新型アルファード/ヴェルファイアに、クラウンなどの高級セダンでおなじみのラグジュアリー仕様シートカバーが、初めてオプション設定された。今回の試みが、ファミリーカーからショーファーカーへ舵切りとなるのか? なぜこのような変化が起きたのか、考察する。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、撮影/池之平昌信
クラウンでおなじみのレースシートカバーがカギ!? 新型アルファード/ヴェルファイアがショーファーカーへ舵切りするワケ
■アルファード/ヴェルファイアはファミリーカーではなくなった?
写真は、発表会で撮影された新型ヴェルファイア。先代モデルよりも気品のあるスタイリッシュなデザインになり、内装も高級志向となっている
6月21日に発表・発売された新型アルファード/ヴェルファイア。
筆者は、発表後からトヨタディーラーでの商談の様子を見てきた。そのなかで感じたのは、「ショーファーカー推し」が多くなったということ。
先代までは最高のファミリーカーとして販売台数を伸ばしてきたわけだが、今作はファミリー需要よりもビジネス需要に軸足を置いているように見える。
アルヴェルは最高のファミリーカーではなくなってしまったのか。日本が誇る至高のミニバンの変化を追う。
■発表会で印象に残る「ショーファーカー」という言葉
トヨタ執行役員 デザイン領域領域長 Chief Branding Officerであるサイモン・ハンフリーズ氏が、新型発表会に登壇した
6月23日13時半から始まった新型アルヴェルの発表会。執行役員のサイモン・ハンフリーズ氏が登壇し、現在までアルヴェルが紡いできた物語を話し始めた。
「1990年代、ファミリーカーの中にミニバンというセグメントが誕生し、アルファードもその一員となった」とスタートする。ヴェルファイアの登場までを語り、出てきたのは「ストーリーはまだ序章に過ぎません」という一言。
「アルファードはより大きなムーブメントを生み出していきます」と話をつづけ、豊田章男会長(2004年当時は役員)がセダンのショーファーカーからアルファードへ乗り換えたという話題へ転換している。
以降、新型アルヴェルは新しいショーファーカーといった話が続き、センチュリーのニュータイプを匂わせるなど、ショーファーカーについての話が半分以上を占めていた。
どうもアルヴェルの本質は「大人を満足させるクルマ」に変化しているようだ。
■ディーラーオプションにハーフシートカバーが登場
写真は、クラウンクロスオーバーにオプション設定されたハーフシートカバー(ラグジュアリータイプ)だ。このカバーが新型アルヴェルにも用意された
新型アルファード/ヴェルファイアの販売店装着オプションを見て驚いた。なんと黒塗りのセダンでよく見る白いレースのハーフシートカバー(ラグジュアリータイプ)が、採用されているのである。
ハーフシートカバーのラグジュアリータイプを採用するのは、MIRAIやセンチュリー(プレステージタイプ)のようなセダンが中心だ。
SUVではクラウンクロスオーバーだけが採用し、ハリアーやランクル300といった高級車には、設定されていない。
ミニバンでは、グランエースが唯一ハーフシートカバーを採用しているものの、ラグジュアリータイプではなかった。
もちろん弟分のノア/ヴォクシーへの採用はなく、高級感を強く押し出した新型プリウスでも、ハーフシートカバーの採用はないのだ。
ディーラーオプションの内容は、ユーザーの声を大きく反映したものになる。先代までのアルヴェルに対して、一部ではレースのシートカバーを求める声があったからこそ、新型での採用が決まったのだろう。
単純にハーフシートカバー有無で、明確に高級車・ショーファーといった線引きができるわけではない。
しかしラグジュアリータイプのハーフシートカバーは、一部のショーファーカーになりうる車種にしか展開されていないオプションであることは、ゆるぎない事実である。
メーカーの開発意志はもちろんだが、ユーザーのニーズも、ショーファーカーとしてのアルファード/ヴェルファイアを誕生させるきっかけになっているようだ。
■今後のアルヴェルを支えるのは法人ユーザーか
発売当日には、一般法人問わず数多くのユーザーがディーラーへ殺到した。KINTOでも受け付けしてる。そのなかでも、法人向けのKINTO ONEではエグゼクティブラウンジが人気だという
6月21日の発売当日、全国のトヨタディーラーにはアルファード/ヴェルファイアを求め、ユーザーが殺到した。店頭での申し込みは個人と法人の割合が半々程度だが、法人ユーザーはKINTOへも流れているという。
法人向けサブスクリプションのKINTO ONEの申し込みページをのぞいてみると、アルファード/ヴェルファイアともにエグゼクティブラウンジだけが、「好評につき申し込み受付を停止しております」と記載されている。
ディーラーでは逆に、エグゼクティブラウンジの販売枠だけが余っているというところも少なくない。法人の多くがKINTOを使い、エグゼクティブラウンジを集中して注文しているのだ。
アルヴェルは、先代よりも価格が大幅に上がり、個人が簡単に買い替えられるクルマではなくなってきた。
先代ほどの爆発的な売れ行きも、長くは続かないだろう。初期受注が落ち着くと、アルヴェルの販売実績を下支えするのは法人需要となりそうだ。
新型アルヴェルは、先代と同様に個人が所有する高級ミニバンという側面を残している。しかし、いっぽうで先代には薄かったビジネスシーンでの見栄えに注力した。
今後は、個人はもちろんだが、法人に選んでもらえる販売へと、売り方が変わっていく可能性が高い。クラウンマジェスタやレクサスLSのような存在に、アルファード/ヴェルファイアもなっていくということだ。
ファミリー向けのノア/ヴォクシーとは明確に違うことを示した新型アルヴェル。先代までの高級ミニバンという存在が大きく変わり、今作では日本のショーファーカーを牽引する存在となるに違いない。
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ある意味怖い戦略だ。