2台のクルマ、2人のデザイナー
クルマにかぎらず工業製品は、機能だけでなくそれを内包するデザイン抜きには語れない。そして機能もデザインを左右する。表裏一体の関係にある。
【画像】交差する真っ赤な2台のイタリアンクーペ アルファGTV/クーペフィアットのフォトギャラリーをみる 全70枚
突き詰めれば、ヒトが乗り込める空間を4つの車輪で支え、走らせる動力源をまでもを格納するカタチがクルマであるわけだ。クルマをより速く走らせようとすれば流線型に、乗員により広い空間をもたらそうとすれば背が高くなる。
「形式は常に機能に従う」とは、20世紀初期の米国人建築家L・サリヴァンの言葉だ。建築とカーデザインとは必ずしも同一視できるとは限らないが、この言葉が世に出てからの100年あまり、設計者の行動をあまねく支配してきた一語であるといえよう。
ここに、2台のクルマがある。アルファロメオGTVとクーペフィアット。いずれも1990年代半ばに彼の地で生を受けた、イタリアンクーペだ。
この2台の線を引いたのはそれぞれ、イタリア人のエンリコ・フミアと、米国人のクリス・バングル。世に出てからおよそ30年を経た2024年のいまをもってして「何物にも似ていない」ショッキングな造形だ。一度見たら目に焼き付いて離れない。「忘却」「風化」といった類の形容は、およそこの2台には無縁であるといっていい。
遠戚にあたる2台が我々にもたらしたインパクトは、どうして色褪せないのか。実車から紐解こう。
哲学に基づく「意味のある」造形
GTVの線を引いたフミアは、1980年代の終盤、同じくアルファロメオで164を手がけた。
スクエアで端正なフォルムの3ボックスセダンには、盾をかたどった伝統のグリルがフロントに掲げられる。この164の側面に重ねられたプレスラインが、のちのGTVのインパクトを密かに予感させる。
GTV、およびそのオープンモデルであるスパイダーのスタイリングのハイライトは、大きく切り込みが入るフロントフェンダーとキャビンにほかならない。見る者の視線を釘付けにするこの鮮烈なプレスラインには、いうまでもなく機能の裏付けがある。それはボンネットの分割線であったり、ドアオープナーであったり。決して前衛的で目を惹くだけの造形ではない。
斜めのプレスラインに隠されたドアオープナーに指をかけてドアを開くと、外まわりに比べると常識的な造形のインテリアが広がる。ドライバーズシートに収まると、接近したフロントスクリーンやこちらを向いた計器類が、否が応にも積極的なドライビングを訴えかける。
シフトをローにいれ、徐々にクラッチペダルを離す。セカンド、サードへと、シフトアップ。2.0L V6ターボは低回転域こそトルク感に欠けるが、ガスペダルを踏み込むほどに、こと3000rpmを超え過給が始まると、はじけるような加速をもたらす。
そこからは前に前にとせき立てるGTVと、みずからの理性とを闘わせる作業だ。今となってはビッグパワーとはいえないパワートレイン。跳ね上がる回転計の針に呼応して高まるV6サウンドが、緊張を高める。
アルファGTVは、強いウェッジシェイプが効いたエクステリアから受ける印象そのままに、前のめりにドライバーを盛り立てる。カタチとナカミが実によく整合した1台といえよう。
デザインの歴史は財産だ!
クリス・バングルの名を世間に知らしめた1台がクーペフィアットだ。4mと少しの全長に大人4名が過ごせる車内空間と、十分以上のラゲッジを有し、優れた実用性を備える。車台とパワートレインは当時の他車種からの流用を中心にまとめられている。クルマのパッケージングとしての完成度は高い。
クーペフィアットのハイライトは、何を差し置いても、この唯一無二のボディに尽きる。巨大なプレスで機械的に加工されたようなGTVに対して、クーペフィアットは、職人が木型を手に金属板を叩き出したような造形。ひとつひとつのディテールは古典的ですらある。盛り上がったフロントフェンダーの峰しかり、むき出しのフューエルキャップしかり。
それでいて、世に産み落とされた1台のクルマとして、カタチが古びない。「ことし発表されたBEVです」と告げられても受け入れてしまいそうだ。いま見ても年季を感じさせない。
そう感じさせる一因は、GTVと同様、一見奇抜な造形も機能に即しているからではないだろうか。たとえば、前後のフェンダーは通常の半円形で処理するのではなく、前傾した鋭利な切れ込みで処理した。想像してほしい。もしクーペフィアットが平凡なフェンダーを備えていたら、そのビジュアルはいかにも凡庸で退屈であっただろう。
奇をてらったようでいて、そこにはかならず機能が内在する「意味のある」デザイン。それこそがこの2台にタイムレスな魅力をもたらしている。2024年のこんにち、世に溢れているクルマたちに目を向けるとどうだろうか。意味もなくキャラクターラインをこねくり回し、これでもかとメッキ加飾を加える。
10年、20年と時を重ねてなお、輝きを放ち続けるのはどんなデザインか。持続可能性が叫ばれるいま、メーカーだけでなく消費者も、来たる明日だけではなく、これまでの足跡に目を向けて考える必要がある。
試乗車のスペック
アルファロメオGTV
全長×全幅×全高:4230×1780×1280mm
駆動方式:FF
車両重量:1370kg
パワートレイン:V型6気筒1990cc+ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:231ps/6000rpm
最大トルク:27.6kg-m/2500rpm
ギアボックス:5速マニュアル
タイヤサイズ:205/50R16(フロント・リア)
フィアット クーペフィアット
全長×全幅×全高:4250×1765×1340mm
駆動方式:FF
車両重量:1320kg
パワートレイン:直列4気筒1995cc+ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:195ps/5500rpm
最大トルク:30.2kg-m/3400rpm
ギアボックス:5速マニュアル
タイヤサイズ:205/50R15(フロント・リア)
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みんなのコメント
今も全く色褪せていない。
ヨトタはじめ、個性やデザイン力、センスの無い日本車メーカーには未来永劫作れないクルマ。