クラウンの歴史=革新と挑戦の歴史 「革新と挑戦」に挑んだプロジェクトメンバーの奮闘
新型クラウンの4つのボディバリエーションのうち「クロスオーバー」に続いて「スポーツ」がデビューした。
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一般的に新車の開発は4年程度かかるとされているが、この新型クラウンでは、21カ月という超短期開発に挑戦した。2020年2月、クラウンのマイナーチェンジを提案した開発陣に、豊田章男社長(当時)はこう告げたという。
「本当にこれでクラウンが進化できるのか? マイナーチェンジは飛ばしてもいいので、もっと本気で考えてみないか」
ここから、急遽フルモデルチェンジへと舵を切り、開発は急ピッチで進められたが、トヨタのフラッグシップであるクラウンへの顧客の期待は大きい。「間に合わせ」でつくれるほど甘くはない。
腹を決めた開発陣が立ち返ったのが、歴代クラウンの主査たちが受け継いできた、「革新と挑戦」というスピリットだ。
クラウン・スポーツの開発リーダーを務めた本間裕二は「見て、乗って、走って、お客様に“WOW”と感じていただけるようなエモーショナルなクルマ」を目指す中で、一人ひとりがその精神に向き合ってきたと語る。
クラウン・スポーツにおいて、それが結実したのが「リアフェンダーの意匠」/「アシンメトリーな内装」/「俊敏な走り」だという。
700回の失敗を乗り越えて……
「見て」“WOW”と感じてもらえるようこだわったのが、「リアフェンダーの意匠」だ。
クラウン・スポーツの外形デザインのリーダーを務めた小出幸弘は、同車ならではの俊敏な走りをボディ形状で表現すべく、エモーショナルなデザインにこだわったと語る。
小出:「クラウン・スポーツの21インチという大径サイズのタイヤに加え、足まわりの力強さをリアフェンダーで表現したいと考えました。また、クルマのデザインではボディ側面にキャラクターラインを入れるのが一般的ですが、クラウン・スポーツではあえて入れず、ボディ面の抑揚だけで人々の感情に訴えるようなダイナミックさを表現することにこだわりました。」
従来のトヨタ車にはない、大きく張り出したリアフェンダー。小出は、キャビン後方(リアフェンダー上部のサイドウィンドウ部分)やボディ側面(リヤドアの辺り)を絞り込むことで、実際の張り出し以上に力強さが感じられるようデザインをつくり込んだという。
小出:「ボディ面の抑揚が大きいので、走っていると写り込みによってさまざまな表情を見せるのですが、それが本当に奇麗で……クラウン・スポーツならではのエモーショナルさや艶やかさを表現しました。この意匠が実現できたのは、生産技術メンバーのおかげです。」
生産技術のエンジニアとして新型クラウンのプロジェクトに参加した福田幸介は、2016年に入社して以来、プレス生技(現・製品化製造技術部)という部署に籍を置き、一貫してリヤフェンダーをプレスするための生産技術や金型の設計に携わってきた。
福田:「私の仕事は、開発中の車両について、デザイナーたちと一緒になって『こういうデザインならば、こういう方法でつくれる』といったように生産方法を検討し、プレス金型を設計することです。通常はプレス金型の設計までを手掛けるのですが、クラウン・スポーツはかなりチャレンジの多いクルマでしたので、金型の設計と製作後も量産評価から生産開始まで一貫して担当しました。」
そんな福田が絶大なる信頼を置くのが曽場充士だ。リアフェンダーの美しい面を実現するには非常に高い精度が求められ、設計データと寸分たがわぬ金型を作りこむ必要があった。そのため、金型を工具で削ったり、溶接で肉盛りしたりして調整することでボディのひずみを消すなど、ボディパネルの精度を高める作業が必要になる。
曽場は、そんな作業を手がける金型のスペシャリストだ。2007年に入社し、2年間は技能五輪の選手としてヤスリを使って金型を仕上げる技を磨いた曽場。2009年に金型を製作する部署(モビリティツーリング部)に異動して以来、金型の調整を担当してきた。
曽場:「クラウン・スポーツのリアフェンダーは、金型一筋でやってきた私から見ても『とても深いな』というのが第一印象でした。」
通常、福田のような生産技術担当者がプロジェクトに参加するのは、外形デザインがある程度かたまったタイミングが一般的だ。しかし、このチャレンジングな意匠を実現するため、小出は少しでも早くデザイナーの想いや意匠の方向性を共有したいと思い、通常より早い段階で、まだ造形途中だった1/1スケールのクレイモデルを福田に確認してもらったという。
福田:「初めてクレイモデルを見たときは本当にかっこ良くて、何とかこのままの形で世に出したいと思いました。実現させるのはかなり難しいだろうな、というのが正直なところでしたが……。」
ボディの張り出しが大きいとパネルを成形する量が増える。それによってパネルの一部に応力が集中、もしくは分散することで、ひずみが生じたり、割れやすくなったりする。そもそも、成形量が増えることで、奇麗な面の品質を担保するのも難しくなるという。
福田:「3次元のCAD(コンピュータ・エイデッド・デザイン)システムを用いて、コンピューター上で金型を設計し、シミュレーションにかけてテストするのですが、どうしてもうまくいかないんです。4カ月かけて700回ほどトライ&エラーを繰り返しましたが、失敗の連続で、さすがに心が折れそうになりました。」
そんな状況を打開するきっかけとなったのが、上司からの「無茶してもいいぞ」という言葉だった。
福田:「私たちエンジニアには『設備はこう使うべき』とか『金型はこうあるべき』といった、ある種の固定概念があります。それらをいったん取り払って、もっと柔軟に、今まで使ったことないのような設備の使い方や、金型の動かし方にチャレンジしてもいいと上司から言われて、気持ちが楽になりました。」
新しい挑戦を繰り返す過程で、福田は今までにないつくり方を思いついた。
曽場:「クラウン・スポーツのプロジェクトに携わった同じ部署のメンバーでは、僕が一番金型をいじくり倒したと思っています(笑)。1週間、同じ箇所を調整し続けたこともありました。個人的には、この金型の調整を担当させていただいて、鍛えられましたし、すごくいい経験をさせてもらいました。」
こうして大きく張り出したリアフェンダーの実現が可能となり、最初の試作車を目にした小出は、「本当に感動した」と感慨深げに振り返る。
小出:「試作車が私たちデザイナーが目指した通りの意匠に仕上がっていて非常にうれしかったです。この意匠が実現できたのは、ワンチームとして力を合わせて困難に挑戦していこうという想いが、部署を越えて一致した結果だと感じています。」
福田:「難しいから妥協するのではなく、技術で実現させるのはエンジニア冥利に尽きます。今回の経験を活かして、別のプロジェクトでも挑戦を続けていきたいと思っています。」
2人の若手の奮闘により実現した、アシンメトリーな内装
「乗って」“WOW”を感じてもらえるよう挑戦したのが「アシンメトリーな内装」だ。クルマ開発センター・カラー&感性デザイン室に在籍し、内装の表面処理や表皮のデザインを担当した小林愛理に、まずアシンメトリーな内装のコンセプトについて聞いた。
小林:「クラウン・スポーツの外形デザインはスポーティでありながら、優雅に見えたり、セクシーな印象を受けたりするので、内装でも同様の要素が感じられるようにつくり込みました。」
クラウン・スポーツでは、ドライバーはもちろんのこと、助手席のパッセンジャーもワクワクするようなスポーティかつエレガントな内装というテーマのもと、左右非対称のカラーを採用。コックピットは運転へのコンセントレーション(集中力)を高める黒い内装とし、助手席には、おもてなしの意味を込めて華やかなレッドの表皮を用いることで、特等席のように仕上げた。特に小林がこだわったのが、センシャルレッドと名づけられた赤色の表皮だという。表面に光輝材という材料を混ぜることで、パールが入ったようにオレンジ色に光るのが特徴だ。
小林:「クラウン・スポーツの赤いボディカラーは陰影が印象的ですが、内装の表皮も同じように美しい陰影が出るのが魅力です。」
一方、車両設計部に籍を置き、クラウン スポーツの内装設計を担当した山本彩加は、この表皮の難しさについて、以下のように語る。
山本:「私の仕事は、デザイナーの目指す意匠を実現するために、部品の成形から、生産ラインでの組みやすさや安全性まで、さまざまな要素を考慮しながらカタチにしていくことです。今回の赤い表皮では、試作段階でダッシュボードの曲面にシワが発生したり、鋭角な形状の部分が白化したりするなど、さまざまな問題が発生しました。表皮を内装部品に貼り込む工程は、仕入先となる会社様に担当していただくのですが、協力を得ながら、現地現物で試作を繰り返しました。」
山本たちは、表皮となる合成皮革の繊維に着目し、編み込みの強度を緩めたり、糸の太さを変えたりして表皮自体に伸縮性を持たせることで、シワや白化が発生しない最適なポイントを探った。同時にデザインチームからも協力を得て、シワが発生するダッシュボードの曲率を、奇麗な意匠をキープしながら緩やかにしてもらうなどのトライアルを繰り返し、安定的に品質を担保できるような形状に調整したという。そうした地道な作業によって、深い陰影が印象的な赤い表皮を用いたアシンメトリーな内装色が実現したのだ。
山本:「従来のクラウンは年齢層が高い方が乗るイメージでしたが、クラウン・スポーツの内装を初めて目にしたときに、若い男性や女性にとっても魅力的な意匠だと感じました。この赤い表皮のアシンメトリーな内装をなんとしても形にして、お客様にお届けしたいとの想いで開発に取り組んできました。お客様にタイムリーに商品をご提供すべく、開発期間にこだわり、チャレンジングな業務を推進したことにより、自身の成長にもつながりましたし、実現できて本当に安心しました。」
驚くのは、デザイナーの小林も、内装設計の山本も入社5年目であり、新型車のプロジェクトを担当するのは今回が初めてということだ。そんな若手でもチャレンジができる空気が、現在のクルマづくりの現場にはあると、2人は口を揃える。
小林:「トヨタ車のなかでも歴史があるクラウンということで、保守的にもなりかねないのですが、もっと新しいことに挑戦していこうという意識が部署を問わずあって、私たちのような若手でもチャレンジがしやすいと感じています。」
山本:「クラウンのプロジェクトチームは、ワンチームとして一体感があるんです。業務の効率化を図りながらよりいいクルマをつくるために、一緒に力を合わせてさまざまな困難に挑戦していこうという想いを、部署を越えて共有できているからだと思います。」
後編では、「走って」“WOW”を目指してこだわった「上質でありながらもワクワクするような俊敏な走り」を実現すべく力を合わせたシャシー設計エンジニアと評価ドライバーの挑戦をピックアップしてご紹介する。さらに車両全体の開発とりまとめを務めた本間裕二への取材を通して、クラウン・スポーツにおける「革新と挑戦」について掘り下げていく。
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