FUNBASEよりも広々としたベッドスペースが実現
トヨタの人気コンパクトミニバンであるシエンタ。とくに先代シリーズ途中から加わった2列シートのFUNBASEは、アウトドア、キャンプ、そして車中泊にうってつけの大容量ワゴンと呼べる超ユーティリティカーだ。シエンタ人気を一気に押し上げた立役者だった(発売翌年にはシエンタが乗用車販売台数NO.1に輝いたほど)。グランパーという、さらにアウトドア向けの特別仕様車も存在した。
トヨタ新型「シエンタ」は車中泊で使える? アウトドア視点で徹底解説します
そんなシエンタが2022年8月、3代目の新型となった。先代は古いヴィッツのプラットフォームを使っていたのだが、新型は一気にトヨタ最新のTNGA、ヤリスなどに使われるGA-Bプラットフォームに刷新。
先代の派手過ぎた!? エクステリアデザイン!? は一転、ぶつけやすい前後フェンダー部分とボディサイドに黒い未塗装のプロテクションモールを配したクロスオーバー感覚のあるデザインに変貌。ギア感あるミニバンとなったのだ。
新型シエンタはリビング感覚の室内空間を演出
それだけでも大きな進化だが、インテリアも刷新。先代のギラギラした質感とは決別し、シックで上質なテイストでまとめられ、なんとインパネ上面やドア内張りに布地を用い、上質感あるファブリックを使ったシートとともに、落ち着いたリビング感覚の室内空間を演出しているではないか。
じつは、インテリアにもTNGAの恩恵があった。それはドライビングポジション。先代はシートポジションに対してインパネが低く、メーターなどを上から見下ろすような不自然さがあった。それが新型ではごくまっとうな位置関係となり、自然なドライビングポジションが取れるようになっているのだ。それもプラットフォームの刷新がもたらしたポイントなのである。
新型シエンタの全長、全幅、ホイールベースは先代とまったく同じ。だが、全高のみ20mm高まり、それは室内高+20mmに反映されている。また、リヤスライドドアの開口部は、高さ方向で一気に60mmも高くなり、先代と同じ、世界の乗用車で最も低い部類のステップ高330mm(フリード+は390mm)とともに、乗降性を格段に向上させたと言っていい。
ここでは、アウトドア、キャンプ、車中泊に向く2列シートモデルの話に特化させてもらうが、先代のFUNBASEという呼び方は、営業的に却下されたようで、シエンタの7人乗り3列シート、5人乗り2列シート……というラインアップになっている。
パッケージングの考え方もあらためられたようだ。というのは、基本となる7人乗り3列シートモデルの先代ユーザーのほとんどが、普段は3列目席を格納して(2列目シート下にすっぽり格納できる)使っていたそうなのだ。
ならば、新型では3列目席の居住性にこだわるより、ミニバンの特等席である2列目席の居住性を重視すべきと判断したようで、3/2列シートともに1-2列目席間距離=カップルディスタンスを先代比で80mm増しているのである。つまり、2列シートモデルでも、後席の居住空間が広がっていることになる。
具体的に説明しよう。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で、その背後のフルフラットフロアの2列目席に座れば、新型は頭上に220mm、膝周りに260mmもの空間がある。先代は同200mm、220mmである。
ちなみに先代のシエンタとFUNBASEでは、2列目席のシートクッション構造が異なり、かけ心地がよりソファ感覚で良かったのは、タンブル格納のシエンタよりチルトダウン格納のFUNBASEのほうだった。
新型でもその構造は変わらないものの、かけ心地の差は縮まっている……のだが、フロアからシート前端までの高さ=ヒール段差が先代より約20mm低まったため(頭上空間のゆとりには効果的だが)、着座姿勢が膝を立てるような不自然さがあり、シートバックのフィット感もいまひとつ。2列目席のソファ感覚の心地よいかけ心地という点では、先代FUNBASEが上回る印象だ。
つまり、デザイン、パッケージングでは新型シエンタが圧勝、新しいのだから当然だが、2列目席は居住空間が広がってはいるものの、シートのかけ心地の進化は微妙……ということになる。
アウトドア、キャンプ、車中泊では荷室の広さ、荷物の積み込みやすさ、そしてなんといっても車内をベッド化したときのスペースが重要だ。
より大きな荷物も積みやすくなった
まず、重い荷物の出し入れ性にかかわる荷室開口部地上高だが、先代が530mm、新型が565mmとなる(+35mm)。じつは3列シートは505mmで、2列シートのほうが60mmも高いのだ!
その理由はズバリ、車中泊対応と言っていい。つまり、荷室フロアの高さと2列目席をチルトダウン格納したときの高さを合わせるためなのである。もし3列シート同様の荷室フロア地上高505mmにしたとすれば、後席を格納したフロアの途中で60mmの段差ができてしまったことになる。
とはいえ、世界のステーションワゴンの荷室フロア地上高の平均値は620mm程度だから、565mmでもすこぶる低いと言っていいだろう。
後席使用時のフロア長は先代が935mm、新型が840mmと狭まっている。理由は後席の膝周りスペースをかせいだことによるはずだ。フロア幅は先代1115mm、新型1265mmと、こちらは広がっている(TNGA効果か?)、そして荷室高は先代が1080mm、新型が1105mmと、35mmの余裕ができ、より大きな荷物も積みやすくなったと言っていい。
荷室高が高いということは、車内をベッド化したときの天井も高くなり、より広々としたベッドスペースになる、ということだ。
さて、肝心の後席格納によるベッド長だが、前席をそのままにした条件、つまり荷室奥行き+後席格納部分のフロア長では、先代が1600mm、新型が1670mmと、70mmも拡大(新型の5人乗りの最大荷室長は2045mmだが、フロア長とは異なる)。
それじゃあ、身長172cmの筆者が真っすぐ横になれない……わけではない。斜めに寝る……でもない。筆者が数十年前に開発(!?)した、ヘッドレスト逆付け作戦を用いれば、その部分が枕代わりになり、実質的なベッド長が延長されるのである。
そうすると新型のベッド長は1760mmに達する。先代の同1660mmでは不足気味だった後席格納ベッド長は、明らかに新型が優位ということになる(祝)。身長およそ176cmまでの人なら、真っすぐに横になれるのである。
もちろん、TNGAによってHV、ガソリン車ともに走りは断然よくなっており、先進運転支援機能=トヨタセーフティセンスに至っては進化幅絶大。先代FUNBASEのほうが優れているのは後席のかけ心地(筆者と同乗したふたりの印象)ぐらい、と思って間違いない。
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