グランド・スフィア・コンセプト
text:James Attwood(ジェームズ・アトウッド)
【画像】これからのアウディ【最新のコンセプトと現行のA8を写真で比較】 全122枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
アウディは、2024年に登場するアウディの新たなフラッグシップとなるハイテクEVのデザインを決定し、9月に開催されるミュンヘン・モーターショーでコンセプトカー「Grand Sphere(グランド・スフィア)」として公開する。
グランド・スフィアは、アウディが今後公開する3台のショーカーのうちの1台で、レベル4の自動運転システム(特定の条件下で監視なしの自動運転が可能)を搭載した車両をどのように形作るかが紹介される。
グランド・スフィアの市販モデルは、セダンのA8の後継となる高級フラッグシップモデルだ。2024年に公開され、翌年初頭に発売される見込み。
アウディのデザイン責任者であるマーク・リヒテはAUTOCARに対し、グランド・スフィアは「プロジェクト・アルテミスの非常に具体的な予告」となり、室内空間に焦点を当てた「デザインの新たな革命」を披露することになると述べた。
「わたしはデザインチームに、A8後継モデルのビジョンではなく、まったく新しいものを求めました。A8、BMW 7シリーズ、メルセデス・ベンツSクラスなどの3ボックスセダンの販売台数は減少しており、より魅力的な新しいボディスタイルが登場しています」
「正直なところ、わたし達のA8よりもSクラスの方がずっと成功していると思うので、Sクラスを攻めるためには全く新しいものを考えなければなりませんでした。その結果がこれです」
完成間近のプロジェクト・アルテミス
当初は独立した事業として運営されていたが、最近になって完全に社内化されたプロジェクト・アルテミスは、完全EVかつ自動運転が可能な新世代のアウディモデルを支える、新しいプラットフォームとソフトウェアの開発を行っている。
これは、eトロンGTやQ4 eトロンなどの最新のアウディEVの次の大きな技術ステップとなる。
プロジェクト・アルテミスは、これらの自動運転システムの恩恵を受けられるグランドツアラーの開発を担当していた。
Landjet(ランドジェット)というコードネームで開発されたプロジェクト・アルテミスの市販モデルは、A8の後継として構想されており、メルセデス・ベンツの新型電動高級セダン「EQS」の対抗馬となる予定だ。
ランドジェットという名前は、プライベートジェットのような「ファーストクラス」の豪華さを提供するインテリアに重点を置いていることを意味しているようだ。
アウディは当初、A9の名称を使用することも検討したが、従来のセダンやSUVとは根本的に異なる新型車であることから、新たな命名規則の導入を決定した。
ランドジェットは、フォルクスワーゲン・グループとしては初めて、主流のMEBとパフォーマンスに特化したPPE EVプラットフォームの要素を組み合わせた先進のSSPプラットフォームを採用することになる。また、同グループの社内ソフトウェア部門であるCariadが開発した先進的な新しいVW.OSソフトウェアパッケージを採用する。
また、ユニファイド・セル・バッテリー技術をいち早く採用するモデルでもあり、WLTPテストサイクルで約600kmの航続距離を実現する。さらに、800Vシステムが採用され、超高速充電器から最大350kWの充電にも対応すると考えられている。
アウディは、このモデルの性能や出力について、まだ詳細を明らかにしていない。
関連するフォルクスワーゲンのトリニティ・コンセプトと同様に、その高度なソフトウェアは、多くのセンサーやコネクティング機能と連動して、高度な自動運転を可能にする。
プロジェクト・アルテミスは昨年初めから、ポルシェのモータースポーツ・プログラムの元代表であるアレックス・ヒッツィンガーが運営していたが、アウディのテクノロジー責任者であるオリバー・ホフマンが社内に持ち込んだことで、その指揮を執ることになった。
こうした動きは、開発チームが量産に適さないアイデアを追求しすぎていたことなどから、グループの経営陣がプロジェクトの進捗に懸念を抱いていると報じられたことを受けてのものだ。
大胆な新デザイン哲学
リヒテは、プロジェクト・アルテミスで自動運転に注力するためには、デザインプロセスを抜本的に変える必要があると説明している。インテリアデザインに重点を置き、それに合わせてエクステリアを造形していくのだ。
このアプローチの結果は、グランド・スフィアに現れる。アウディは、グランドツアラーのような流麗なシルエットでありながら、SUVのように大きなボディセクションをもつクルマのプレビュー画像を公開している。
リヒテは、このコンセプトの設計作業を3年前に開始したことを明らかにした。彼は次のように語っている。
「長距離の移動を想定したユースケースからスタートし、Dセグメントのクルマとしては革命的なレイアウトを実現しました。インテリアから設計したため、広大な室内空間を実現しました」
「グランド・スフィアは、外から見るとほとんどモノボックスのような大きさですが、モノトーンのボディはバンのようなもので、セクシーではありません。そこで、わたしはいくつかのスマートなアイデアを考えました。それは、わたしにとって誇りとなるものです」
「グランド・スフィアは、クラシックなグランドツアラーのように見えるところもありますが、よく見ると、広くて低いフロントガラスがあり、最大限の室内空間を作り出しています」
「ドアを開けると、そこには巨大な空間が広がっています。まるで30平米のアパートからロフトに移ったかのようです」
グランド・スフィアは、次世代のアウディのデザイン哲学を示すものでもある。このデザイン哲学では、スタイリングが単純化されることもあり、ラインの使用が大幅に削減される。
このコンセプトは、最終的な市販モデルの「息を呑むようなプロポーション」を強調するものだが、デザイン上の多くの特徴を残している。筋肉質なラインや、アウディの特徴であるシングルフレームグリルなどだ。
ただし、シングルフレームグリルは、従来のエンジン冷却用ではなく、ADASセンサー用のガラス製ハウジングを囲うものになる。
斬新な「ファーストクラス」の室内
リヒテは、自動運転時に乗員がリラックスできることに重点を置き、「新しい居住空間」を提供するためにインテリアをデザインしたと述べている。最大60度のリクライニングが可能なシート(これまでの市販車のシートの最大値を上回るという)や、ドリンクバーを内蔵したフロント乗員用の大型センターコンソールを備えている。
「A8やSクラスでは、2列目にビジネスクラスのシートがあり、1列目にはドライバーが座っています。しかし、このクルマではその逆で、クルマがドライバーなのです」
「後ろにはラウンジがあって、最前列がビジネスクラスなんです。ただし、もはやビジネスクラスではなく、ファーストクラスとなっています」
グランド・スフィアは、自動運転機能を中心に設計されているが、リヒテはドライバー重視の姿勢を貫くと主張した。
「このクルマはアウディであり、アウディは運転する喜びを提供しなければなりません」
このコンセプトではステアリングホイールを装備しているが、自動運転時にはダッシュボードに収納される。ダッシュボードは、物理的なボタンやスクリーンを一切排除した、斬新なデザインを採用している。
「わたし達はすでにスクリーンの先を考えています。このクルマには、もうディスプレイはありません。ダッシュボードはなく、巨大なオープンスペースがあり、プロジェクション・マッピングを採用しています」
「ドライビング・ポジションにディスプレイをどのように組合わせるかについて、いくつか素晴らしいアイデアを持っています」
「非常に優れたアプリケーションを用意しています。自動運転時にナビや映画を見るためのスクリーンが必要な場合は、すべてのコンテンツをこのアプリケーションに投影します」
グランド・スフィアのインテリアには、格納式のステアリングホイールや先鋭的なインターフェースなど、よりコンセプチュアルなデザイン案も見られる。しかし、リヒテは2024年に公開される市販モデルとの間には「大きなギャップはない」と主張している。
自動運転を追求する3台のスフィア
グランド・スフィアに加えて、来年中に自動運転が可能な2つのコンセプトモデルが登場する予定で、いずれもショートムービーによりプレビューされている。
アウディのエクステリアデザイン責任者であるフィリップ・レーマーズは、この3つのコンセプトはすべて、生きた「スフィア(球体)」としてのインテリアカーをテーマにしていると語った。
「『内側は大胆に、外側は魔法のように』という謳い文句があります。これは、各クラスに一貫して実行されるパラダイムシフトです。Dセグメントに限ったことではなく、他のセグメントにもこれらのコンセプトが放射状に広がっています」
8月に開催されるペブルビーチ・コンクール・デレガンスで公開予定のスカイ・スフィアは、3台の中で最初にベールを脱ぐことになる。ティーザー画像によると、EVとしては珍しくボンネットが長く伸びた2ドアクーペの形をしている。
アウディの販売責任者であるヘンリック・ヴェンダースは、このクルマを「ドライバーズカーであると同時に自動運転車でもある」と表現している。
アーバン・スフィアは、よりコンパクトで箱型のSUVの形をしており、自動運転の「シャトル」や、最近発表された電動小型SUVコンセプト「AI:ME」との類似点が見られる。ヴェンダースは、これを「都市環境におけるプライベートな空間」と呼んでいる。
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