プリウスやアクアといった省燃費モデルの販売を抑えて、勢いのある日産ノートe-POWERに追加されたNISMOモデルが発売され、試乗してきたのでお伝えしたい。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
NISMOモデルと言えば、標準モデルのサスペンションやエクステリア、インテリア、そしてモデルによってはエンジンスペックもより高性能なチューニングをしてきたものが多い。もちろん、こうしたハイスペックを求めるユーザーに応えることはもちろんだが、ノートe-POWERでは、Highlife Seekerという言い方をニスモではしていて、ライフスタイルにおけるポジションニングでユーザー訴求をしていくモデルだ。
これまで、ノートやマーチ、ジュークのNISMOモデルがそのハイライフシーカーを狙ったモデルで、Performance SeekerにポジションするGT-Rとは異なる訴求手段ということになる。
早速、そのハイライフシーカーをターゲットにしたノート e-POWER NISMOとはどんなモデルなのか?をお伝えしよう。
ポイントはモーターパワー出力制御の変更、サスペンション、ボディ補強ということになるが、パフォーマンスシーカー向けではないハイライフシーカー向けのチューニングがされているというものだ。装備品でもNISMOモデルらしくありつつ、ライフスタイルを意識する人が惹きつけられるデザインを目指しているので、まずエクステリアからチェックしてみよう。
ひと目で標準車とは違うことが分かるのはフロント、リヤのバンパーデザイン。ミラーも赤耳に変更されている。耐久レースで1号車と2号車の見分けにミラーを赤と黄色に塗り分けるあの手法だ。だが、その背景を知らずとも好印象に映るはずだ。
そしてサイドシルプロテクター、ルーフスポイラー、シャークフィンアンテナ、専用マフラー、エンブレム、リヤフォグランプ、LEDデーライトランプそして16インチアルミホイールを装備している。特にスポイラー類に入る赤のストライプがスポーティさを強調する。リヤは特にディフューザーとバンパーデザイン、マフラーが走りをイメージさせニスモらしさがある。
適度にスポーティさを強調していて、量販モデルのノートとは明らかに印象が異なり若々しさと力強さがあり、やり過ぎていないところがいい。若さのある年配層や、スポーツ系?女子でも素敵に乗れる印象だ。
インテリアではNISMOのロゴ入りスポーツシートや本革&アルカンターラのステアリング、ロゴ入りメーター、エアコン吹き出し口フィニッシャーなどたくさんのNISMO専用パーツが多数組み込まれている。また、レカロと共同開発したスポーツシートは別途オプション設定しており、27万円となっている。
■基本性能のアップ
操安性能を向上させるためにプラットフォームにも手が加えられている。e-POWERは前後重量配分がF65:R35というフロントヘビーで、そのためにもシャシーチューンは見直されているわけだ。ハイライフシーカーそしてニスモにとっても、操れる愉しさは重要なアイテムというわけだ。
主にねじれ剛性を上げるために標準車には装備されていないフロントクロスバーや、ミッショントンネルの凹部をつなぐステーを2か所に追加するなどの変更が加えられている。この3点の部位はe-POWER NISMO専用のチューニング部位だ。またサスペンションでは標準のe-POWERに対しNISMO e-POWERはリヤのバネレートをアップ、ダンパーは前後とも減衰力をアップしている。
とくにフロントはストラット自体が一クラス上、つまり、セレナやエクストレイルに使われるサイズにアップしており、ピストンロッド、ケース径も太くなっている。そしてキャンバー角も標準e-POWERに対してネガティブキャンバーへと変更している。
もちろん装着タイヤも変更している。標準e-POWERはエコピアという省燃費系タイヤを装着するがNISMOモデルはヨコハマDNA s.driveでサイズも185/70R14から195/55R16へとサイズアップしている。
■パワートレーンのチューニング
最高出力、最大トルクに変更がないものの、制御変更によってドライバビリティを向上しているというのがe-POWER NISMOの特徴だ。これもハイライフシーカーをターゲットとするからで、絶対値を向上されることなく魅力を向上させる手法というわけだ。
詳しく見ると、制御の考えかたとしては標準である3つのモード、「エコ」「ノーマル」「S」のうちエコ以外をNISMO専用に変え、加減速感を変更している。つまり、駆動力と回生力およびレスポンスをチューニングしているのだ。
具体的には「ノーマル」のDモード時は加速の伸びを重視し、回生では日常のシーンでギクシャクしないで普通に走れるていどの回生力としている。またノーマルのBモードのときは高車速で強めの減速や下り坂をブレーキを踏むことなく下れるレベルにしている。そして「S」ではコンパクトカーには厳しいワインディングでの登り坂で不満が出ないように低中速のトルクの立ち上がりを強め、また高速から中速域まで強い減速Gが立ち上がるようになっている。だから、ワインディングを気持ちよくワンペダルで走行できるセッティングとなっているのだ。
特徴はSモード時の回生ブレーキで、標準のe-POWERは実はアクセルをオフにしたとき減速度が変化しているのだが、このNISMOは減速度が一定になるように制御変更している。これはガソリン車でいうところのECU/エンジンコントロールユニットに相当するVCM/ヴィークルコントロールモジュールのチューニングによる変更だ。
どういうことかと言うと、ワインディングを走り慣れたドライバーであればNISMOは違和感なく走り込みができ、一方ノーマルVCMのe-POWERは回生変化を感じながら、いわば電気自動車らしく新しい感覚の減速を感じながら走るということだ。
それと発電用のエンジンの回し方、つまりエネルギーマネージメントも変更している。これはエンジンの回転と車速のリニア感を重視した制御で、充電量を増やすときは回転を上げ、またEV走行頻度を上げるため回転は維持したりしている。発電開始直後は回転を抑えて静粛性を確保しつつも、車速アップにはリニアに感じるように変更している。
■試乗インプレッション
さて、実際の試乗では富士スピードウエイのショートコースを使用した。各モードでは、タイムアタックという乗り方ではなく、ワンペダルでコース一周してみるような走り方だ。
ショートコースはアップダウンもあるため、ワインディングをイメージしやすくSモードではできる限りフットブレーキを使わない走りが新しかった。ハイブリッド車にとっては摩材を使ったブレーキ使用は、単にエネルギーを捨てているだけであり、NISMOモデルの狙いから外れてしまう。だから回生を強くし、リズムよく走れることを狙ったチューニングということだ。
「ノーマル」のDとBモードもそれぞれ試してみた。走行前に事前に制御内容の説明を受けていたこともあり、実際の試乗で確認することができた。Sとは異なりアクセルペダルを離してもDモードであれば、普通のガソリン車のような減速Gになる。Bモードではそれよりやや強い減速Gになるが、違和感はなく適度な減速だと感じるのだ。
Sモードでは前述のように、ワンペダルでリズミカルに走れる制御となるため、最初はどの程度の減速Gなのか?マスターするのに時間が必要だ。思いのほか減速Gは強く、これまでに体験のしたことのない減速の仕方を体感することになる。もっともEV車に乗り慣れた人であれば感覚はすぐにつかめる。こうしたフィーリングは、これまでにもアウトランダーPHEVやBMWi3でも同様な減速Gを体験している。
サーキットは路面状況が滑らかで大きなアンジュレーションもないため、乗り心地やNVHの評価は難しいが、それでもエンジン音の入り方など静粛性は高いと感じた。とは言えサーキットという特殊な環境であるため、音振や乗り心地よりもボディ剛性のしっかり感、操安性のナチュラルさなどに感心した。
ノートに対する印象はデビュー当時の2012年頃で、特に際立つ印象のないモデルだった。ハンドリングも穏やかであり、運転に不慣れな人でも乗りやすいようにハンドルを軽くしたりしているという印象だったが、今回その印象が大きく変わり、重量で120kgほど重くなったことやNVH対策をしたことで、全体にしっとり感が出ているのだ。ステアリングの手応え感もスポーティで好印象だ。
NISMOは245万8080円(税込み)の設定だが、NOTE全体の印象を引き上げていることにつながったのではないかと思う。ライフスタイルに溶け込む狙いのNISMOモデル、Performance SeekerではなくHighlife Seekerを引き付けるのか興味深い。
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