1月1日にサウジアラビア・ハイルをスタートする「ダカールラリー2022」だが、主催のASOは2022年大会の詳細を11月29日発表。いよいよ臨戦ムードも高まってきた。31回目の挑戦となる日野チームスガワラも、強力な参戦車両を用意し並み居るモンスターマシンに挑む。
今回の参戦車両は、2019年頃から企画していたというハイブリッドシステムを満を持して投入。エンジン+モーターでシステム最高出力1080PSを発揮する。車体形状もキャブオーバー型からボンネット型に変わり、菅原照仁氏が駆る車両としては初めてトルコン式ATも採用された。
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さきごろサウジアラビアへの船積み直前に日野自動車の御前山テストコース(茨城県常陸太田市)で行なわれた試走の模様を独占取材。日野チームスガワラとして新たな挑戦となるHVトラックの全貌を追った。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/「フルロード」編集部
[gallink]
モンスターマシンに挑む日野チームスガワラの新布陣
ダカール2022は3年連続でサウジアラビアでの1国開催となるが、ルートは80~85%が新しく設定される。1月1日にハイルでスタート・ポディウムが行なわれ、長い戦いがスタートする。ペルシャ湾に沿って南下した後、2022年大会の目玉となるアラビア半島南部の3分の1を占める広大な砂漠、ルブアルハリ砂漠に入る。1月8日に首都リヤドで休息日が設けられた後、紅海に面するジェッダで1月14日にフィニッシュを迎える予定だ。
サウジアラビアで行なわれる「ダカールラリー2022」のコース。1月1日にハイルでスタート・ポディウムが行なわれ、熱戦がスタート。ペルシャ湾に沿って南下した後、ハイライトとなるアラビア半島南部の3分の1を占める広大な砂漠、ルブアルハリ砂漠に入る。1月8日に首都リヤドで休息日が設けられた後、紅海に面するジェッダで1月14日にフィニッシュを迎える
ダカールのトラック部門の上位陣は、現行規定の最大排気量である13ℓ級エンジンを搭載し、最高出力1000PS超、最大トルク4000Nm超を発揮するモンスタートラックの独壇場だ。
いっぽう日野チームスガワラは8.9ℓの(A09C︲TI型)で挑戦を続けている。近年のダカールではコースの難易度向上とともに高速化が進み、小排気量エンジン搭載車は小型軽量な車体のメリットを活かせない。チームは10ℓ未満の小排気量クラスにとどまりながらエンジンの高出力化と走破性の向上を追求していた。
今般のハイブリッドシステムの導入もライバル勢との排気量の差を補填し、総合上位争いに食い込むことを狙いとする。
なお、今回の新型の乗員体制は、例年に引きドライバー・菅原照仁/ナビゲーター・染宮弘和/メカニック・望月裕司という布陣だ。
高出力エンジンと新搭載のハイブリッドシステム
新型に搭載するA09C︲TI型エンジンは、前回の最大出力750PS/2600rpmからエンジン単体でプラス50馬力アップの800PS/2900rpmに高められた。最大トルクは前回の236kgm/1200rpmからマイナス2kgmの234kgm/1700rpm。より高回転型の高出力エンジンにチューニングされている。
車両後方から見た車体下部。上中央に見えるのがモーターでプロペラシャフトを介して車体中央のトランスファーに接続されている
そのいっぽうカナダのTM4社製のモーター/発電機を車両の一番後方のフレーム下に搭載。モーターの最大出力は280PSで、基本的にトルクを出しにくい低回転領域のアシストを行なう。エンジン+モーターでシステム最高出力1080PSを発揮する。路面状況や走行状態に応じてドライバーによるアシスト領域の変更も可能だ。
電動機をシャシー後端部に搭載するのは、一般的なハイブリッド車のようにエンジンの直後に配置するとギアボックスへの入力トルクが大きくなり、トルクコンバータ式自動変速機「アリソン300シリーズ」の入力許容量を超えてしまうためだ。
荷台部中央にはバッテリーの代わりに採用されたジェイテクト社製のキャパシタを配置。モジュールを6基直列につないだ蓄電ユニットで、出力を制御するインバーターはその直下に置かれる。
中央にあるのがジェイテクト社製の高耐熱リチウムイオンキャパシタ。その左のシルバーの箱は燃料タンクで新レギュレーションに対応した燃料漏れが起きにくい安全の高いタンクだ
キャパシタの容量はワット/アワーで換算すると約600Wh。一般的なハイブリッド車の駆動用バッテリーが持つ何キロWhという容量からすると少ないが、キャパシタは充放電速度がバッテリーよりも遥かに早く、バッテリーよりも大きな電力量を短時間に出し入れできる特徴を持つ。このため、減速時の回生エネルギーを効率よく回収し、直後の加速時に駆動力として使うなど、フル加速・フル減速を頻繁に繰り返す競技車のハイブリッドに適している。
アリソン社製のトルコン式6段AT。トルクの増幅作用、途切れのない変速などタイム短縮につながる効果をもたらす。
ATのシフトレバー。その左にあるのはハイブリッドのアシスト量を切り替えるスイッチ
リアボディやキャブを中心に軽量化も実現
こうしたハイブリッド化により当然重量は嵩む。そこで今回リアボディやキャブを中心に大幅な軽量化が図られた。リアボディは、従来のアルミボティからアルミのフレームにFRP張りとすることで約18%の軽量化を実現している。
リアボディはアルミフレームとFRP製パネルの組み合わせで従来比約18%の軽量化を実現。整備しやすいように側面パネルはウイング状の開閉機構を持つ。なお車体の寸法は全長6700mm、全幅2500mm、全高3100mm(DK2021レンジャーより+100mm)、ホイールベース4170mmで大きな変更はない
キャブは2020年大会時に塙郁夫氏が乗った2号車と同じく、北米市場向けのHINO600シリーズ(ボンネット)を模したものだが、実は今回の車両は国内向けの中型トラック(日野レンジャー)のフルキャブにFRP製のボンネットを組み合わせている。600シリーズとレンジャーはもともとキャブ骨格の一部を共用する。今回の車両はレンジャーのフルキャブを採用することで600シリーズのクルーキャブ(ダブルキャブ)を使った20年大会時よりもキャブ前後長を短縮。軽量化をもたらしている。
キャブは日野レンジャーの箱型キャブとボンネットを組み合わせた新造キャブ。キャブオーバー型はドア直下にタイヤがあるため、ホイールアーチの切り欠き部を埋めるパーツが製作されている
新型コロナウイルスによるチーム縮小の影響もあり、前回大会に引き続き競技車1台での参加となるが、大きな変貌を遂げた新型車両でどこまで上位陣に食い込めるか? ダカール2022のスタートはもう間もなく、日野チームスガワラの走りに期待が集まる。
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