1980年代、1990年代は新車効果がある程度長続きし、それがひと段落する2年後あたりにリフレッシュのマイチェンを行う、というのが日本車のサイクルだったが、最近では新車効果が薄れるのが早く、デビュー後3カ月で特別仕様車を出すということも珍しくない。
新車効果が長続きしないのは、熱しやすく冷めやすい日本人の気質によると思われるが、これは昔も同じ。しかし今飽きられやすくなっているのはほかに理由があるはず。
【新基準で覇権を握れ】 キュートで便利!! ホンダ N-WGNの狙いと実力
クルマ作りが影響しているのか、クルマ自体に魅力がなくなっているのか? 新車効果が長続きしなくなった理由を検証します。
文:渡辺陽一郎/写真:TOOTA、NISSA、HONDA、MITSUBISHI、SUBARU、DAIHATSU
コミュニケーションツールの多様化
マツダ3は先代モデルから正常進化して登場したが、スカイアクティブXが同時デビュー出なかったため、美しいがインパクトに欠けたのか!?
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最近は新車の話題が長続きしない。例えばスープラは、2019年3月上旬に予約受注を開始した。この後、5月17日に正式発売されたが、7月頃には早くも話題性が薄れてきた。マツダ3も盛り上がりに欠ける。
新車の話題が長続きしない一番の理由は、クルマに対する興味が薄れたことだろう。理由は複数あるが、一番影響しているのは、携帯電話、メール、フェイスブックのようなSNSなど、コミュニケーションを図るツールが多様化したことだ。
これらがなかった時代のコミュニケーションツールは、実質的に家庭用の電話と郵便だけだった。そうなると会って話をすることが大切になり、クルマに乗って出かける必要も生じた。
また当時はインターネットやYouTubeもないから(少し遡るとゲーム機もない)、自宅に居るのが退屈だった。TVはつまらないし、雑誌も読み飽きた。そうなると外へ出かけたくなる。退屈しのぎだから行き先はどこでもよく、逆にいえばどこにでも行けるクルマが欲しくなった。
スープラは発売直前、発売直後ともクルマ界の話題を独占していたが、想像していたよりも速くその熱は終息した感は否めない。RZは大人気だったが……
そして当時はクルマに対する憧れも強く、多くのユーザーが高い関心を寄せていた。カッコよさにもこだわり、クルマが特に好きな人でなくても、スープラのようなスポーツカーの車名は知っていた。クルマに関する一般常識のレベルが今よりも高く、クルマの話題性も高かった。
このように多くの人達がクルマを漠然と使いこなし、何となく関心も高く、「あのクルマいいよね」という話になった。
それがコミュニケーションツールや娯楽が多様化して外出の必要性が薄れ、同時にクルマが当たり前の存在になって価格まで高まると、スポーツカーの新型車が登場しても話題性や注目度が長続きしない。
スープラは納期不明で購入リストから除外!?
またスポーツカーは、もともと新車効果の持続しにくい商品でもあった。「カッコイイ! 欲しい!」と購買意欲を刺激されると、愛車の車検満了までの期間が長くても、購入するユーザーが多かった。そうなると発売直後には売れ行きが一気に伸びて、その後は急速に下がってしまう。
スープラのRZに特別カラーを限定で発売し、その抽選結果をニュルブルクリンク24時間レースのタイミングに合わせるなど話題となったが長続きせず
特に新しいスープラは、海外の工場で製造されて生産台数も少ない。発売直後は納期が不明で、人気の高いRZは数日間で2019年の販売枠が埋まった。
この後に日本の割り当て台数を増やしたが、2019年8月下旬時点で販売店に尋ねると、「現時点でスープラの契約はできるが、生産は2020年3月以降になる。納車されるのが5月なのか、6月なのかは分からない」という。
仮に納期が長くても、納車の日程が明確であれば計画を立てられる。今の愛車を乗り続けるとか、とりあえず新車を買ってスープラの納車に合わせて手放すといった具合だ。
しかし納期が曖昧だと計画も立てられない。久々に登場したスープラを欲しいと思いながら、購入を諦めたユーザーも多いだろう。
モデルチェンジサイクルの長期化
新車効果の衰えには、フルモデルチェンジのサイクルが長くなったことも影響している。1990年頃までは、4~5年ごとにフルモデルチェンジが実施され、その間にマイナーチェンジも行われた。
定期的に車両のコンセプトやデザインが刷新されたから新鮮味を保てたが、今はフルモデルチェンジのサイクルが全般的に伸びている。
エスティマは2006年にデビューして2019年で13年経過するにもかかわらず安定した販売をマーク。メーカーにとってこれほど重宝することはないが、寂寥感は拭えない
例えばヴィッツが発売されたのは2010年、アクアは2011年だから、8年以上にわたりフルモデルチェンジを受けていない。エスティマはさらに古く2006年の登場で、現行型で生産を終える可能性が高い。
今の自動車メーカーは、環境性能の向上や自動運転の対応など、開発費用の負担が増えた。そのために車両開発が影響を受けて、フルモデルチェンジが長期化している。
クルマのデザインが大きく変化する時期を過ぎて、安定期に入ったこともある。40~50年前のように、フルモデルチェンジの度にクルマの外観が見違えるほどカッコよくなることはない。
頻繁にフルモデルチェンジを行う必要はなく、安全装備の充実などはマイナーチェンジで対応するようになった。
アクアは比較的早いサイクルでモデルチェンジすると思われていたが約8年作り続けられている。ただ、スポーツカーと違い頻繁に手を入れて販売力キープに努めている
海外偏重型となった弊害
日本メーカーの大半が、世界生産台数の80%以上を海外で売るようになった事情もある。1973年に発生したオイルショックをきっかけに、日本車は「低燃費で低価格、しかも壊れない」ことを理由に海外でも売れ行きを伸ばしたが、1990年頃までは国内/海外の販売比率は各50%程度だった。
このバランスはちょうどよく、日本で使いやすいサイズながら、海外に対応して走行性能を高めたクルマも登場している。日産の初代プリメーラなどは、国内/海外のニーズをバランスよく満たすことで優れた商品に仕上がった。
しかしこの後、各メーカーとも次第に海外の販売比率が高まり、2000年頃には70%、2010年には80%に達する。
クルマのデザインや機能も、日本のユーザーから離れていった。日本はメーカーにとって20%以下の従属的な市場になり、車種の削減やフルモデルチェンジサイクルの長期化が一層進んだ。
新車効果が長続きしない背景には、日本メーカーの商品開発が海外中心になったことも挙げられる。
次期ヴィッツは海外での販売名のヤリスに変更される。マツダの数字車名戦略同様に海外マーケットに合わせて成功したケースは少ないだけに気がかり
人気が長続きするのは実用的なクルマだけ
そのいっぽうで、逆説的な表現になるが、一部の限られた車種では新車効果が延々と続いている。
例えばN-BOXは、フルモデルチェンジから時間を経過しても売れ行きがほとんど下がらない。タントもフルモデルチェンジを受ける直前の2019年上半期(1~6月)まで、国内販売の総合3位だった。1位はN-BOX、2位はスペーシアで、3位のタントを含めた軽自動車3車は、常に販売ランキングの上位に入る。
モデル末期まで販売台数をほとんど落とさなかった驚異的な軽自動車のホンダN-BOX。日本車の長い歴史でも珍しいほどの人気車となった
大ヒットしたモデルの次はフルモデルチェンジ後に失敗するケースもあるが、キープコンセプトですべてにわたり進化させ現行の2代目N-BOXも驚異的な人気を誇る
小型/普通車では、ノート、アクア、シエンタといった車種が販売ランキング上位の常連だから、軽自動車を含めて、好調に売れる車種はいずれも実用指向が強い。
これらの車種は、スープラのようなスポーツカーとは異なり、新型が登場しても売れ行きを一気に伸ばすことはない。その代わりにユーザーは、車検満了の時期になると必ず乗り替える。従って長期間にわたり、地味に淡々と売れ続けるのだ。
ノートもデビューしてから時間が経過したのちにe-POWERを追加して販売が一気に増強され、登録車で日本一の販売台数をマークするまでになっている
そして実用指向の車種は、日常生活のツールだから、調理器具などと同じく使い勝手が変化するとユーザーは不便を感じてしまう。そこで同じ車種を乗り続けてくれる。
メーカーもこの気持ちを知っているから、N-BOX、スペーシア、タントなどは、フルモデルチェンジを行ってもデザインや基本的な機能は変えない。使い勝手を妨げずに、走行安定性、乗り心地、内外装の質、安全装備などは着実に進化させる。
今はこのような実用指向の車種が、常に販売ランキングの上位を独占している。購買意欲を沸き立たせる趣味性の強いクルマが減り、実用指向の車種だけが残った。クルマ好きとしては、ちょっと寂しい状態になっている。
モーターショーやイベント、株主総会などで発表前にデザインを公開するのが流行っているが、それによりデビュー時の新鮮味が薄れているのも事実
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