■競技専用タイヤには、何故溝がないのか?
街中で見かけるくるまやバイクに付いているタイヤをよく見ると、ただの黒い塊ではなく、模様のように溝が入っています。
しなくて良くなった? やっぱり必要? 新車納車後の「ならし運転」
この溝はただの模様ではなく、どんな天候や状況でも、車両が安定して走れるように開発された、タイヤの性能を上げるための技術のひとつなのですが、この溝が一切入っていないタイヤが存在します。それが「スリックタイヤ」と呼ばれる、ロードレースに使用される競技専用タイヤです。
ではなぜ、レース用のタイヤには溝が必要ないのか? 溝がないと聞くとツルツル滑ってしまい逆に危険なのでは?
と思いがちですが、溝がない分、路面とタイヤの接地面積が広くなり、逆に路面とのグリップ(路面を掴む力)が上がるという仕組みになっているのです。
グリップの仕組みを簡単にいうと、路面と接地したときに起こる摩擦熱によってタイヤの表面を溶かし、路面とタイヤがくっつく、とイメージするとわかりやすいかと思います。
そもそもタイヤの溝は、雨の日など路面とタイヤの間に貯まる水を排出することが基本的な役割となっているので、短い時間で争われ雨の心配がないレースでは溝が必要ないということになります。ちなみに、雨の日には、溝が入ったレース専用のレインタイヤが用意されています。
世界最高峰の2輪ロードレースMotoGPにてレースタイヤの開発に携わってきた、ブリヂストンタイヤの山田宏さんによると「普段よりも速い速度域で走るレースでは、溝があることでタイヤの劣化が早く進んでしまうというデメリットもあります。溝の縁が熱や摩擦によって、よれてちぎれてしまったりすることから起こる現象なのですが、レース専用タイヤには速く走ることに加えて、レース速度で決められた周回数を走りきるためにも、タイヤのライフ(寿命)を持たせることも重要になってくるので、溝がある必要性がないんです」と、スリックタイヤに溝がないもうひとつの理由を教えてくれました。
■一般道でスリックタイヤは使えない?
だったら一般道でもスリックタイヤを履いた方が安全なのでは? と思うかもしれませんが、道路運送車両法によって、滑り止めの付いていないタイヤ=溝のないスリックタイヤを使用すると違法になります。
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(国土交通省告示第619号)によると、「接地部は滑り止めを施したものであり、滑り止めの溝(最高速度 40km/h未満の自動車、最高速度40km/h未満の自動車に牽引される被牽引自動車、大型特殊自動車及び大型特殊自動車に牽引される被牽引自動車に備えるものを除く)は、タイヤの接地部の全幅(タイヤの周方向に対してほぼ直角に溝を刻むラグ型タイヤは、タイヤの接地部の中心線にそれぞれ全幅の4分の1)にわたり滑り止めのために施されている凹部(タイヤの細かい切れ込みサイピング、タイヤ交換時期の目安となるプラットフォーム及びウエア・インジケータ部分を除く)のいずれの部分においても1.6mm(二輪自動車及び側車付二輪自動車に備えるものにあっては、0.8mm)以上の深さを有すること」とあります。
簡単に言うと、タイヤの路面に接地する4分の1以上の部分に、規定の深さの溝(滑り止め)が入っていないタイヤを使ってはいけません、ということなのです。
さらに、タイヤのグリップ力は熱によってもたらされるものなので、一般道のように信号や交差点などで停止したり、目的地に駐車している間にタイヤが冷えてしまうと、その効果が激減して逆に滑りやすくなることも。
そのため、スリックタイヤを使用するレースでは、そのグリップ力を効果的に発揮させるために、スタート直前までタイヤを温め、最初からタイヤに熱を持たせて使用しています。
自家用車で走る前にいちいちタイヤウォーマー(タイヤを温める装置)を巻いて暖める手間なんてかけません。逆にレースでは走り出してしまえば、停まることはまずあり得ません。
つまり、スリックタイヤは舗装された路面で最大の威力を発揮するように作られたタイヤ、ということなのです。
世界最高峰のバイクロードレースのトップライダーたちは、今や、膝どころか肘までも擦る程の深いバンク角(倒れる角度)でコーナーを走り抜けて行きます。
もうこれは転んでいるんじゃないか? と思わせる程の角度でも、転ばずに速く走ることができるのは、グリップ力の高いスリックタイヤだからこそのなせる技、ということなのです。
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