Morgan Roadster × Rolls-Royce Ghost
モーガン ロードスター × ロールス・ロイス ゴースト
GENROQ カー・オブ・ザ・イヤー 2018-2019、スーパースポーツ&GT部門を徹底評価!:前編 【Playback GENROQ 2019】
意外な化学反応
究極のハンドメイドライトウェイトスポーツカー、モーガン。そして究極のプレミアムカーブランド、ロールス・ロイス。この対極とも言える2ブランドで旅をしたらどのような化学反応がおきるのか? ロールスの主力モデル・ゴーストとモーガン ロードスターで小トリップに出かけた。
「この2台のコンボイは異様なまでの存在感を発揮した」
近頃クルマに乗り込んで最初にすることはシートヒーターのスイッチを入れること。それからスマホのWi-Fi接続を確認する。しかる後、音声認識でナビの目的地を設定しようとすると、なかなか上手くいかずイライラした挙句にタッチパネルで入力するはめになる・・・。
ところが今日はずいぶんと勝手が違っている。電子的な臭いがしないのだ。試しに「ハイ、モーガン!」と話しかけても返答はない。
クルマ好きにとって平日の東名高速ほど退屈な場所はない。走っているのはトラックか、平凡なセダンかミニバンばかり。皆、親戚の葬儀に向かっているのか、ボディカラーは白か黒か銀色と決まっている。
そんな流れの中にあって、我々のコンボイはどう映るのだろうか? モーガン ロードスターと、そのお尻を追いかけるロールス・ロイス ゴースト。人ごみにまぎれた芸能人がサングラスとマスクをしていても大いに目立ってしまうのと同じように、この上なくシックに決め込んでいるにも拘らず、異様なまでの存在感が伝わってしまうのか、周りのクルマが道を開けていく。
「なぜモーガンはシーラカンスのままでいられるのか? 」
1936年に自社初の4輪車を造り上げたモーガン社は、今日まで83年間、その設計を変えていない。大メーカーから供給されるパワートレインは時代ごとにアップデートされているが、モーガン製のシャシー構造はそのまま。鉄骨によって前後車輪を結び、その上に木製のフレームを立ち上げ、アルミ製のボディパネルを釘と木ネジで固定していく。
多くの自動車メーカーのエンジニアが歩行者保護や衝突安全の呪縛から逃れられない昨今、なぜモーガンはシーラカンスのままでいられるのか? その秘密は、少量生産車は最新の性能テストを免除されるという英国の特別なルールに由来する。
「両ブランドとも、特別なルールに守られて時を刻んでいる」
一方ロールス・ロイスもまた、特別なルールに守られて時を刻むブランドだ。世界中のどこに路上駐車しても駐禁を切られないし、砂漠の真ん中で故障してもヘリが補修パーツを届けてくれる、というのはもちろん都市伝説に過ぎない。だが親会社がどこの誰でも、ひと目でそれとわかる作品を造るはず。なぜなら、パルテノン神殿を模したグリルの上でスピリット・オブ・エクスタシーが飛翔するという様式美こそ、このブランドの絶対的な価値だからだ。
誰も姫路城の荘厳な白壁を、最近の流行色だからと言って黄色に塗ることなどしないだろう。ロールス・ロイスを造るということは、国宝を忠実に修復しながら維持する行為に似ているのである。
「新車で買えるクルマの中で、ドライビングの充実感が最も高いと断言できる」
幌を降ろして走るモーガンの開放感を言葉で表現するのは難しい。強力なヒーターで下半身を温められた状態は露天風呂にも通じるものがあるが、目の前に広がる細くて長いボンネットとウイング(英国的にはフェンダーではなくウイングだ)は、戦前のグランプリカーのようでもある。ワインディングに繰り出すと、もう好奇の眼差しもなくなるので、自分ひとりの世界に没頭できる。
現行のモーガン ロードスターは、フォード製の3.7リッター V6を搭載している。その最高出力は284psに過ぎないが、これはマクラーレンのカーボンシャシーに2000ps相当のエンジンを組み合わせることに等しい。そんな大出力に対応するため、マッチョなタイヤが組み合わされ、前後のウイングも90mm拡幅し、ブレーキも増強されている。
とはいえ、例え直線路でもこのパワフルなモーガンのエンジンをレブリミットまで回し切ることは難しい。タイヤが縦方向に暴れ出し「もう限界!」と思ってレブカンターを見ると、まだ5000rpmに満たなかったりするのだ。「2000psのマクラーレン説」はあながち嘘ではない。だからこそ山道におけるモーガンの走りは、今どきはバイク小僧でも言わない「ねじ伏せる」という表現が似合う。もちろん新車で買えるクルマの中で、ドライビングの充実感が最も高いと断言できる。
「括りとしてはセダンだが、ゴーストの視界は凡百のSUVよりもはるかに広く快適」
そんな荒々しいモーガンからゴーストに乗り換えると、竪穴式住居から豪華なホテルに引っ越したような気分になる。世の中たいていの贅沢はカネで手に入るが、これはその好例だ。仮想通貨に手を出して胃にポリープを作っているくらいだったら、ゴーストのマッサージシートに身を委ねていた方がはるかに健全で幸せな人生を送れる。
括りとしてはセダンだが、ゴーストの視界は凡百のSUVよりもはるかに広く快適で、ハンドリングも思いのほか正確なので自分で運転しても充分に楽しむことができる。職業運転手に間違われたくなければ、可能な限りだらしない格好で乗ることをお薦めする。平日に上下グレーのスウェット姿でゴーストに乗り、吉牛に斜め駐車できたら、あなたは真の億万長者に見えるはずだ。
「貴方がこの2台に愛着を抱くならば、実に豊潤なクルマ人生を送れるだろう」
モーガンとロールス・ロイスは、タイヤが4つ付いた英国製品という事実以外は何もかもが異なっている。だがそのどちらを手に入れたとしても、常人が決して窺い知ることのできない充実型の人生プランが待っているという共通項は存在する。愛車を可愛がるあまり大した財産を残せなくても、ひ孫の代まで栄光の車歴が語り継がれるに違いない。
ドイツ車のレールに乗っかってしまったら、常に最新を追いかけ続けることでしか満たされる術はないが、愛着さえあればモーガンやロールス・ロイスが最新である必要はない。結局のところ、どちらも達観した人だけが辿り着ける終の乗り物であり、その道における「素晴らしき行き止まり」なのである。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
モータージャーナリスト:吉田拓生「今回の2台ももちろん、英国車には様式美が宿っている」
編集部・石川(以下、石川) 今回は対極にある2台としてゴーストとモーガン・ロードスターでショートトリップに出てみたわけですが、対極といっても共通点もありますね。ステアリングを切った時は大雑把なようだけど、思った通りに曲がってくれるところとか。
編集部・永田(以下、永田) 確かに、対極と言いつつ似ているところはあるね。そして、どちらもクルマとして考えるべき存在じゃないって気がする。
石川 モーガンは一見乗り心地が悪そうなんだけど、乗っているうちに快適になってくる。モーガンもゴーストもファン・トゥ・ドライバーズカーなのかな、と。
吉田 そう、イギリス車ってファン・トゥ・ドライブだよね。モーガンはスタイルだけ見るとクラシカルだけれど、あれって今で言うところのGT3。あのままのシャシーで1962年のル・マンのGTクラスに勝ってるわけだかから。さっきクルマじゃないって発言があったけど、独特の様式美があるのがイギリス車。イギリス人にとってはクルマも家と同じで様式美の一貫なんじゃないかな。
永田 その様式美を変えたがらず、結果として伝統的な立ち位置を確保しているのがイギリスだよね。でもそうはいいつつ、普段ドイツ車に乗っている人にも違和感ないくらい最近のイギリス車はモダナイズされている。ロールス・ロイスはBMWの技術が入っているのもあるし、モーガンも進化している。基本は変わってないのに、でも進化してる。
GENROQ編集部員:石川亮平「敷居が高いように見えて実は懐が深い2台に惚れました!」
吉田 幌の留め方もかなり改良されている。昔モーガンを買う人は雨が漏っても文句なんて言わなかったけど、今は言う人がいるだろうから。
石川 イギリスのモノって使い勝手がいいわけではないけど、そういう不便さをあえて受け入れる魅力というものがありますよね。
吉田 そこに気持ちよさを感じる文化があるんでしょう。利便性だけを追究しているわけじゃない。
永田 それって日本人が一番持ってない感覚だよね。とにかく利便性と快適性がないと我慢できない。
石川 でも様式美って響きはいいけど、とっつきにくさもありますよね。モーガンもロールス・ロイスもとっつきにくさはあります。
吉田 特に日本人はイギリス車に乗る時はビシっとしなくちゃ、という思いがあるからね。でもイギリスに行ったら金持ちが結構だらしない格好でロールス・ロイスに乗ってるんだよね。イギリスって金持ちになればなるほどセーターに穴が開いてたりする。でもそれがエルメス製だったり。ロールス・ロイスには運転手がいて、しっかりした格好で乗らなきゃという感覚に陥りがちだけど、イギリスの上流階級の人にとっては逆に楽な乗り物なんだと思う。
永田 階級がはっきりしているから背伸びして乗る必要もない。それが自然な姿なんだね。
石川 ゴーストは意外と運転しやすかったのが驚きでした。
吉田 スピードが上がると、どんどんシャープになっていくしね。昔はステアリングがもっと細くて大きくてパワステも軽くて、それでセンターは甘いからずっと舵を右か左に当てていないと直進できない。でもそんなにスピードを出さないからそれでよかった。ゴーストも現代流になっているけど、少しもBMW7シリーズとの共通性が感じられないくらいロールス化されている。そこがうまいなと思った。
石川 カリナンもちゃんとロールス化されているんでしょうね。
吉田 すごく良さそうだよね。ロールス・ロイスってグッドウッドに引っ越した時点で新たな時代に突入しているけれど、だからなおさらロールス・ロイスの哲学に忠実でありたいという意志が強いんだと思う。
GENROQ編集長;永田元輔「対極に位置する2台だが、走れば走るほど意外な共通点があった」
永田 でもうまくトレンドも盛り込んで成功してるよね。一方でモーガンはかなり頑固に昔のスタイルを維持している。でも今日久しぶりにモーガンに乗って、もっと辛いのかと思ったけどそんなことなかった。900万円っていう価格をどう評価するかだけど。
吉田 モーガンの価格を他と比べちゃダメだと思う。実際ファクトリーを訪ねてみると、注文した人が職人たちと話してボディにサインを入れてもらっている。自分のための誂え品を造ってもらうようなもの。だから相対的な評価では語れない。僕は900万円は安いと思うけどな。
永田 さっきクルマではないって言ったのはそういうところもあって、結局モーガンもロールス・ロイスも、それ以外の何物でもない。そして他に代わる存在もない。
吉田 確かに、本当はモーガンが欲しいけどケータハムでもいいやってわけにはいかないよね。
石川 モーガンとケータハムは似ているようで、成り立ちも乗った感じも全然違いますからね。
永田 いずれにしても、この2台をサラッと乗りこなすのは、我々にはハードルが高いよね。ただ、この先はどうなっていくのかな。今後はレギュレーションが厳しくなるから。
吉田 でもロールスは名前が「お化け」ってくらいだから、静かなら静かなほどいい。だから今すぐEV化されても問題ないんじゃないかな。ボディも大きいからバッテリーも積み放題だし。だからこの2つのブランドを考えたら、ロールス・ロイスの方が安泰かも。といいつつモーガンもEVはやってるけど。
石川 そんな2台を自由に選べる今って、実はすごく幸せな時代なのかもしれないですね。
TEXT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
【SPECIFICATIONS】
モーガン ロードスター
ボディサイズ:全長4010 全幅1720 全高1220mm
ホイールベース:2490mm
乾燥重量:950kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHC
総排気量:3726cc
最高出力:209kW(284ps)/6000rpm
最大トルク:352Nm(35.9kgm)/6000rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前独立スライディングピラー 後リジッド
ブレーキ:前後ディスク
タイヤ&ホイール:前後205/60R15
車両本体価格:993.6万円
ロールス・ロイス ゴースト
ボディサイズ:全長5400 全幅1950 全高1550mm
ホイールベース:3295mm
乾燥重量:2480kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6591cc
最高出力:420kW(570ps)/5250rpm
最大トルク:820Nm(83.6kgm)/1500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後255/50R19
車両本体価格:3410万円
※GENROQ 2019年 3月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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