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カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ・フルア・クーペ 崩せない完璧な美しさ 前編

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カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ・フルア・クーペ 崩せない完璧な美しさ 前編

世界で最も美しいクルマと称されたEタイプ

手を加える必要性が一切ないほど、完璧な美しさを湛えるジャガーEタイプ。1950年代の名コーチビルダーでさえも、そんなボディへ何かを付け足すことは、レオナルド・ダ・ビンチのモナリザにヒゲを描くような愚行になり得た。

【画像】カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ オリジナルとレストモッド版 現行Fタイプも 全102枚

Eタイプは、世界で最も美しいクルマとすら称されていた。実際、英国のコーチビルダーやイタリアのカロッツエリアが、職人技を施した例は非常に少なかった。それでもゼロではなかった。

工業デザインの父と呼ばれたレイモンド・ローウィ氏は、自身の1966年式シリーズ1でそれに挑んでいるが、成功とは呼べない仕上がりだった。数年前にスタイリングの改善を試みた、BMW 507よりはベターだったかもしれない。

カロッツエリアのベルトーネは、独自のロングノーズ・ボディを載せたジャガー・ピラーナというコンセプトカーを1967年に製作している。しかし数カ月後には、均整のとれたスタイリングのランボルギーニ・エスパーダを発表し、すぐに忘れ去られた。

1970年代初頭には、直線的なボディをまとったガイソンE12 ロードスターが2台作られている。シリーズ3のEタイプがベースだったが、優雅な曲線を描くオリジナル以上の評価を得たわけではない。

それでは、1966年の例はどうだろう。お披露目されたジュネーブ・モーターショーでは、様々な印象を見る人へ与えた。ジャガーMkX風の四角いフロントグリルに無骨なフロントバンパーが組み合わされ、ブランドらしい表情は保っていた。

傑作モデルに特別なボディというアイデア

ボディを仕上げたのは、デザイナーのピエトロ・フルア氏がスイス・ジュネーブに創業したコーチビルダー、イタルスイス。四角いテールライトを覆うように、リアには大きなバンパーがぶら下がった。端正に整えられた容姿とは表現しにくいだろう。

全長はオリジナルのEタイプより約150mm短い。僅かに装飾性が追加されたボンネットは独自に製作されたものだったが、重量がかさみ、操縦性に影響を及ぼしていた。

改善といえる要素も存在はしていた。当時のフェラーリ風ヘッドライトカバーは、ガラス製ではなく軽いアクリル製。重いボンネットにはバルジが与えられ、エンジンの熱を逃がすエアベントも追加されていた。

この点でいえば、依頼者のジョン・クームズ氏がフルアに伝えた要望が具現化されていた。それが唯一だったかもしれないが。

クームズは英国の元レーシングドライバーで、レーシングチームも運営した人物。グレートブリテン島の南部、ギルフォードでジャガーのディーラーを営む実業家でもあり、仕事を進めるなかで特別なボディのEタイプというアイデアを抱いたようだ。

フルアによるEタイプは、1台限りのワンオフ・モデルではなく量産を想定していた。スポーツカーの傑作として、1960年代にはEタイプは珍しくない存在になっていた。欧州の路上では、日常的に目にするスポーツカーになっていたのだ。

マセラティで存在感を示していたフルア

ジャガーのディーラーで販売できる、特別な仕様が必要だとクームズは考えていた。過去にもジャガーMk2 サルーンのボディに手を加えた例を製作し、アップグレード・パッケージとしての可能性が模索されていた。

レーシングチームのオーナーで、ジャガーのディーラーとしても成功していたクームズのアイデアに、ジャガー側も理解を示した。同じ1966年には本社へ話を通したうえで、Sタイプ・クーペのフルア・ボディ版も製作されている。

それより前の1950年代後半には、ジャガーXK150 Sの特別なクーペをイタリアのベルトーネに依頼してもいた。クームズは、カロッツエリアとの交渉に経験がなかったわけではない。

一方のフルアは、1950年代から1960年代にかけてカーデザイナーとして黄金期を迎えていた。バッティスタ・ファリーナ氏がフェラーリで名を馳せたように、彼はマセラティのスタイリングで大きな存在感を示していた。

初代マセラティ・クアトロポルテやミストラルで、マセラティとしてのブランド・イメージを創出。BMWへ多くのスタイリング提案をこなったほか、グラースやACカーズなど、多くの自動車メーカーに対して豊かな才能を発揮していた。

クームズは、フルアがイタリア・トリノに構えていたデザインスタジオを定期的に訪れていた。Eタイプへどんな改良を施すのか意見が交わされ、方向性が決められた。満足できる仕上がりになると、両者は期待を膨らませたはずだ。

受け入れがたいほど想像とは違うクルマ

「トリノへ向かうと、フルアさんはわれわれが抱くイメージをドローイングとして描きました。ところが次に訪問すると、受け入れがたいほど想像とは違うクルマが完成しようとしていたんです」。1989年に彼はこう言葉を残している。

当時のカロッツエリアは、以前に手掛けたデザインをベースに展開したり、似たアイデアを別のクライアントへ提案することが珍しくなかった。フルアも、それに慣れっこだった。これが不運の根底にあったのかもしれない。

別の顧客から依頼されていたEタイプ 4.2ロードスターにも、クームズの例と非常に近いイメージチェンジが施されていた。どちらが先に生まれたのかは明らかではないが、影響を受けていた可能性はある。

クームズは多忙で、フルアの仕事に充分な注意を払っていなかった。それだけ彼を信頼していたのだろう。

「Eタイプに新しいフロントとリアを与えたかったんです。彼のアイデアとは別の方法で。メカニズムにモディファイを加え、完璧なフロントノーズと新しいリアエンドを備えたモデルを生産することがアイデアだったのですが・・」

「まったく異なる見た目のEタイプにはなりましたし、2・3台の注文もありました。しかしボディへ大幅に手を加える必要があり、量産する価値はありませんでした」

「大きな加工は想定していませんでした。少し待てば道を走れる、数日で終わる仕事を考えていたんですよ」。クームズの考えは理解できる。

この続きは後編にて。

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