モータースポーツを取材していい写真を撮るにはもちろん腕前も大事だが、運の要素も大きい。特にそのレース、あるいはチャンピオンシップを決めるような決定的な瞬間に立ち会おうと思ったらなおさらだ。
今回は佐久間氏が1998年のWRC最終戦RACラリーでとらえた決定的な瞬間をご紹介しよう。
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文・写真/佐久間 健
■1998年のWRCタイトルがかかった最終戦RACラリー
1998年のWRC最終戦RACラリーのSS1を快調に走り抜けたトミ・マキネンのランサーエボリューションV
1998年のWRC最終戦は英国で開催されるRACラリーだ。この年は全12戦が開催されたが、最終戦の時点でチャンピオン争いのトップは58ポイントのトミ・マキネン(三菱)、2位は56ポイントのカルロス・サインツ(トヨタ)だった。
ポイントはそのラリーの1位から6位までに、10・6・4・3・2・1点があたえられる。最終戦終了後に同点の場合は、優勝回数が多いほうが上位となるシステムだ。ここまでマキネンが優勝5回、サインツ2回なので、同点ならマキネンがチャンピオンという状況だった。
ということで、私はRACラリーの取材に向かった。ラリー取材の基本として、トップグループのマシンを全車撮影する必要があるので、まずはSS1(※SS=スペシャルステージ:競技区間)に向かった。出場するマシンには常にリタイヤのリスクを伴う上に、サーキットと違って撮影ポイント前を1度しか走らないためだ。
その次はシルバーストーンへ移動。シルバーストーンはF1も行われるサーキットであるが、SS3とSS4のコースがここに設定された。実はSS1を撮影してから向かうと間に合わないのだが、SS7とSS8、SS9とその後3本のSSも同じ場所だったからだ。
■突然のひらめきで撮影するSSを変更
SS5に3輪走行で現れたマキネンのランエボV。後ろからメビウスのインプレッサが迫る
この後の行動についてはちょっと自慢話になるが、シルバーストーンへ曲がる交差点にきて突然何かがひらめいた。そして曲がるのをやめてSS5とSS6があるMillbrookへ行き先を変更したのだ。
ところが、ここで最初にきたのはゼッケン12のバタネンと10のエバンス、14のシュワルツだった。「しまった」と思った次の瞬間に来たラリーカーを見て目を疑った、何と3輪でゼッケン1のマキネンが走って来たのだ。
この当時の撮影はまだデジタルカメラがない時代なので、フィルム1本では36枚しか撮れない。そのときのフィルムの残量は20枚弱。マキネンのランサーが後部から火花を散らし、メビウスのインプレッサに追いつかれているシーンを撮影して、急いでフィルムを入れ替え、再び後半の撮影も成功することができた。
ほっとして笑顔を浮かべるトミ・マキネン
私は1974年からWRCの取材を何度も行って来たが、そう何度もこんなにタイミングよく撮影できたことはない。そしてシルバーストーンへ行っていたら、当然このカットは撮れていなかったわけだ。
マキネンがリタイヤしたから、これでサインツのチャンピオンが決定したと思っていたら、なんとサインツはこのラリーの最終SS28のマーガムでリタイヤしてしまう。ゴールまであと300mというところで、彼のカローラWRCはエンジンブローしてしまったのだ。
初日にリタイヤしたマキネンは、帰り支度をしていた所で関係者からサインツのリタイヤを知らされた。写真はそこでほっとして笑顔をみせたマキネン、そしてコドライバーのマニセンマキと一緒にポディウムに姿を見せたところだ。
そしてこのラリーに優勝したのは三菱チームのリチャード・バーンズであった。
1998年のWRCドライバーチャンピオンを獲得して表彰されるマキネンとマニセンマキ
●解説●
1998年のWRCにはトヨタと三菱、スバル、フォード、セアトがワークス参戦してタイトルを争った。トヨタはカローラWRC、三菱はランサー・エボリューションV、スバルはインプレッサWRCを投入。
すでにベース車からの改造範囲が広いWRカー規定が導入されていたが、三菱のみが改造範囲の限られたグループA既定のマシンで戦っており、マシン的には不利であった。
しかし最終戦のRACを終えた時点で、両ドライバーの活躍により三菱チームはドライバーとマニュファクチャラーの両タイトルを獲得することができた。
最終戦RACラリーは三菱のリチャード・バーンズが優勝した
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