4気筒エンジンのプラグイン・ハイブリッド
25年前、現在のメルセデスAMGはCクラスにV8エンジンを押し込み、唯一無二の中型スーパーサルーンを創出した。W202型のC 43 AMGが姿を表したのは1997年。メルセデス・ベンツの傘下に入り、自社工場で生産された初めてのAMGだった。
【画像】PHEV化で失ったV8 メルセデスAMG C 63 S Eパフォーマンス 強豪モデルと比較 全106枚
V8エンジンを積んだCクラスが生み出されなければ、現在のような成功をAMGが掴むことはなかったのではないかと筆者は思う。それから四半世紀が過ぎ、新たな1ページが始まった。もはや、この類まれな組み合わせは帰ってこない。
メルセデス・ベンツの上層部は、大排気量のCクラスが時代遅れになると危惧したのかもしれない。メーカー平均でのCO2排出量を改善することも、念頭にはあったはず。
AMGが新型C 63 S Eパフォーマンスへ採用したのは、2.0Lの4気筒エンジンとプラグイン・ハイブリッド(PHEV)。比較的小さなボディに大きなV8エンジンというパッケージングこそ、特別感を醸し出していた核心だったのだが。
販売台数の少ない大型モデルなら、今後もしばらくV8エンジンを登用する余地がある。ハイブリッド化することで効率を改善しつつ、付加価値を高めて価格を上昇させ、利益率も保てるだろう。しかしCクラスは台数が多すぎ、継続は難しかったようだ。
近年の欧州市場では定番化しつつある、喜ばしくないスパイラルだ。その結果を体験すれば、ドライバーズカーとして影響の大きさを実感せずにはいられない。いささかネタバレではあるが、何かが欠けているように物足りなさが漂っていた。
四輪駆動と四輪操舵システムも搭載
新しいC 63 S Eパフォーマンスには、失ったV8エンジンの穴を埋めるべく、AMGが準備できるあらゆる技術が盛り込まれている。パワートレインにも、シャシーにも。しかし完璧にはカバーできていない。
印象はどこか蛋白で無愛想。AMGらしい、情熱のようなものが薄いのだ。
現実世界では、スポーツサルーン存続のための選択肢が限られていることは間違いない。リスクを負いながら、モデル自体の消滅を防いだことは称賛すべきだと考える。だとしても、導かれた答えは正解だったのだろうか。
さて、C 63 S Eパフォーマンスに搭載されるエンジンは、M139型と呼ばれる2.0L直列4気筒ターボガソリンの最新版。AMGのモデルでは、Aクラスに横置きされているユニットと基本的には共通する。
AMGとして必要なパワーを得るため、ターボチャージャーは大型化された。さらにターボラグを最小に留めるため、電圧400Vで稼働するモーターによってタービンの回転が維持されるという。
その結果、最高出力は475ps、最大トルクは55.4kg-mを達成している。牛乳パック2本ぶんの排気量で。これを受け止めるのは、スピードシフトMCTと呼ばれる9速AT。トルクベクタリング機能付きの四輪駆動で、リアにはリミテッドスリップ・デフも付く。
C 63 S Eパフォーマンスは、初めて四輪駆動システムを搭載したAMGのCクラスになった。4気筒エンジンを積むのも初めてではある。四輪操舵システムも搭載する。これ以上、必要な技術は思い浮かばない。
独自開発のバッテリーは高密度で高性能
PHEVだから、駆動用モーターも1基搭載する。9速ATとは別の2速ATと組み合わされ、リア・ディファレンシャルを直接動かす、P3パフォーマンス・ハイブリッドと呼ばれる独自のシステムを採用している。
これは、メルセデスAMG GT 63 SやS 63 E パフォーマンスが積むモノと、基本的には同じシステムになる。駆動用モーターの最高出力は203psで、最大トルクは32.5kg-mもある。
駆動用モーター単体でも軽くはないCクラスを動かせる力があり、実際に最長で約13kmを電気の力だけで走れる。PHEVとしては短い距離だけれど。
駆動用バッテリーは、メルセデスAMGが独自開発している。容量は6.1kWhとさほど大きくはないものの、高いエネルギー密度を実現しており、走行中の温度も厳密に管理される。エネルギーの放出能力が高く、短時間での充電も可能としている。
合計560本の円柱形のセルで構成され、駆動用バッテリー単体の重量は80kgに抑えられた。冷却用として、30Lものクーラントが血液のように循環するという。ちなみに、S 63 E パフォーマンスの蓄電容量はこの2倍ある。
予習はこのくらいにして、C 63 S Eパフォーマンスの試乗へ移ろう。今回はサーキットと一般道での走行となったが、ダイレクトで刺激的だった先代との個性の違いを体感することになった。
この続きは後編にて。
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