2021年12月にトヨタの豊田章男社長がメガウェブ(MEGA WEB)で「バッテリーEV戦略に関する説明会」を実施し、一気に15台の新型EVを披露したことを覚えている方も多いだろう。ここで披露された新型EVはいずれも市販に向けて開発中であり、順次世界市場のどこかで発売されていく見込みだが、本日はそのうちの一車種、「bZ SDN」の市販版が、なんと中国の政府系サイトで初披露されたという情報をお届けします。マジかー。
文/加藤博人(中国車研究家)、写真/加藤博人、中華人民共和国工業情報化部、TOYOTA、三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY
おおぉ…マジかよ!! トヨタ最新EVセダン「bZ3」まさかの中国政府系サイトで初披露をキャッチ!!
■「トヨタの今後100年を左右する歴史的な発表」
トヨタが満を持して世に送り出した純電動SUV「bZ4X」。2021年4月に開催された上海モーターショーにてEVサブブランド「TOYOTA bZ」と同時に発表されたこのクルマは、トヨタ初の世界戦略EVとなる。
トヨタの世界戦略EV「bZ4X」。国内ではKiNTO(サブスクサービス)のみの扱いで、2022年5月から発売開始されている
ちなみに、カン違いされやすいのだが、bZ4Xはトヨタ初のEVではない。四半世紀以上前となる1996年には「RAV4 EV」を市場に投入しているし、1997年の東京モーターショーでは「e-com」という2人乗りシティコミューターが発表され、2021年末で閉館となったトヨタの体験型施設「メガウェブ」では試乗も可能であった。
また、2019年には中国限定ではあるがC-HRとその姉妹車であるイゾアの純電動モデルを発表し、一般向けに販売している。2020年にはレクサスが中国市場を皮切りに、コンパクトSUV「UX」の純電動モデル「UX 300e」を、トヨタからは2人乗りの「超小型モビリティ」として「C+pod」などもリリースしている。あまり目立つ存在ではないが、トヨタはこれまでも中国市場を中心に電気自動車を販売してきたのである。
2021年12月には先述のメガウェブにて、「バッテリーEV戦略に関する説明会」と銘打った発表を行った。メガウェブはすでに同月末での閉館が決まっており、トヨタの「平成」とともに歩んだ象徴的な施設にて開かれた、「トヨタの今後100年を左右する歴史的な発表」というのは、なんとも涙を誘う演出であったと筆者は今でも思い返す。
2021年12月に実施された「バッテリーEV戦略に関する説明会」。最前列左端にbZ4Xがあり、それ以外の15台は世界初披露となった。世界中の自動車関係者に「トヨタはEVも本気だ…」と激震が走った発表だった
豊田章男社長じきじきに「未来のショールーム」と紹介されたパートでは、トヨタグループが2030年までに展開する30車種のバッテリーEVのうち、新たにお披露目となったコンセプトモデル15車種を公開。「bZシリーズ」の名前を冠するモデルや、レクサスブランドの純電動モデル、ミドシップ風のレイアウトが特徴的な2ドアスポーツカー、ランドクルーザーを彷彿とさせるオフロード車、北米で大人気のピックアップトラック「タンドラ」の電動化を示唆させるモデル、そして配送用途に便利な純電動商用車など、豊富な選択肢が豊田章男社長によって提案された。
あれから8ヶ月、メガウェブでお披露目されたそれぞれのモデルの詳細は徐々に明らかとなってきている。
まずは2列目の右端に鎮座していたレクサスの大型SUVだが、これは2022年4月に「レクサス RZ」として正式に発表された。また、3列目中央の目立つ位置に置かれていたメタリックレッドのコンパクトSUV「CROSSOVER EV」。これは2022年7月に行われた新型クラウンの発表会にてその正体は「クラウンスポーツ」であることが明らかとなった。
そして今度は、「bZシリーズ」第二弾となる新型EVの詳細が明らかとなったわけだ。だが、それはトヨタの手によってではなく、中華人民共和国の政府系ウェブサイトからという。一体どういうことなのか。
■トヨタの新型EVセダンに中国メーカーはどこまで関わっているのか?
情報が判明したのは、中華人民共和国工業情報化部(通称:工信部)のサイトから。
中国「工進部」の公式サイトに掲載された「bZ SDN」改め「bZ3」。フロントマスクや全体のフォルムに「bZ4X」の面影がある。かなりオーソドックスなセダンフォルムであり、「次期カムリ」と言われても信じそう
「工信部」は日本でいう経済産業省や総務省のような立ち位置の行政機関で、中国では自動車メーカーが新たなモデルをリリースする前に、その情報を工信部へ届け出る必要がある。その情報は一般にも公開されるため、自動車メーカーがどんなモデルのリリースを予定しているのか。そこからわかる仕組みになっている。
この経緯で判明したのが、「bZ3」というコンパクトセダンだ。名前からは察するに、このモデルが「bZシリーズ」第二弾であることは明白で、デザインを見るとすでにメガウェブで「bZ SDN」としてお披露目されたコンセプトモデルの市販車であることがわかる。以下、詳しいスペックを見ていこう。
ボディサイズは全長4725mm×全幅1835mm×全高1475mm、ホイールベースが2880mmとなっている。製造会社はトヨタと第一汽車の合弁会社「一汽トヨタ」が行うと記載されており、それはリアにある「一汽豊田」のエンブレムからもわかる。
リアを写した画像には「一汽豊田」のエンブレムが確認できる。トランクにはリアスポイラーも確認でき、かなりスポーティなテイストになることもわかった
ただ、目を引くのはバッテリーとモーターに関する記述だ。それぞれのメーカーは「弗迪」とされているが、これは電動車で有名な中国BYDの子会社となる。なぜBYDがここに関係しているのかには深い理由が存在する。
1995年にバッテリーメーカーとして誕生したBYD。広東省深圳市が本拠地のこの会社は2003年より自動車の生産も開始、2008年には世界初となるプラグインハイブリッド量産車の「F3DM」をリリースした。2021年の中国市場では電気自動車(EV)+プラグインハイブリッド車(PHEV)合わせて約60万台を販売したBYDだが、実は日本でも、すでに2015年からBYD製のEVが販売されている。
そのEVとは「電気バス」である。日本市場においては2015年に大型電気バス「K9」が京都市内を走る「プリンセスライン」へ5台納入し、事業をスタート。現在までに24の事業者へ約60台の電気バスを納入しており、日本におけるEVバスシェアの約7割を誇る。2022年7月には日本の乗用車市場への参入も表明し、これから日本でもますます見る機会が増えるのは間違いない。
そして2019年に「電気自動車の研究開発に関する合弁会社の設立に向けた契約」をトヨタと締結し、翌年には合弁会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY」を設立した。2021年の上海モーターショーで行われた「bZシリーズ」の立ち上げの際には、提携パートナーとしてBYDの名前も挙げられており、「bZシリーズ」モデルの開発に関わるというのは前々から推測されていた。
それを決定づけたのが、2022年3月に深圳市で発見されたとあるテスト車両である。黒くカモフラージュされたこの車両は至る所にコンセプトモデル「bZ SDN」の要素が確認できており、その市販モデルのテストを行なっているのは確実であった。
2022年3月に深圳市で発見されたテスト車両。偽装されているが、「bZ SDN」であることは間違いなく、またテスト車両を確認すると(このテスト車両の時点では)製造ブランド書類に「BYD」と記されていた
だが、何よりも話題となったのが、そのテスト車両がダッシュボードに乗せていた一枚の書類。日本の車検証のような役割を果たすこの書類には、このテスト車両のメーカーとブランドが「BYD」と記載されていたのだ。見た目はトヨタのbZ SDN、でも製造はBYD。これが話題となり、bZ SDNの市販モデルへBYDが関与することは確実視された。
一方で、どの程度BYDが関与しているかは依然として不明のままであった。パワートレインだけの供給なのか、それとも乗り味に影響するプラットフォーム全体も設計しているのか、はたまたOEM供給のように丸ごとBYD製なのか。
憶測が憶測を呼ぶ事態となったが、今回の情報公開で明らかとなったのは、BYDが関与しているのはbZ SDN改め「bZ3」の駆動用バッテリーとモーターの供給だけという点である。なので、製造はトヨタ(一汽トヨタ)だし、例えばABS部品はトヨタグループの一員である「アドヴィックス」と記載されていることからも、大部分はトヨタの設計となっている。
2021年12月の発表会時の「bZ SDN」。この時点ではまさか「中国市場で先行発売される」とは夢にも思わなかったが…なるほど……(「これが次期プリウスになるのではないか」という予想はあった)
気になるパワートレインのスペックだが、モーターは出力135kWと180kWの2種類が用意されていることから、少なくとも出力の異なる2モデルが展開されることがここからわかる。また、記載方法から両方とも二輪駆動なのは間違いない。ただし、バッテリーの容量は不明なので、一充電でどれほど走るかの数値は正式発表を待つしかなさそうだ。
通常、工信部に情報が掲載されるということは、そのモデルが発表間近の段階にあることを示す。bZ3の正式発表はいつになるかは不明だが、2022年中には何かしらの発表があると期待したい。
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