“3列目”のシートがある車といえば多人数用途に主眼を置くミニバンだ。比較的コンパクトなトヨタのシエンタやホンダ フリードも3列目シート/7人乗りのモデルが「基本」。だが、ここ最近新たなトレンドが見られるようになってきた。
フリードに2列シート/5人乗りモデルの「フリード+(プラス)」が設定されたのに続く形で、2018年9月にシエンタが2列仕様の「ファンベース」を追加設定。その効果もあってか翌10月には、なんと登録車No.2の販売台数に躍進!
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一方、2列シートが基本のSUVにも、日産のエクストレイルなど、通常の2列シート/5人乗り仕様に加えて3列/7人乗り仕様をラインナップしている車種が存在する。
このように、2列と3列シートを両方用意しているモデルは、どちらを選ぶべきなのか? 全体の傾向と車種ごとの特長から、それぞれのメリットと注意点を考えたい。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部、TOYOTA
SUVとミニバンの3列仕様 全般的な傾向は?
SUVの3列目シートは、基本的には“荷室に装着された補助席”と考えるのが妥当だ。ミニバンは多人数で乗車したり、3列目を畳んで大きな荷物を積むことを目的に開発されるが、SUVは2列シートで居住性や走行性能を高めるように設計されている。
従ってSUVの場合、燃料タンクのために3列目シートの床が持ち上がり、座面との間隔が不足しやすい。大人が3列目に座ると、膝が大きく持ち上がってしまう。
この3列目を便利と考えるか、中途半端と見るかは用途や好みで異なる。稀に短距離を多人数で移動する程度なら、3列シートのSUVは合理的な選択になり得る。稀に生じる短距離移動のために、ミニバンを買うのはもったいないからだ。
ミニバンでも3列目の床下に燃料タンクが搭載されるが、トヨタのシエンタは薄型にして居住性を向上させた。それ以外の背の高いミニバンは、燃料タンクの位置に合わせて床面全体を持ち上げている。天井も高くすることで、2・3列目の床面段差を抑えて快適に座れるようにした。
ミニバンは多人数で乗車することを目的にしているから、SUVとは違う居住性の工夫を凝らしているわけだ。ただ、車種ごとに見ていくと「例外」もある。
SUVで3列シート仕様が推奨できる車種はある?
■CR-Vは「3列目仕様がSUVのなかでCX-8に次いで快適」
SUVの3列目シートだから、1・2列目に比べると膝が持ち上がって居住性は下がるが、快適に座れるように工夫した。
まず、1列目の下側に十分な空間を設けている。2列目に座る乗員の足がこの部分にスッポリと収まるから、2列目をかなり前側へスライドさせられる。身長170cmの乗員が2列目に座り、膝先空間が握りコブシ1つ分になるまでスライド位置を前寄りに調節しても、窮屈には感じない。
そうなると3列目にも大人が座れるだけの空間を割り当てられる。膝先空間は握りコブシ半分程度だが、3列目に座る乗員の足が2列目の下に収まることもあり、片道45分程度であれば、3列のすべてに大人が座って移動できる。座面も相応に柔軟で、座り心地にも配慮した。
ただし価格は高い。SUVに装着される3列目シートの相場は、2列目のスライド機能を含めて7万~16万円だが、CR-Vでは「EX」が19万1160円、「EXマスターピース」は22万3560円に達する。同グレードは本革シートだから、価格の上乗せが一層多額になった。
ここまで高価格だと3列目を使う機会がどの程度あるのか冷静に判断したいが、SUVの3列目としては、CX-8に次いで快適だ。多人数で乗車する機会があるなら、価格に見合う価値を発揮させられる。
■エクストレイルは「広くないが安価で荷室容量も同等な3列仕様を推奨」
ノーマルエンジンを搭載した「20X」などに、2列シート仕様と3列仕様を設定。
3列目の居住性はSUVの典型で窮屈だ。身長170cmの大人6名が乗車した場合、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ1つ分まで詰めて、3列目にどうにか座れる程度だ。それでも3列目に座る乗員の頭上と膝先空間はゼロ。つまり、頭部は天井に、膝は2列目の背面に触れてしまう。
これでは利用価値が低いが、結論をいえば3列シート仕様を推奨する。理由は価格を大幅に安く抑えたからだ。3列仕様の価格は、2列仕様に比べて7万2360円の上乗せに留まる。短い距離を多人数で移動したい時には便利に使える。
3列仕様の荷室容量が、2列仕様と比べてあまり狭まらないことも、推奨理由に含まれる。
■ランドクルーザープラドは「3列目が相当窮屈ゆえ2列仕様を推奨」
LサイズSUVだが、後輪駆動ベースのオフロード四駆だから空間効率は優れていない。床が高いので座面との間隔が不足気味になり、2列目に座っても膝が持ち上がりやすい。
身長170cmの大人6名が乗車した場合、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ1つ分まで詰めると、3列目にもコブシ1つ弱の余裕ができるが、膝が極端に持ち上がるから相当窮屈に感じる。
しかも3列目の価格は手動で格納する「TX」でも15万4440円と高い。3列目の居住性はエクストレイルと同程度なのに価格は2倍以上だ。2列仕様を選びたい。
シエンタやフリードはどっち? ミニバンでも2列仕様が魅力的な車種も!
■シエンタは「2列目の下側に格納できる3列シート仕様がオススメ」
全長を4260mmに抑えた小型ミニバンで、高い人気を得ている。2018年9月には、2列シート仕様の「ファンベース」を加えた。今では2・3列仕様を選べる。
2列シート仕様では荷室の床下に装着されたデッキアンダートレイが大型化され、2列目(後席)を床面へ落とし込むように畳めるから、2名乗車時にはボックス状の広い荷室に変更できる。
しかし、前後席を使った4名乗車時(2列シート状態)の荷室容量は、3列シート仕様とあまり変わらない。理由は薄型燃料タンクの採用で、3列仕様の3列目シートが2列目の下側に収まるからだ。まるで3列目を取りはずしたような広い荷室にアレンジできる。
つまり、2列シート仕様は、2名乗車で広い荷室を得る時に有利だ。
ちなみに3列仕様の2列目は前側に折り畳むから、2列仕様に比べると荷室の最大奥行寸法は短くなる。
両車ともに空間効率が優れ、使用目的に応じて選ぶと良いが、合理的なのは3列仕様だ。3列目を2列目の下側に格納できるメリットは大きく、4名で乗車して荷物をタップリと積める。
また薄型燃料タンクによって3列目も床と座面の間隔を相応に確保したから、全高1700mm以下の小型ミニバンなのに、多人数で乗車しても快適だ。従って3列シート仕様を推奨する。
■フリードは「荷室を深く掘りこんだ2列仕様の積載性が光る」
小型ミニバンのフリードには、3列シート仕様と2列シートのフリードプラスが用意される。
フリードプラスは車椅子ごと乗り込める福祉車両と基本部分を共通化して、荷室中央の床面を深く掘り込んだ。そのため、リアゲートを開いた時の路面から荷室床面までの地上高は、335mmと低い(3列仕様は480mm)。積載性は抜群で、専用のボードにより、荷室を上下に分割して使える。
さらに後席も畳むと、車内をフラットな空間に変更することも可能だ。2名で車中泊が行えて、なおかつ居住スペースの下側に荷物を収納できる。リアゲートの開口部が大きいために、ボディ剛性が不足して走行安定性はいま一歩だが、使い勝手は良い。
一方、3列仕様も使いやすいが、3列目に座ると床と座面の間隔が不足して膝が大きめに持ち上がる。フリードの床面地上高はステップワゴンと同程度なのに、全高は130mm低い1710mmだから、室内高も不足して床と座面の間隔が足りない。
こういった点を踏まえると、他車では得られない機能を備えたフリードプラスが魅力的だ。
■ジェイドは「3列目を外した2列仕様の方がシートの作りも快適に」
3列目シートは、頭上と足元の空間がきわめて狭い。大人の着座は無理で、子供が座るとしても可衰想だ。
さらに2列目の座面も奥行寸法が1列目に比べると55mm短いから、大腿部のサポート性が悪化した。座面の柔軟性も足りず、結局のところ満足に座れるのは1列目のみとなってしまう。
しかし、追加設定された2列シート仕様は快適だ。実用性の乏しい3列目を外して、2列目も大幅に作り替えた。3列シート仕様に採用される2列目のスライド機能を省く代わりに、座面を固定式にして奥行寸法を伸ばし、ボリューム感も十分に持たせたからだ。3列仕様の2列目が100点満点で60点とすれば、2列仕様の後席(2列目)は90点に相当する。
後席の足元空間にも余裕があり、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半だ。Lサイズセダン並みの余裕を与えた。
しかも価格は2列シートの「RS」を戦略的に割安にした。ハイブリッドで2列シートの「RS」と3列シートの「X」を比べると、価格は「RS」が約19万円安い。装備は「RS」が15万円分ほど充実するから、3列目の対価が34万円くらいになる。
仮に3列目を高めに20万円と見積っても、2列シート仕様は14万円割安だ。選ぶなら断然2列シートの「RS」になる。
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