水素エンジンの普及に向けたチャレンジだった!
2008年のニュルブルクリンク24時間レースにレクサスLFAを投入したほか、2017年の大会にはトヨタC-HRを投入するなど、発売前のニューモデルを実戦に投入することでフィードバックを行なってきたトヨタGAZOOレーシング。そのチャレンジングな姿勢は2021年も健在だった。
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スーパー耐久シリーズの第3戦として2021年5月20日から5月23日にかけて富士スピードウェイで開催された「富士スーパーテック24時間レース」にトヨタGAZOOレーシングは開発モデルのカローラH2コンセプトを投入。同モデルは水素エンジンを搭載した世界初のレーシングマシンで、トヨタ自動車の豊田章男社長がオーナーを務めるプライベートチーム、ROOKIE RACINGのオペレーションのもと、過酷な24時間レースで実戦デビューを果たした。
水素を使った自動車として思い浮かべるのは、MIRAIに代表されるように、水素を燃料に発電し、その電気エネルギーでモーターを駆動させるFCV(燃料電池車)だが、このカローラH2コンセプトは水素を燃料にしたエンジンを搭載した車両である。
エンジンはGRヤリスに搭載されている1600ccの3気筒ターボをベースにしながらも、燃料デリバリーシステムとインジェクション、プラグを変更することで水素に対応するほか、GRヤリスと同じ4WDシステムを採用。燃料タンクはMIRAIで採用されている水素タンクを2本搭載するほか、小型のタンクも2本搭載されており、安全性を高めるためにリヤシート部にマウントされていた。
「水素はガソリンより燃焼速度が約7倍も早いので、燃焼室が高温・高圧になることから熱マネジメントが重要になってきますが、GRヤリスのエンジンはモータースポーツを前提に作られているので高負荷にも耐えられるし、直噴の技術を生かすこともできた」と語るのはGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントで、ベース車両にカローラを選択した理由について「水素ボンベを搭載するためにはある程度のスペースが必要だったし、水素エンジンを普及させるためにみんなが知っているクルマで参戦したかった」と付け加える。
ちなみに、富士24時間レースでは水素充填に備えて岩谷産業が2台の移動式水素ステーションを導入。ピットインの際にはピット前でドライバーとタイヤの交換を行なって、その後に水素ステーションへ移動して、水素の充填が行われていた。
水素の供給システムの軽量化が課題!
カローラH2コンセプトの参戦クラスは「STOが参加を認めたメーカー開発車両または各クラスに該当しない車両」を対象とするST-Qクラスで、ドライバーの顔ぶれは井口卓人選手、佐々木雅弘選手、モリゾウ選手、松井孝允選手、石浦宏明選手、小林可夢偉選手と豪華な顔ぶれだ。
そのドライバーのひとり、小林は水素エンジン搭載車のフィーリングについて「いわれなければ水素エンジンとわからない。ガソリンエンジンとほとんど変わらない」とインプレッション。事実、その走行シーンは他のガソリン搭載車と変わりはなく、エキゾーストサウンドも迫力満点となっていた。
その一方で、マフラーから排出されるのは水蒸気であることから、カローラH2コンセプトのピット内はガソリンエンジン搭載車のように特有の排ガス臭はなく、このことが筆者にとってはもっとも“エコ”を感じられるシーンだった。
気になるパフォーマンスについてだが、カローラH2コンセプトのべストラップは、佐々木がマークした2分04秒059で、このタイムはST-5クラスのマツダ・ロードスターと同等のレベルにあたる。ST-2クラスに参戦したガソリンエンジン搭載のGRヤリスのラップタイムが1分56秒台となっていることから、カローラH2コンセプトはまだまだパフォーマンス不足にあるようだが、前述の佐藤プレジデントによれば「水素エンジンもガソリンエンジンと同じ出力を出せますが、今回はテストということもあってパワーを抑えた状態で参戦しています。それに水素の供給システムで約200kgも重くなっています」とのこと。
逆に言えば、出力向上の余地があるほか、水素の供給システムの軽量化が進んでいけば、カローラH2コンセプトのパフォーマンスは進化を遂げるに違いない。
これと同時にカローラH2コンセプトにおいて課題となっていたのが燃費性能だった。1スティントで約1時間~約1時間30分の走行を行う他のガソリンエンジン搭載車両に対して、カローラH2コンセプトの連続走行時間は30分に満たず、11周から13周おきに水素充填を行っていた。しかも、1回の給水素に要する時間は約8分で、モータースポーツで上位争いを展開するためには、燃費性能と水素の充填システムのさらなる改良が必要になってくるだろう。
残念ながら、このカローラH2コンセプトはナイトセッション中に電気系統のトラブルでマシンを止めたほか、レース終盤には足まわりのトラブルが発生するなど、いくつかニューマシンゆえのマイナートラブルが発生したものの、それでも385ラップを重ねており、過酷な24時間レースをフィニッシュした。
自身も“モリゾウ”としてカローラH2コンセプトのステアリングを握ったトヨタ自動車の豊田章男社長は、「今回の参戦は未来のカーボンニュートラル社会への選択肢を広げるための第一歩でした。これをレースの場で、示すことはできたと思います」と語ったが、まさに水素エンジンの可能性を示す1戦となったのではないだろうか。
このカローラH2コンセプトは今後もスーパー耐久への参戦を継続する予定となっているだけに、レーシングマシンとして着実に進化を遂げていくに違いない。かつてトヨタは2006年の十勝24時間レースでハイブリッド車両を投入し、翌2007年に早くも優勝を獲得したほか、その後はハイブリッド車両を武器にWECで黄金期を築いた実績を持つだけに、近い将来、水素エンジンもモータースポーツで活躍するユニットになることだろう。
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みんなのコメント
それによって、どれくらいの燃料タンクを装備するかでレース車輌の重量も参加カテゴリーの基準に合わせなきゃいけない。
正にグラム単位の計算で、水素エンジン車でのレース参加にトヨタの限りない熱意を感じる。
「速く走る」よりとりあえず「走る切る」方向でセッテイングしているのは当たり前。
課題とか言っているがそんなモンはトヨタは勿論みてりゃ分かる。
もう少し切り込み口はあるだろ。