「デカすぎる」、「これ海外仕様をほぼそのまま日本に持ってきただけじゃないか」というホンダ車への風当たりが強くなってきました。最近販売されたシビックやCR-V、インサイトにしても、それぞれ乗ればいいクルマではあるのですが、何かが足りないと思うことも多い気がします。
ホンダ車って、こういう微妙な気分になるクルマでしたっけ? かつてのホンダ車は、どのクルマにも似ていない尖ったクルマばかりだったように思うのは本企画担当者だけでしょうか? いつからホンダ車はこうなったのでしょうか?
懐かしい!? いや新しい!? AKB劇場の前で見つけた「ミニ」カーの正体は!?
それは2018年の新車販売を見ても現れています。15カ月連続で軽販売のトップを独走中のN-BOX一車種だけ気を吐いている状況で、登録車の11月販売ランキングのトップ30では、6位のフィット、12位のフリード、20位のヴェゼル、21位のステップワゴン、25位のシャトルとなんとも寂しいかぎり。
昔は「スポーツカーのホンダ」「CVCCのホンダ」「F1のホンダ」「ミニバンのホンダ」「VTECのホンダ」など、各時代すぐに思い浮かぶ、尖ったイメージがありましたが、いまは「軽自動車だけ一所懸命なホンダ」という気がしてしまいます。
ということで、ホンダに発奮してほしいという願いも込めて、「あの頃、尖っていたホンダ車」をピックアップしてみます。どのようなモデルがあったのか? どこが尖っていたのか? いまのホンダにないものは、どんなところか?? モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説します。
文/岩尾信哉
写真/ベストカー編集部
■誰かに真似されることはあっても、誰の真似もしない
ホンダが尖ったメーカーというイメージが失われた原因は、どこにあるのだろう。1990年代半ばの「クリエイティブ・ムーバー」とホンダが謳った、オデッセイ、ステップワゴン、S-MXのミニバン勢が売れた影響から「ミニバンのホンダ」というイメージが定着した。
また「スポーツマインドを失った」とそれまでのホンダの“熱い”ユーザーから見られたことに加え、「他に類を見ない」「真似をしない」という、ホンダらしい独創性が薄まったことが大きい。
そこで、これまでホンダが過去に作ってきた「尖ったクルマたち」を選び出してランクづけしてみることにした。
尖ったクルマたちにはキーポイントがあって、ひとつはいうまでもなく、スポーツカー作りに秀でたプロジェクトリーダーの存在。
そして大胆なコンセプトの提案。このふたつが強いキャラクターを生み出して、尖ったモデルが送り出されてきた。
ここでは点数を与えたランク付けは、メカニズムやデザインが今もって新鮮さや斬新さが失われていないことを軸として、マーケットや他メーカーに与えたインパクト、価格などを勘案したうえで選び出した。とはいえ、順位はあくまで独断であることをお許しいただきたい。
■S2000 1999年4月~2009年8月 尖り度95点
1999年にホンダ栃木製作所高根沢工場のNSXやインサイトの生産ラインが生み出すことになったオープンスポーツが「S2000」だ(2004年に鈴鹿製作所の“TD(匠・ドリーム)”ラインに移管)。
エンジンの痛快な回転フィールをもつエンジンとオープンルーフを備えるという、NSXの生みの親でもある上原 繁氏が手がけたオープンスポーツだけあって、本来はシャシー性能を考慮して屋根を取り払うことを嫌ってきた(例外といえるタルガトップのNSXの“タイプT”は米国向けの仕様といえる)ホンダがあえてオープンモデルを作り上げたのはいうまでもなく、ホンダの四輪車そしてスポーツカーの始祖である「S」の伝統を復活させることへのこだわりだ。
ドライバーを急かすごとく回転計の針を“ぶん回す”エンジンフィールと“ハイボーンXボーンフレーム”と呼ばれる強固なボディ構造に支えられたシャシーは紛うことなき“エス”の魅力を再現していた。
エンジンは2005年11月に2.2L化(F22C AP1型、242ps/22.2kgm、レブリミット:8000rpm)されて、2L(F20C AP2型、250ps/22.5kgm、同:9000rpm)の強烈さが失われたとの声はあっても、スポーツカーの本質的の魅力が失われることはなかった。
■バラード・スポーツCR-X 1983年7月~1987年8月 尖り度90点
シビックの兄弟車としてバラードの名を冠しつつ、その実態はライトウェイトスポーツかつ燃費スペシャルでもあるという、前例のないコンセプトを打ちだして登場したのが「CR-X」だ。
燃費改善の研究用試作車として制作されたため、空力を意識してバッサリと切り捨てられたリアエンドのデザインやフェンダーやバンパーなどの高分子樹脂製パネル採用による軽量化など、独自の工夫は数多い(米国市場では燃費の良さを表現する「50マイル・カー」として発表された)。
軽量化とコンパクトなボディがもたらすハンドリングの軽快さも評価された。“CR”とNSXから受け継いだ“X”(ホンダは未知数の意としているが、英語の“EXPERIMENTAL”のXという意味も添えられているようだ)という”ダブルネーム“は伊達ではない。
余談だが、タイプR以前の高性能モデル「Si」がシビックと初設定され、後に”レーシング“の意味を加えた「SiR」グレードも生まれることになる。
■初代NSX 1990年9月~2006年1月 尖り度85点
時代を作る“エポックメイキング”という言葉は、1990年前後の時代のなかで生まれたスポーツカーであるNSXにこそ相応しい。
ホンダ栃木製作所にNSX専用の生産工場を立ち上げ、人手による溶接工程など入念な生産管理を施すなど、日本製スポーツカーとして世界にその名を知られることになった。
開発当初から“銀”と“赤”という対立するコンセプトは、銀は標準モデルでは日常的なユーティリティを考慮したドイツ製、赤はイタリア製を意識した、サーキット走行も見据えたスパルタンな「タイプR」(2代目でNSX-Rと名を変えた)として実現した。
オールアルミ製モノコックボディを採用して、3L(後に3.2Lに向上) V6エンジン(重量配分や軽量化を意識して直4も検討されたという)を横置きとしたレイアウトなど、「他の真似をしない」というホンダの企業文化を具現した設計は、日本のスポーツカーとしての独自性を主張した。
約1万9000台が販売されたNSXはまさに名車と呼ぶに相応しく、復活した2代目も先進的なスーパースポーツとして、いまもなお存在感を示し続けている。
■初代シティ 1981年11月~1986年9月 尖り度80点
“トールボーイデザイン”の言葉を生み出したコンパクトカーであるシティは、まさにホンダらしい発想のコンパクトカーだった。
トランクに搭載できるバイク、モトコンポ(49cc)を発売し、4輪、2輪世界初の同時発売と謳っていた。
ホンダは、このシティとモトコンポの発売により、従来の4輪と2輪で6輪ライフといった、 単に足し算的な範囲での使い勝手だけではなく、4輪に2輪を搭載して行動することにより、バ イクの機能とクルマの機能が掛け算的に広がり、アウトドアライフの新しい使い勝手を創りだすことを提唱した。これは2輪車、4輪車を持つホンダの強みをフルに発揮した世界で 初めての試みでもある。
当時、世界最小のターボエンジンとして1982年9月にデビューしたシティターボ(100ps/15.0kgmの1.2L、直4ターボ)や、ブリスターフェンダーが与えられた過激なエクステリアとインタークーラーを追加した1.2L、直4ターボ(110ps/16.3kgm)を搭載したシティターボIIも、まさにホンダならではの、他メーカーが思いつかない画期的な発想だった。
また、後に追加された伊ピニンファリーナ社が手がけたオープントップデザインの「カブリオレ」も、ホンダのキャラクターが湧き出るような“洒落者”さを表現していた。
シティ搭載用トランクバイク「モトコンポ」を同時発売したことも二輪メーカーでもあるホンダの面目躍如といえる。コンセプトに多少の荒っぽさはあっても、訴求力ではまったく他の追従を許さなかった強烈の個性は、ホンダ独特の都会的なセンスの良さとともに輝いていた。
■インテグラ・タイプR 1995年10月~2001年6月 尖り度75点
NSXタイプRの登場を受けて、3ドアクーペ(DC2型)と4ドアハードトップ(DB8型)を用意されたインテグラ・タイプRは“手作り”ともいえる稀少性とモータースポーツ精神をイメージさせる仕立てによって、ホンダファンの心を射止めた。
タイプRの新エンジン「B18C 98spec.R」ではエキゾーストマニホールドに集合部までを等長として手磨きされたといわれる「ステンレス4in1エキゾーストマニホールド」を採用。
排気脈動をチューニングすることで、加速時に重要な中速域のトルクアップを実現したとされ、固められた足回りとともに、NSXタイプRから受け継いだチャンピオンシップホワイトの特別色やレッドエンブレム、MOMO製ステアリング、BSポテンザRE010などの採用によって、手に入るタイプRとして一世を風靡した。
■初代インサイト 1999年11月~2006年8月 尖り度75点
ホンダで初採用された“IMA”システムと呼ばれる1L直3エンジン+1モーター機構のハイブリッドシステムを備え、空力を意識して設計されたスタイリング(CD値は0.25)や後輪ホイールをブリスターフェンダーの“スパッツ”で覆うなど、インサイトは1997年10月に登場したトヨタプリウスに対抗するかのように登場した。
軽量化を狙って設計されたアルミ製のボディ骨格/パネルを備え(高根沢工場で生産)、“燃費スペシャル”としての立ち位置は明確にされ、プリウスとの燃費競争はいかにも“大人げなく”笑わせてくれたものだ。しかし、これだけの技術投入で210万円という価格はホンダの意地を感じさせてくれた。おそらく、いまではできないだろう。
2代目(2009年2月~2014年3月)のスタイリングやパッケージングが、あたかも2代目プリウスにおもねるように変貌したのは残念。3代目が約4年9カ月ぶり、この12月に復活したことにも注目したい。
■アコードエアロデッキ 1985年7月~1989年8月 尖り度70点
3代目アコードの3ドアハッチバックと簡単に表現するには、エクステリアデザインの斬新さが際立つのが“エアロデッキ”。
リアエンドまでに伸びたロングルーフのデザインはリトラクタブルヘッドライトとともに空力を意識したもの。
燃費向上もこの時代にホンダが注力していたこともあって、ロー&ワイドの“ビュレット・フォルム”と表現されるスタイリングは過去・現在ともに他に見あたらない。
FWDでも四輪ダブルウィッシュボーンを採用するスポーツ性を意識したサスペンションは、この世代から採用が始まった。
■ビート 1991年5月~1996年10月 尖り度70点
軽自動車の2シーターのミドシップ“スポーツ”(と呼ぶことを避けたことは有名な話)として登場。フロントーバーハングを削り取ったデザインなど、大人がギリギリ座れるように仕立てたキャビンなど、よくぞここまで! といえるようなレイアウトは、デザインの勝利といえる。
ストロークの短い5速MTのフィーリングの良さも相まって、軽自動車用エンジンとはいえパワーを使い切る感覚は“枠を超えた”スポーツ性を備えていた。
■HR-V 1998年9月~2006年2月 尖り度65点
発表当時は「ワゴンでもクロカンでもない」と表現されたHR-Vは、今では“クロスオーバー”SUVとして説明可能かもしれない。
ミニバンを基本とした「クリエイティブ・ムーバー」に続く「J・ムーバー」として登場した「ジェットフィールハイライダー」のコンセプト・ネームがいかに表現しにくいものだったかがわかる。
ボディ上下を分割するキャラクターラインとともに、最低地上高を190mm採ってSUV感を出しつつシャープに仕立てたスタイリングは斬新ではあった。
高い位置に配されたヘッドライトなどは振り返れば、現在のコンパクトSUVの流れに通ずるものさえある。ちなみに、日本市場でのヴェゼルが欧州市場でHR-Vとして生き残っている。
■Z 1998年10月~2002年8月 尖り度60点
同時に登場した2代目ライフ(優れたシャシーをもってはいたが女性層へ意識しすぎた“尖りすぎた”キュートなデザインがユーザーに引かれてしまった観あり)とともに登場した、ミドシップレイアウトを採用した軽自動車。
軽自動車の衝突安全性を検討するための実験コンセプト車両として開発されたゆえ、車両前部を衝撃吸収部として扱うなど、ユニークさが際立つ。
軽自動車ながら、4座の縦置きミドシップ4WD、50:50の重量配分などという成り立ちだけを捉えれば、“スーパースポーツ”と共通といえるのも、ホンダらしさの表現というべきか。
■モビリオ 2001年12月~2008年5月 尖り度55点
“アーバン・モビリティ”としてのデザインが尖っていたコンパクトミニバン(同時に設定された“スパイク”のような凡庸なスタイリングではない標準仕様!)のモビリオは、欧州の街中を走る路面電車であるトラムを思わせる外観は、ウィンドウ部を広く採ったショルダーラインなどによるもの。
ホンダが採用し始めたフロア中央に燃料タンクを配置する“センタータンクレイアウト”や、両側スライドドアの採用など、パッケージングやデザインの先進性はもっと評価されてよいはず。
■CR-Z 2010年2月~2017年11月 尖り度50点
モデルによって意味合いが変わる“CR”は、「Compact Renaissance」とZeroを組み合わされ、CR-Zとして登場した。
あたかもCR-Xとインサイトの印象を併せ持つかのようなクーペスタイルと共に、まさに空力と燃費性能を煮詰めたうえで、ショートホイールベース&ワイドトレッドのスタイリッシュさが表現されたモデルとなった。
1.5L直4エンジン+モーターのIMAハイブリッド機構には6速MT(とCVT)を設定するなど、燃費とスポーツ性、どちらにも配慮した仕立てはいかにもホンダらしい。
■CR-Xデルソル 1992年3月~1997年8月 尖り度45点
1992年3月~1997年8月にラインアップされたオープンスポーツのCR-X「デルソル」はキャビンから開閉可能な電動仕様とアルミ製の取り外しできるルーフ)は「トランストップ」を備えたことも印象に残る。これほど尖ったというか、変わった発想ができるのは、ホンダ(の社員)にしかできないだろう。
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