この記事をまとめると
■自動車は誕生してから250年以上の歴史を持つ
クルマのシートベルトに付いている「丸い樹脂」! 誰もが目にする謎部品の「正式名称」と「目的」とは
■クルマは常にユーザーが安全かつラクに使用できるよう進化してきた
■画期的でありながらも誕生当初は荒削りであった技術も時代が進むにつれ進化してきた
自動車は誕生して2世紀半以上の歴史がある
世界初の自動車は、馬車の車体に初歩的なエンジンを積む構造だった。エンジンの力で走る乗り物、馬なしで自立して走る乗り物、ゆえに「オートモビル」と名付けられた。その自動車誕生から137年(ベンツ1号車)、キュニョーの蒸気機関搭載車を自動車とするなら250年余の歴史を持つことになる。
この間に自動車はあらゆる面で進化、発展を遂げてきた。いい方を変えれば、新メカニズムの登場が繰り返されてきたわけだが、そろそろEVが自動車の主力を占めそうな見通しとなってきた現在、これまでの歴史を振り返って「なるほど、これはすごい、頭がいい」と感心させられるメカニズム、発明を独断と偏見で選んでみた。
まず、自動車の歴史のなかで、これはすごいメカニズム、発明と思われるもののうち、その半数程度は他分野からの応用だった。シートベルト(1929年航空機用/ボーイング社)、ABS(アンチロックブレーキ1936年鉄道車両用/ボッシュ社、1947年航空機用/ダンロップ社)、ターボチャージャー(1915年航空機用/スルザー社)、そして空力関連の機能パーツ類などで、ここでは自動車が発端となるメカニズムについて振り返ってみたい。
まず、衝突安全に関して画期的、といえる装備がエアバッグだ。正確には、SRSエアバッグといわれるように、シートベルトとセットにして、その補助装置として乗員の安全を守る装備として実用化されているが、シートベルト同様、考案当初は否定的な見方が多かった。ちなみに、シートベルトを装着して衝突事故となった場合、腹部に強い衝撃を受けて内臓破裂を引き起こす、という否定論が多かったのである。
衝突時に衝撃を受けた方向からエアバッグを開き、乗員の体を受け止める衝撃吸収装置のエアバッグだが、衝撃を受けてからエアバッグが展開するまでに時間を要し、現在のような火薬式、電子スイッチ式といった反応時間の速い方式が考え出されるまで実用化には結び付かなかった。
現在と同じ方式のエアバッグが採用されたのは、オプション装備として1980年にメルセデス・ベンツSクラス、日本車では1987年のホンダ・レジェンド、全車標準装備(運転席)となったのは1992年のホンダ・ドマーニが初となっていた。現在では必要不可欠な安全装備と認知されているエアバッグも、普及当初はオプション装備だったという点が興味深い。
同じく安全装備で、走行車両のスピンを防ぐ働きをする車両挙動安定装置の考案も、特筆すべきできことと言えるだろう。原因は何であれ、スピンしかかっている車両の挙動を安定させ、何事もなかったかのように車両の挙動を保つ車両挙動安定装置の実用化は、自動車史にとって、大きな出来事だったといえるだろう。
製品化(実用化)は、メルセデス・ベンツのESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム=1995年)が世界初で、わずかに遅れてトヨタのVSC(ビークル・スタビリティ・コントロール=1995年)が登場している。
このシステムは、その効果から考えるとアンチスピンシステムといい換えてもよく、基本的には4輪に独立して作用するブレーキシステムと駆動力(エンジン出力)を制御するシステムから成り立っている。具体的なメカニズム名で言えば、発展型のABSとTCS(トラクションコントロールシステム)となる。車両の挙動変化、いい換えれば前輪の横滑り(=アンダーステア)と後輪の横滑り(=オーバーステア)を制御する仕組みで、とくに後輪の横滑り制御は、スピン状態を回避する働きとして重要な意味を持っている。
システムの作動を説明すると、後輪が横滑りしている状態(旋回と同一方向のヨーモーメント、過大なヨーモーメント=スピンモーメントが発生)では、スピンモーメントと逆方向のモーメントを発生させ、スピンモーメントを打ち消す働きをする。クルマの動きに置き換えると、旋回外輪となる前後輪に制動力を発生させ(アンチスピンモーメントの発生)、同時に車両の速度を抑えるためにエンジン出力を絞ること(TCSの稼働)で、スピン状態にならないよう車両挙動を修正するわけだ。
実際、大出力のエンジンを積むスポーツカーや高級サルーンのほとんどが採用する後輪駆動方式で、ともすると陥りやすいスピンに対し、車両搭載のシステムが事前に防いでくれることは、予防安全上の見地で絶大な効果がある。もちろん、前輪が滑るアンダーステアに対しても有効だが、車両の方向性が失われてしまう後輪駆動車のオーバーステアを防ぐという意味での効果は大きい。
最新技術は人々の悩みを解決してきた
エンジンメカニズムでいえば、ガソリンエンジンの運転状態を安定させた燃料供給システム、フロートチャンバー付きキャブレターの完成が見逃せない。ガソリンエンジンが自動車の動力機関として採用されたのは1886年。カール・ベンツによる世界初のガソリン自動車だが、動く乗り物の動力源であるエンジンに、ガソリン(混合気)を安定して送り込む装置としては、当時のキャブレターは未完成な状態だった。
このキャブレターにフロートチャンバーを設け、常に安定した状態で燃料を供給できる装置に完成させたのが、ダイムラー社のマイバッハだった。1894年のことで、マイバッハが考案したキャブレターは、現代のものとほぼ同じ基本構造を持っていた。
自動変速機、ATも自動車の創生期に考案されたメカニズムのひとつだった。MTに対するATのように、運転操作の簡略化、自動化は、機械を操る人間にとっての永遠の課題となってきた。発案者はイギリス人のフレデリック・ウイリアムス。最初のイギリス製ガソリン4輪車(1896年)を作ったランチェスター3兄弟のうちのひとりで、複合型のプラネタリーギヤを使うプリセレクト方式の自動変速機を考案。このプラネタリーギヤ方式という言葉にピンとくる人もいるかと思うが、これにトルクコンバーター(流体継手)を組み合わせると、現代の標準的なATになる。いい換えれば、現在ATとして普及している装置は、じつは120年も前にその原型が作られていた。
車両の方向変換性を上げるため、考え出された4輪操舵方式(4WS)は、陸上を走る自動車ならではのメカニズムといえるだろう。自動車は、通常、進行方向を変えるため前2輪に舵角を与えて向きを変えているが、車体に長さがあるため、最小回転半径が自ずと生じることになる。高速走行時には必要性のない小まわり性だが、車庫入れ(=駐車)、幅の狭い道での方向変換などを考えた場合、回転半径の大きなクルマでは切り返しが必要となり、車両の取りまわし性が悪くなってしまう。
この問題を解決するため、後輪にも舵角を与えればより小さな回転半径が得られるようになる、という発想が生まれてくる。これが4輪操舵システムで、1980年代後半に一時注目されたが、幅広く普及することはなく、いつの間にか下火となったシステムだ。しかし、あえてここで4WSを取り上げたのは、低速域の取りまわし性だけではなく、制御の仕方によってハンドリング性能の向上に貢献するシステムとして活用されたからだ。
4WSで後輪の舵角方向は、前輪と同相、逆相のふたつがある。同相の場合は、安定方向、向きが変わりにくい方向で作用し、逆相の場合は、小旋回性を促す方向、向きが変わりやすい方向で作用することになる。ここで取り上げるのは、日産が実用化したSUPER HICAS(スーパーハイキャス)で、最終的に電動システムに進化を果たしているが、高速走行時の初期応答性をよくするため、転舵初期には後輪を逆相転舵、向きが変わり始めたら旋回挙動を安定させるため今度は同相転舵へと動きを変える。
後輪舵角量が大きかった初期の4WSは、さほど大きな意味を持つ操舵システムとはいえなかったが、後輪転舵の逆相/同相を瞬時に切り替え、車両に発生するヨーを効果的に活用した日産のスーパーハイキャスは、特筆に値するシステムだった。
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