子供の頃、「スーパーチャージャー」という響きに憧れた。なにしろ「スーパー」な「チャージャー」だ。きっと搭載車はすさまじいパフォーマンスを持っているに違いない。どうやら普通のエンジンにこの機構を追加すると、さらなるパワーとトルクを与えてくれるそうだ。
そう思って大人になった頃、「スーパーチャージャーは効率がよくない」と言われるようになっていた。そんなバカな。スーパーでチャージャーな装置なのに。全盛期には多くの名車に搭載されていた。特徴的なパワーの出方で、そのクルマの走行性能を個性的に彩った。今はほとんど採用するモデルがないという。ロストテクノロジーだ。
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確かに効率はよくないかもしれない。しかしこういう技術があったということ、多くの名車に搭載されていたこと、そして何より個性的な走りを演出した技術は、長く語り継いでゆくべきだ。
そう考えて、自動車ジャーナリストの片岡英明氏に、スーパーチャージャーの概要と、その搭載車6選をチョイスしていただきました。
文:片岡英明
■なぜスーパーチャージャーは搭載され、廃れたのか
限られた排気量のなかで、エンジンの出力を高めるために考えられたのが「過給機」だ。圧縮すれば、排気量以上の空気をシリンダーに送り込むことができ、燃やせる燃料の量も増えるから出力を高められる。
吸気を圧縮するにはポンプを使うが、その動力源にエンジンの回転を利用するのが「スーパーチャージャー」だ。ターボより低い回転域からパワーとトルクを発生させることができ、(ターボよりも)タイムラグも抑え込むことができる。
実用域のドライバビリティはいい。だが、高回転はあまり得意ではなく、メカニカルロスが大きくなる。そのためターボと比べると魅力は薄かった。また、燃費や生産効率も今一歩。
1989年に物品税に代わって消費税が導入され、3ナンバー普通車の維持費が軽減されている。大排気量のDOHCエンジンやターボの技術が一気に進んだこともあり、そのうまみが薄れた。これ以降、上級クラスからスーパーチャージャー搭載車が一気に消えるのである。現在、国産車では唯一、日産のノートが採用するだけだ。
そうしてロストテクノロジーになりつつあるスーパーチャージャーだが、80年代には画期的な技術として多くの名車に搭載された。ここではそんな、スーパーチャージャーを搭載した名車を紹介していきたい。
■トヨタ7代目クラウン
トヨタクラウン
7代目のGS120系は「いつかはクラウン」のキャッチフレーズが話題をまいたモデルだった。エンジンの主役は新世代の直列6気筒。DOHC4バルブ方式の11G-GEU型直列6気筒エンジン(1988cc)に、ルーツ式スーパーチャージャーを装着した1G-GZE型は1985年9月に登場している。動力の伝達を行うために電磁クラッチを採用した。
1G-GZE型エンジンはスーパーチャージャーの助けを借りて160ps/6000rpm、21.0kgm/4000rpmを発生した。しかもレギュラーガソリン仕様だ。
電子制御4速ATを採用するクラウンの100km/h巡航は2800rpmだった。
アイドリングのちょっと上からすぐにパワーとトルクが立ち上がり、力強い加速を見せていた。だが振動とノイズは大きかった。それでもその強烈な走りは、クラウンに乗るユーザーたちにプライドをもたらした。
1987年9月に登場した8代目のGS130系クラウンにもスーパーチャージャー仕様が用意されていた。
■トヨタ初代MR2
トヨタMR2
トヨタはターボだけでなくスーパーチャージャーの採用にも意欲的だった。前述のように高級セダンのクラウンからミニバンのエスティマまで、幅広くスーパーチャージャーを採用している。
もちろんスポーツモデルにもスーパーチャージャーを展開した。その筆頭が、日本で初めてミッドシップ方式を採用した2人乗りのスポーツカー、MR2(AW11型)だ。名機といわれた1587ccの4A-GE型直列4気筒DOHC4バルブエンジンにスーパーチャージャーを装着した。
1986年夏に登場した4A-GZE型エンジンはレギュラーガソリン仕様だが、145ps/6400rpm、19.0kgm/4400rpmを発生し、4A-GE型の弱点だった低回転域のトルク不足を解消している。
このMR2のほか、AE92型レビン/トレノにもスーパーチャージャーが設定された。1989年5月、圧縮比を8.0から8.9に高め、プレミアムガソリンを指定して165ps/21.0kgmを絞り出している。最終モデルは170psまで達成した。当時の若者たちは、いつか乗ってみたいと憧れるユニットだった。
■マツダユーノス800
マツダユーノス800
マツダは早い時期に、ユニークなプレッシャーウェーブ・スーパーチャージャーを装着したディーゼルエンジンを、カペラに積んで送り出した。バブルが崩壊した後の1993年秋には、凝ったメカニズムのユーノス800を発売している。
これは10年基準を掲げて登場したFF方式のプレミアムセダンで、パワーユニットは量産車として世界初の「ミラーサイクルエンジン」だった。吸気バルブの閉じるタイミングを遅くし、圧縮比を下げることによってノッキングなどの問題点を払拭している。
ユーノス800が積むのは2254ccのKJ-ZEM型V型6気筒DOHC。これにIHI製のリシュロム式スーパーチャージャーを組み合わせ、3Lエンジン並みの動力性能と2Lエンジン並みの低燃費を実現した。
圧縮比を示す膨張比は10.0だが、リーンバーンエンジンのため有効圧縮比は7.6になる。最高出力は220ps/5500rpm、最大トルクは30.0kgm/3500rpmで、力強いパワー感と良好なドライバビリティが自慢だった。
美しいフォルムと特徴的な乗り味で、今でも根強いファンを持つモデルとなった。
■スバルヴィヴィオ
スバルヴィヴィオ
スバルは軽自動車のレックスにスーパーチャージャーを装着し、気持ちいい走りを手に入れた。そして1992年3月には後継のヴィヴィオが登場する。
エンジンは「クローバー4」のニックネームを持つ658ccのEN07型直列4気筒だ。RX-RとGXはDOHC4バルブにスーパーチャージャーの組み合わせていた。しかもプレミアムガソリン仕様とし、64ps/7200rpm、9.0kgm/4000rpmを絞り出す。
スーパーチャージャーで武装したEN07X型エンジンのレッドゾーンは9500回転だ。だが、その気になれば1万回転まで回り、パワー感とトルク感も軽自動車レベルを大きく超えていた。
ターボ以上にレスポンスは鋭く、高回転のパンチ力も素晴らしい。FF仕様はシャープなハンドリングを持っており、気持ちいい走りを楽しめたが、路面に関わらず安心感があるのはフルタイム4WDだった。今では考えられないような異次元の走りだった。
■三菱デボネアV
三菱デボネアV
三菱は早い時期から過給機に注目し、ターボだけでなくスーパーチャージャーも実用化していた。排気量が550ccと660ccに制限されている軽自動車に装着することが多いが、1987年にデボネアVにスーパーチャージャー仕様を追加した。
搭載したのは1986年夏に上級の6G72型とともに登場した1998ccの6G71型V型6気筒SOHCだ。自然吸気エンジンはMCA-JETバルブを採用したが、スーパーチャージャー仕様はこれを廃し、ローラーロッカーアームを用いた。圧縮比は8.0、最高出力は150ps/5000rpm、最大トルクは22.5kgm/3000rpmだ。
当時、3ナンバー車は維持費が高かった。そこで2Lエンジンを主役としたのだが、デボネアVの重量ボディには非力だ。そこで低回転から過給を行い、ストレスなく加速するスーパーチャージャー仕様を設定したのである。
が、1989年に上級の3Lエンジン(6G72型)がDOHCに進化したため勇退した。
■日産マーチスーパーターボ
日産マーチスーパーターボ
最後は最も印象的だったスーパーチャージャー搭載車を挙げる。
日産のエントリーカーとして開発され、1982年10月にデビューしたのが初代マーチだった。女性ユーザーやセカンドカー需要を狙ったファミリーカーとしての性格が強かったが、1985年にターボ車を追加している。
1988年夏にはモータースポーツのベース車、マーチRを送り込んだ。
最大の特徴は、ターボにスーパーチャージャーを加えたツインチャージャーとしていることである。1989年1月のマイナーチェンジのとき、量産型の「スーパーターボ」を投入した。
マーチRおよびマーチスーパーターボの心臓は、総アルミ製のM10ET型直列4気筒SOHCインタークーラー付きターボのボアを2mm詰め、排気量を987ccから930ccにしたMA09ERT型エンジンだ。ここにターボが苦手とする低回転域のレスポンス向上を狙い、スーパーチャージャーも追加。これをわずか770kgの車体に搭載した。
ラリー参戦のために開発され、そのカタログモデルと言えるのがスーパーターボである。MA09ERT型は110ps/13.3kgmを発生。マーチRと違い、3速AT車も用意されていた。販売的には成功したとは言えないが(そのため一代で姿を消した)、その挑戦的で実験的なメカニズムは充分「名車」といえるモデルであり、日本車史に残すべき偉大なクルマといえよう。
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