TSMC進出で渋滞悪化
熊本県と熊本市が直面している課題のひとつが、深刻な交通渋滞による年間2890億円の経済損失だ。この問題は特に熊本市において顕著で、渋滞の状況は他の都市と比較しても深刻である。
【画像】「信じられねぇぇぇ!」 熊本県内の「主要渋滞箇所数」を画像で見る!(9枚)
熊本市の渋滞状況を具体的に見ると、2021年8月時点で熊本県内の主要渋滞箇所は293か所に上り、そのうち
「約6割」
が熊本市内に集中している。2013(平成25)年の調査結果と比較すると若干の減少は見られるが、それでも熊本市は全国の政令指定都市のなかで最も渋滞の激しい都市となっている。
さらに、熊本市近郊の菊陽町における半導体の受託製造世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の進出が渋滞問題を一層悪化させている。この大規模な半導体工場の進出は、地域経済に大きな活力をもたらす一方で、人口増加と交通量の増大を引き起こし、渋滞問題の解決をさらに急務とさせている。
渋滞対策の成否は、熊本市および周辺地域の発展に直結する重要な要素である。日本の内閣官房にあたる台湾の国家発展委員会の劉鏡清主任委員は、TSMC第3工場の誘致に関して、交通渋滞が進出の障害となる可能性を指摘し、
「第1工場の建設は地元自治体や日本政府、関連企業の協力で効率よく進んだ。交通渋滞の問題も、熊本県が解決に取り組んでくれると考えている」
と述べており、渋滞対策の重要性を強調している。
この問題の解決が地域発展の鍵となるため、熊本市とその周辺地域は渋滞対策に注力する必要がある。
渋滞が引き起こす年間2890億円の損失
渋滞が地域経済に与える影響は、数字で明確に示されている。
熊本県の試算によると、渋滞による経済損失は、熊本県民ひとりあたり年間最大17万円、熊本市民では年間24万円に達し、総額で
「約2890億円」
に上る。この深刻な経済的影響を受けて、熊本県と熊本市は渋滞対策を最重要課題のひとつとして位置付け、公共交通の整備や道路拡張などの対策を進めている。抜本的な解決策が期待されている。
渋滞がもたらす経済的なコストは、単なる時間や金銭の問題にとどまらない。それは都市の競争力に直結する重要な要素となっている。特に注目すべきなのは、熊本市がかつて
「九州の中心地」
として栄えていたにもかかわらず、慢性的な渋滞が原因で福岡市に地位を奪われ、未だに回復できていないという点だ。
この都市間格差は、若者の流出傾向にも顕著に表れている。『熊本日日新聞』2022年6月30日付の記事によると、福岡市への転出者は
「街の華やかさのほか、交通や買い物など利便性の高さにひかれた」
「通勤時にひどい渋滞に悩まなくて済むと考えると、熊本を離れる喜びも正直ある」
と答えている。渋滞が若者の転出を促す要因となっていることは明らかだ。人口流出の要因として、渋滞を挙げる都市は熊本市以外ではあまり見られない。
経済規模の格差が示す都市間競争
熊本市と福岡市には、どの程度の格差があるのだろうか。人口に注目すると、2024年10月現在、熊本市の人口は73万7409人。一方、福岡市は165万6737人と、熊本市の約2.2倍の規模だ。この人口差は、両市が持つ経済力や社会的な求心力の違いを示唆している。
「熊本県推計人口調査結果報告」によれば、2022年10月から2023年9月までの1年間で、熊本市から県外へ転出した人は1万8265人。その中で、福岡県への転出が4432人と最も多く、47都道府県の中で最大だった。
以下は、2015年以降の福岡県への転出人数の推移である。
・2021年:4347人
・2020年:4596人
・2019年:4720人
・2018年:4672人
・2017年:3691人
・2016年:4584人
・2015年:4113人
福岡県からの転入もあるが、毎年わずかに転出が上回る傾向が続いている。例えば、2022~2023年には福岡県から熊本市への転入は4098人で、334人の転出超過となった。
熊本市単体ではなく、広域的な動向を見ると、異なる傾向も浮かび上がる。2022~2023年には、熊本県全体で県外への転出が3万6412人だったのに対し、県外からの転入が3万9517人と転入超過となった。これには、TSMCの工場が立地する菊陽町を中心とした影響があると考えられる。
人口移動の背景には、各都市の経済的求心力が影響していると考えられる。基本的な経済指標として「平成28年経済センサス活動調査」から、熊本市と福岡市の事業所数を比較してみると以下のような差がある。
●熊本市
・総事業所数:2万8310事業所
・総従業者数:30万5105人
・製造業や医療・福祉分野に集中し、地方都市として地域密着型の役割が強い。
●福岡市
・総事業所数:7万2284事業所
・総従業者数:86万6930人
・情報通信業や専門技術をともなうサービス業の規模が大きく、先進的な都市型経済を形成している。
さらに、福岡市には大規模事業所(従業員300人以上)が199所あり、従業員数は12万3651人に達している。熊本市の統計にはこのような大規模事業所に関する記載がなく、両市の経済規模の差を物語っている。
福岡市と熊本市の人口や経済指標を比較することで、両市の格差が明確に浮かび上がる。特に、福岡市の多様で先進的な経済構造は、熊本市との差を広げる一因となっている。この格差を埋めるためには、熊本市が持つ地域密着型の強みをさらに生かし、広域的な競争力を高める施策が求められるだろう。
熊本市の低賃金と高物価の現実
経済規模の違いは顕著である。2019年の市内総生産を見ると、熊本市は2兆6604億円に対して、福岡市は約3倍の7兆9386億円に達している。
では、生活レベルに目を向けるとどうだろうか。最低賃金のデータを見てみると、九州全体で全国平均(1055円)を下回るなか、熊本県は952円で全国で2番目に低い水準にある。福岡県(992円)と比べても40円低い。さらに、佐賀県(956円)、長崎県(953円)、大分県(954円)、鹿児島県(953円)といった近隣県と比べても最低賃金は低く、生活の厳しさが伺える。
一方で、熊本県の物価は高い。総務省の「消費者物価地域差指数」(全国平均を100とし、数値が高いほど物価が高いことを示す指標)によると、熊本県は98.9で、福岡県(97.1)を上回っている。このことから、熊本県は九州で最も賃金が低い地域のひとつでありながら、物価は高くなっていることがわかる。
物価の違いをさらに詳しく見てみよう。総務省の地域差指数では、県庁所在地ごとの数値も示されており、これに基づくと熊本市は98.9で、福岡市は97.7となり、やはり熊本市の方が物価が高いことがわかる。家賃を除いた指数でも、熊本市は99.8(全国20位)で、福岡市は98.5(全国44位)。全国的に見ても、熊本市は
「賃金が低く、生活コストが高い地域」
である一方、福岡市は比較的安価な地域となっている。
特に注目すべきは食料品の指数で、
・熊本市:100.5
・福岡市:98.7
となっており、この差が交通インフラの整備遅れや渋滞が生活コストを押し上げている現状を物語る一因となっている。
公共交通改革が生む都市の転換点
都市を“生き物”に例えるなら、交通インフラはその“血管”に相当する。
熊本市は九州の中心都市でありながら、その“血管”が脆弱で、常に渋滞に悩まされている。この状態は、人や物の流れを妨げ、都市活動の効率を低下させる結果、物価上昇を引き起こし、市民の生活に圧力をかけている。
先に紹介した若者の声、「通勤時にひどい渋滞に悩まなくて済む」という言葉は、まさにこの問題を象徴している。熊本市では、仕事の選択肢が限られ、賃金も低い。それに加えて物価が高いため、生活は困難を極める。そして、渋滞による時間の浪費がさらに追い打ちをかけている。こうした状況が、人口流出を加速させる要因となっているのだ。
しかし、熊本市には希望の光が差し込んでいる。TSMC進出によって、都市が抱える課題を解決する大きなチャンスが訪れた。世界的な半導体産業の誘致を契機に、熊本市は本格的な都市改革に乗り出している。特に注目すべきは、交通インフラの抜本的な見直しだ。市は
「自動車交通量を1割削減し、公共交通利用を2倍に増やすことで渋滞を半減させる」
という野心的な目標を掲げている。この目標達成に向けて、熊本市は自家用車に依存する都市構造から、
「公共交通を中心とした都市」
へと転換しようとしている。この改革が成功すれば、熊本市の未来は大きく変わるだろう。
渋滞は単なる“時間の無駄”ではない。それは都市の発展を妨げ、住民の生活水準を低下させる重大な問題だ。熊本市の改革がこの課題を解決できるかが、今後の発展を左右する大きなカギとなる。
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みんなのコメント
それに、九州の中心が熊本から福岡に移ったのは
渋滞が原因じゃないし・・・
だから渋滞する