日本で買える新車はほとんどが2ペダル車となり、2019年の新車のMT比率はわずか1.4%と、MT車は風前の灯火。しかし、9月3日に発売された新型シビックの発売1ヵ月の受注台数が約3000台と月販目標台数1000台の3倍を超え、時代に逆行するかのように、MTの比率はなんと35.1%、しかも20代が23.9%と最も多く、22.2%の50代が続いているという。
50代のおじさん世代からすれば、LXの319万円、EXの353万9800円という価格はちょっと高く感じるが、それでも23.9%の20代がそれでも欲しいとなったわけだ。
近頃よく目にする「親ガチャ」。この視点で国産現行車を俯瞰してみる!
「20代で300万円以上のクルマをよく買えたな、自分らの世代ではワンダーシビックは150万円以下で買えたのに……」という声が聞こえてきそうだが、素直に嬉しく思う。
今後あと10年以内に、EVやハイブリッドカーがさらに増え電動化が進むと、MT以前にトランスミッションが不要となることもあり、MT車は絶滅するだろう。という背景もある。
そこで、なくなるのは必至! 今のうちに乗っておきたいMT車と題して、おススメのMT車を紹介していこう。
文/永田恵一
写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル、スズキ
[gallink]
■MT車のメリットと現状はどうなっている?
182ps/24.5kgmの1.5L、直4VTECターボを搭載する新型シビック。300万円以上するにもかかわらず20代が23.9%と最も多く、MT比率は35.1%と高い
新型シビックの6MT。シフトフィールもカッチリしていてフィールもいい。FFといえどもダイレクト感のあるシフトフィールはホンダのこだわりである
■今買える日本車のMT車ラインナップ
●トヨタ/カローラ&カローラスポーツ&カローラツーリング1.2リッターターボ、カローラアクシオ&フィールダー1.5リッターガソリン、GRヤリス1.6リッターターボ+4WD系、ヤリス1.5ガソリン、C-HR1.2リッターターボ、GR86、タウンエーストラック&バン、ハイエースバン2Lガソリン
●日産/マーチNISMO S
●ホンダ/シビック、N-ONE RS、N-VAN(NA車)
●マツダ/マツダ2全般、マツダ3( 1.5リッター&2リッターガソリン&スカイアクティブX)、マツダ6ディーゼル、CX-3ディーゼル、CX-30(2リッターガソリン&スカイアクティブX)、CX-5ディーゼル、ロードスター、ロードスターRF
●スバル/BRZ
●ダイハツ/コペン、ハイゼットトラック、ハイゼットカーゴ
●スズキ/アルトF、アルトワークス、ジムニー、ジムニーシエラ、ワゴンR FA、スイフト1.2ガソリン、スイフトスポーツ、キャリィ、エブリィ
※レクサス、三菱自動車は現在MT車はなし
MT車の設定は、トヨタとマツダ、スズキが多いのに気づく。今後の新車スケジュールを見ると、2021~2022年に、新型フェアレディZやWRX STIのMT車の登場が予想される。
MT車の魅力、メリットは、ズバリ自分で運転している感覚。ATやCVTだと繋がりがスムーズになっているものの、ダイレクトな運転感覚はMTには適わない。
一時期、急速に増えたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)は0→100km/h加速はコンマ3秒DCTのほうがMTより速い結果が出ている。
とはいえ、それでも左足でクラッチを切り、各ギアに入れて、クラッチをつなぐあの人馬い一体感のある感覚は一度味わったという人なら、「できることなら死ぬ前に戻りたい」という50代以上のクルマ好きも多いに違いない。
クラッチ、ブレーキ、アクセルの3ペダルとマニュアル操作による、自分の意志で操る感覚は捨てがたい。また現在のエンジンはエンストしづらくなっている為、以前に比べれば敷居は低い?
■MT車の魅力、メリット
●自分の意志でクルマを操っている感覚は大きな魅力
やはりクラッチを踏んでギアチェンジするのは、2ペダル車にはない運転の楽しさ、歓びだ
●MTをマスターする過程も楽しみ
MT車をスムーズに乗るには丁寧なクラッチ操作、シフトダウンの際のブリッピング、ブレーキ操作とシフトダウンを同時に行うならヒール&トゥーといった技術も必要で、マスターするには時間が掛かることも多い。しかし、それも「MTに乗りたい」という意思がある人なら程度問題もあるにせよ、その過程も楽しみとなるだろう。普段乗りでも腕があればMTはAT以上の燃費を出せることがあるのも見逃せないメリットだ
●暴走事故防止に大きく貢献
ペダルの踏み間違えによる暴走事故は多いが、クラッチ操作をしないとクルマが動かず、イザというときにはクラッチを切るという手も使えるMTは暴走事故防止の切り札になるのではないだろうか
●リセールバリューがいいことが多い
スポーツ性の高いクルマのMT車は長い目で見るとクラッチ交換の費用が必要となる場合もあるが、MT車は希少なだけに売る時にリセールバリューが2ペダル車より高いことは多い
と、MT車の魅力とメリットを挙げてみたがまだまだお薦めしたいポイントがある。現在のMT車は「クラッチが重い、つなぎにくい」ということはほとんどなく扱いやすいのだ。昔はクラッチが重く、サイドブレーキを引いて坂道発進をする煩わしさを感じたが、現代のMT車のクラッチは軽く、クラッチをつなぐポイントも癖がなく、スムーズに行えるクルマがほとんど。
また、前述したワザとは矛盾するかもしれないが、3ナンバーカローラ各車の1.2リッターターボやGRヤリスの1.6リッターターボ+4WDにはオンにするとスタート時とシフトダウン時のブリッピング、坂道発進の際のブレーキをアシストしてくれるi-MTが付く。つまりハイテク満載なのである。
現在一時的な空白期間となっているが、近いうちに次期モデルが登場するフェアレディZとシビックタイプRの先代モデルにはシフトダウン時のブリッピング機能があり(つまりi-MTやブリッピング機能があるとシフトダウン時のブリッピングやヒール&トゥーは不要だ)、次期モデルでも継続される可能性は高い。そう、昔ほどMTに乗るのは難しくはないのだ。
アクセルとブレーキを踏むだけ、たまにマニュアル操作をする程度の、少々なまった御仁に「めんどうくさい」といわれそうだが、現代のMTはかなりいいですぜ、なくなる前に一度どうぞ、と言っておきたい。
■今買えるお薦めのMT車!
■トヨタヤリス1.5ガソリン:X/6MT=154万3000~
ヤリスに設定されている6速MTは1.5Lガソリン車(120ps/14.8kgm)。価格は1.5Xが154万3000円、Gが170万1000円、Zが187万1000円。同じグレードのCVTに比べ5万5000円安い
ここからは私がお薦めするMT車についてピックアップしてみたのでぜひ見てほしい。まずはヤリス1.5ガソリンのMT車。全体的に見て、普通といえば普通である。
しかし、それだけにMTを駆使するという楽しさが濃厚だ。また、ヤリスはラリーやジムカーナ、ワンメイクレースといったモータースポーツのベース車として使われることも多いだけに、アフターパーツも豊富でモータースポーツに使わなくとも、自分でクルマを仕上げていくという楽しみもある。
もしヤリスでそういった使い方をするなら、154万3000円と安価なベーシックグレードのXがお薦めだ。
■トヨタGR86(10月中発表):RC、6MT/279万円9000円~、スバルBRZ(7月29日発表):R、6MT/308万円~
GR86の正式発表は10月中。ディーラーに聞いた価格はRC(6MT)/279万9000円、SZ(6MT)/303万6000円、SZ(6AT)/319万9000円、RZ(6MT)/334万9000円、RZ(6AT)/351万2000円
BRZの価格はRの6MTが308万円、6ATが324万5000円。Sの6MTが326万7000円、6ATが343万2000円
GR86&BRZの6MTはやはり楽しい。クラッチは軽く、シフトチェンジのフィールもいい。電パーが主流になりつつある中、しっかりサイドブレーキも備え、MTファンの期待に応える
もうすぐ正式発表されるGR86、フルモデルチェンジしたばかりのBRZは排気量が2リッターから2.4リッターに拡大されたことにより、動力性能の大幅な向上に加え、日常域では一層運転がしやすい楽なクルマとなった。また、速さを増したにも関わらず、先代モデルに対し燃費の悪化がほとんど悪化していない点も有難い。
さらにGR86&BRZは動力性能だけでなく、車体やサスペンションといったクルマ自体の基本性能も劇的に進化しており、普段乗りでの質感やスポーツ走行時のコントロール性などの向上に先代86の前期型から新型BRZの乗り換えた筆者は大喜びしている。
新型BRZは2グレード4種類の展開である。最も廉価な「R」(6MT)が308万円、「R」(E-6AT)が324万5000円だ。ハイグレードの「S」は、6MTが326万7000円、E-6ATが343万2000円となっている。
対して、10月下旬に発表予定の新型GR 86はすでに受注が開始され、ディーラー調べで価格は判明している。新型GR86は3グレード5種類のラインナップとなる。RCは6MTのみの設定で最も廉価なグレード。中間グレードのSZ、最上級のRZグレードは6速MTと6速スポーツATが用意される。
■GR86の価格(ディーラー調べ)
RC(6MT)/279万9000円
SZ(6MT)/303万6000円
SZ(6AT)/319万9000円
RZ(6MT)/334万9000円
RZ(6AT)/351万2000円
また、GR86&BRZは初代モデルも未だ十分魅力あるモデルだ。欲しいなら初代モデルからの新型への乗り換えにより中古車の流通が増え、新型コロナウイルス禍による新車の生産の滞りが落ち着き、中古車価格が下がった頃に自分のものにすることを強く薦める。
■トヨタGRヤリス1.6リッターターボ4WD系:RZハイパフォーマンス、6MT/465万円。RZ、6MT/396万円
1261cc直3インタークーラーターボは272ps/37.7kgmを発生する。4WDは新開発の電子制御多板クラッチを用いたアクティブトルクスプリット式でノーマル(前輪40:後輪60)/スポーツ(前30輪:後輪70)/トラック(前輪50:後輪50)を選択可能。またコーナー立ち上がりのトラクションを確保するフロント、リアデフにトルセンLSDを設定
GRヤリスはラリーをはじめとした国際格式のモータースポーツ参戦のために開発されたピュアなスポーツモデルである。
何を隠そう筆者もよくぞ発売してくれたと感動し、GRヤリスを購入。1.6リッターターボとは思えない速さだけでなく、氷上で味わったコントロール性の素晴らしさ、ステアリングフィールをはじめとしたクルマ全体の剛性感の高さなどに大満足している。
それでいて普段乗りではi-MTを含め、低速トルクが十分な点などにより扱いやすく、オプションの予防安全パッケージを付ければMTながら先行車追従型のアダプティブクルーズコントロール(以下ACC)や高性能な自動ブレーキが付くなどGT性能も高く、先立つものがある人なら即購入をお薦めする。
ラリーで勝つために開発されただけあって一戦級の仕上がり。ぜひ一度は味わってほしい
■マツダロードスター:S、6MT/260万1500円~、ロードスターRF:S、6MT/343万9700円~
132ps/15.5kgmを発生する1.5L、直4エンジンを搭載。Sの6MT車は車重990kgと1トンを切る軽快さが楽しい
6MTのシフトフィールも素晴らしく、人馬一体感が味わえる。MTの操作性を第一に考えたレイアウトの結果、助手席のカップホルダーがはみ出す?ほどタイトなスペースとなった
ロードスターはライトウエイトスポーツカーなだけに、運転を存分に楽しむためにもぜひMTで乗りたいモデルだ。ロードスターのMTはクラッチフィール、シフトフィール、ギアの入りなど文句なく、MTの楽しさを渋滞中以外いつでも楽しめるだろう。
1.5リッターのソフトトップと2リッターでメタルトップとなるRFで迷ったら、筆者個人はよりロードスターらしさを味わえるソフトトップがお勧めで、グレードはディスプレイが付かない代わりに乗ればベストなロードスターかつ価格は安く、ナンバー付きワンメイクレースのパーティレース出場の資格も付いてくるNR-Aがイチオシだ。
ロードスターRF。184ps/20.9kgmを発生する2L、直4エンジンを搭載。軽快さでは1.5Lを搭載するソフトトップに譲るが、ゆったりと落ち着いた乗り味でMTを操るのも魅力的だ
■200万円ちょっとでも狙えるMT車は最高だ!
■スズキスイフトスポーツ:6MT、201万7400円~
受注生産となるがスズキセーフティサポート非装着車は187万4400円から買える。970kgという車重、140ps/23.4kgmを発生する1.4L直噴ターボを操る楽しさが200万円程度で味わえるというのは幸せだ
2017年登場で1.4リッターターボを搭載する現行スイフトスポーツは、パワフルなだけにコンパクトカーのスポーツモデルでは圧倒的に速い。
ハンドリングと乗り心地もいい意味で無難な万人が楽しめるものになっており、元がいいだけに不満があればエンジン同様にライトに手を加えれば自分好みの仕上げるのもいい。
それでいてMT車の価格はACCや自動ブレーキまで標準装備で201万7400円と内容に対し激安なので、コンパクトカーのスポーツモデルで迷ったらスイフトスポーツを買っておけば高い満足感を長期間にわたって味わえるに違いない。
6MTのシフトフィールは小気味よく決まる。初心者にも扱いやすい操作性がスイスポの魅力だ
■日産マーチNISMO S:5MT、187万6600円
マーチNISMO S専用チューンの1.5L、直4エンジンは116ps/15.9kgmを発生。そのほかマーチNISMO S専用の足回りとブレーキ、専用エアロ、専用インテリアなど多岐にわたる
現在、日産の乗用車唯一のMT車となるマーチNISMO S。設計が古いとはいえ、エンジンから足回り、専用エアロ、専用インテリアまで変更して200万円以下というのは貴重な存在。
全体的な雰囲気など楽しいクルマに仕上がっており、コンパクトカーのスポーツモデルを選ぶ際に「楽しさを最優先する」という人なら選択肢に入れてほしい。
■スズキアルトワークス:5MT、153万7800円~
搭載されるエンジンはワークス専用チューンの658cc、直3インタークーラーターボで64ps/10.2kgmを発生。FF車の車重はわずか670kg!!その軽さが軽と侮れない走りの原動力となる
FF車なら670kgという超軽量ボディに64馬力のターボエンジンを搭載するアルトワークスは、パンチある動力性能を持つ痛快なクルマだ。
痛快なのはエンジンだけでなく、サスペンションも決して不快でないホットハッチらしいコツコツとした適度に締め上げられたセットアップとなっており、多くの人が楽しめるだろう。
670kgという超コンパクトで軽量なFFママシンを、5速MTで駆る楽しさをぜひ味わってほしい。インパネのCVT(またはASG)の収まる場所は小物入れとなっている
■405psの3L、V6ツインターボを6MTで楽しめる! MT最後のスペシャルティ!?
■番外編 新型フェアレディZ:6MT、450万円~(予想価格)
2021年12月にも市販モデルが発表予定の新型Z。エンジンはスカイライン400Rと同様のVR30DDTT型3L、V6ツインターボ(405ps/48.4kgm)が搭載され、6MTが組み合わされる
今冬に登場する新型フェアレディZはスカイライン400Rとほぼ同じ405ps/48.4kgmを発生する3L、V6ツインターボを搭載、ボディやサスペンションの改良などにより、86&BRZのフルモデルチェンジのように確実な進化を果たした楽しいクルマに仕上がっているだろう。
また、先々代モデルから使われているものの改良版となるMT車はアメリカ仕様のスペックを見ると、上級グレードのパフォーマンスにはラウンチコントロール(クローズドコースでのゼロヨン勝負などのためのロケットスタートモード)が装備されるなど、いろいろな楽しみ方ができそうな点も新型フェアレディZの大きな魅力となりそうだ。
405psの3L、V6ツインターボをスカイライン400Rにはない、6MTで操る楽しみ。登場が待ち遠しい !!
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