3段ウイングも検討されていた
フォード・エスコート RSコスワースのトレードマークといえるのが、「ホエールテール」と呼ばれた巨大なリアウイング。描き出したのは、カーデザイナーのフランク・ステファンソン氏だ。
【画像】エスコート RSコスワースとインプレッサ P1 WRCに今最も近い日本車 GRヤリスも 全55枚
調整式のフロントスプリッターも組み合わされ、リアタイヤ側で最大19.5kg、フロントタイヤ側で4.5kgのダウンフォースを生成。量産車としては初めてだった。
デザイン初期には、3段ウイングも検討されていた。承認されなかったものの、実際にフランクのスケッチブックには、そのデザイン案が残されている。
一方で、プロドライブ社が独自に開発したインプレッサ P1は、当時の英国では2ドアボディが選べる唯一のスバル。ホモロゲーション・モデルのR22Bと同じボディだ。
エスコート RSコスワースより、インプレッサ P1の登場は8年ほど遅い。技術的にも進歩しており、1994ccの水平対向4気筒エンジンは、より滑らかにパワーを生み出す。最高出力も、53ps高い280psを発揮した。
ベースとなったのは、日本のみで売られていたWRX STi タイプR。ロータス・エスプリやマクラーレン1Fなどを手掛けた巨匠、ピーター・スティーブンス氏によって、前後のスタイリングに手が加えられていた。アルミホイールも専用品だった。
「パッケージングやエンジン、サスペンション、インテリア、スティーブンス氏によるスタイリング、ソニックブルーのボディカラーまで、これ以上はないという仕上がりでした」。と、プロドライブ社のデビッド・リチャーズ氏が振り返る。
生産が追いつかないほど飛ぶように売れた
「インプレッサ P1は、これまでにわたしたちが開発した限定モデルで最高の完成度を備えていました。型式認証を得たことで、1番の成功も残しました」
「英国スバルにとっても、販売面での成果は大きかったと思います。当初は500台の限定でしたが、需要が高く1000台ヘ規模を拡大。生産が追いつかないほど、飛ぶように売れたものです」
ボブ・フラー氏も、そのインプレッサ P1に飛びついた1人。納車までに半年ほど待ち、2000年から大切に乗っているという。製造番号は、548/1000だ。これまで22年の間に、少なくない改良が加えられている。
「プロドライブからP1が発売された時、公式にWR仕様のアップグレードも提供されていました。自分のクルマにも、かなりの数を装備させています。際立たせるためにね」。とフラーが笑顔を見せながら説明する。
ホイールは、標準では17インチだが、18インチへサイズアップ。330mmの大径ブレーキディスクも組まれている。
リアバンパーの下で迫力を効かせている太いマフラーも、プロドライブ社のもの。型式認証をスムーズにするため、生産後に取り付けるパーツとして売られていた。
2眼タイプのHIDヘッドライトは、プロドライブ社のものではない。だが標準より、夜間での視認性が大幅に改善するという。
エンジンは鋭く回転し、加速は線形的
車内には、彫りの深いレカロシートが組まれ、内装トリムもアップグレードされている。赤いステッチがあしらわれたレザー・ステアリングホイールは、現代基準では驚くほど径が大きい。
ダッシュボードは、当時の典型的なスバル車。傷の付きやすそうなプラスティックを、カーボンファイバー風トリムが彩る。上部には、エンジンの状態を監視できる3眼メーターが並ぶ。
レカロシートに座ると、ボンネットからそびえる大きなエアスクープに圧倒される。キーをひねれば、ボクサー・ユニットらしいドロドロとした唸りが響き出す。秘めた爆発力を、隠しきれない。
インプレッサ P1は、ステアリングが軽くクラッチもつなぎやすく、低速域でも運転しやすい。だがやはり、パワーを引き出すほど「らしさ」が高まっていく。ラリードライバー、リチャード・バーンズ氏と自分とを重ねてしまう。
エンジンは鋭く吹け上がり、加速は感心するほど線形的。ストロークの短いシフトノブを操作し、4500rpmからレッドラインの8000rpmまで活かしきると、ターボチャージャーのフルパワーが開放される。
ステアリングホイールが大きいから、操舵感はややスロー。高速で走らせる場合は、悪い設定ではない。タイトなコーナーへ勢いよく侵入しても、フロントもリヤも、路面を掴み続ける。フリクションの小さい正確な反応が、うれしい。
センターデフは、前後で45:55にトルクを分配する。基本的にはアンダーステア傾向だが、どんな路面に対しても支配的な能力を発揮できる。WRCでの連勝にも納得する。
インプレッサ P1より全体の印象はソフト
一方で、ブラックのエスコート RSコスワースのオーナーは、グレッグ・エバンス氏。6年前に入手したそうだが、それ以前の9年間は倉庫で眠っていたそうだ。
生産から30年近くが経過するが、走行距離は約8万kmと短い。エバンスの購入後は、1600kmほどしか走らせていないという。
フラット・ブラックのボディカラーも含めて、完全にオリジナル状態が保たれている。英国で最も早期に登録されたエスコート RSコスワースの1台で、合計7145台製造されたうちの851番目。初期型の、ビッグターボ・ホモロゲーション・モデルだ。
サイドサポートの高いシートに身体を沈めると、この時代のフォード車らしいインテリアが迎えてくれる。インプレッサ P1と同じように、ダッシュボード上部にメーターが並んでいる。
ステアリンホイールはひと回り小さい。ペダルは右側へややオフセットされ、大柄なトランスミッション・トンネルをかわしている。シフトノブの位置は低め。グラフィック・イコライザー付きのカセットデッキが、懐かしい。
一般的なスピードで運転している限り、フィーリングはノーマルのエスコートに通じている。インプレッサ P1より全体の操作感もソフトで、ゴムブッシュのおかげか、サスペンションは細かな凹凸の吸収性にも優れている。
エンジン音も、中回転域までは控え目。だが、その後は様相が異なる。3500rpm前後まではブースト圧が低く、活気も乏しい。4500rpmを超えた辺りからギャレットT34が圧力を高め、本性が現れてくる。
ドラマチックなドッカンターボ
最高出力227psで車重は1275kgだから、現代の高性能モデルと比べれば、目を剥くほど速いわけではない。だが、ドッカンターボ的なパンチ力がドラマチック。オールドスクールな個性として歓迎できる。
それは、今だからいえることかもしれない。1000rpmほど低い回転数からパワーを引き出せた、小径ターボの後期型エスコート RSコスワースの方が、乗りやすいクルマだったことは間違いない。とはいえ、ビッグターボも楽しい。
インプレッサ P1も、エスコート RSコスワースも、現在では考えられないほど、モータースポーツでの活躍に影響を受けたモデルだ。多くのオーナーが林道を攻めることはなかったが、市街地のターマックで秘めたポテンシャルを誇示した。
どちらも、WRCの最前線で活躍するラリーチームによって生み出されている。放たれる栄光のオーラは、2022年でも薄れていないように見えた。
協力:ブランズハッチ・サーキット、ポール・ペインター氏、P1 ウェブ・オーナーズクラブ
エスコート RSコスワースとインプレッサ P1 2台のスペック
フォード・エスコート RSコスワース(1992~1996年/英国仕様)
英国価格:2万524ポンド(1992年時)/8万5000ポンド(約1317万円)以下(現在)
生産台数:7145台
全長:4211mm
全幅:1742mm
全高:1425mm
最高速度:231km/h
0-97km/h加速:5.7秒
燃費:9.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1275kg
パワートレイン:直列4気筒1993ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:227ps/6250rpm
最大トルク:31.0kg-m/3500rpm
ギアボックス:5速マニュアル
スバル・インプレッサ P1(2000~2001年/英国仕様)
英国価格:3万1500ポンド(2000年時)/6万ポンド(約930万円)以下(現在)
生産台数:1000台
全長:4350mm
全幅:1690mm
全高:1400mm
最高速度:241km/h
0-97km/h加速:4.7秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:1295kg
パワートレイン:水平対向4気筒1994ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:35.8kg-m/4020rpm
ギアボックス:5速マニュアル
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