■「ぶつからないクルマ」を機に広まった「自動ブレーキ」
数年前、テレビCMで『ぶつからないクルマ』という名称が出てきたことに、多くの方がビックリしたと思います。有名タレントが実際にハンドルを握り、障害物の直前でくるまが自動的に急ブレーキをかける、というストーリーです。
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しかも、キャッチコピーで『ぶつからない』と言い切ってしまったことに、一般ユーザーのみならず、自動車業界関係者も『そこまで言っちゃって、本当に大丈夫なのスバルさん?』という不安と驚きを抱きました。
普通なら、『ぶつかりにくいクルマ』程度に抑えるところでしょうが、スバルとしては自社でコツコツと開発してきた“虎の子”を一気に普及させるためには、思い切ったマーケティング戦略が必然だったのだと予想できます。
「アイサイト」が登場した頃、スバルは北米市場重視の経営方針を打ち出しており、スバルブランドとして大きな転換期にあったことも、「アイサイト」の過激CM実現を後押ししました。
実際、「アイサイト」導入でスバルの中核商品である「インプレッサ」と「レガシィ」の販売が増加。これまでスバル車に乗ったことがない、若い主婦層や高齢ドライバーが『自動ブレーキがあると安全だ』と、スバル車を買ったのです。このような背景によって、世の中では『自動ブレーキ』という名称が広まります。
「アイサイト」がビジネスとして成功したことで、スバル以外のカーディーラーには『おたくのくるまは、自動ブレーキがついているの?』という問い合わせが増加しました。
そうした声を受けて、トヨタをはじめとした各社は、新車価格が高くないモデルでも自動ブレーキの標準装備化を進めていきます。
海外ブランドでは、メルセデスやBMW、国内ブランドでも高級車の一部では、自動ブレーキを装備するモデルがありましたが、大衆向けのモデルまで採用枠を広げていきました。
最初は、赤外線やレーザーなどを使って障害物の位置を認識するシステムが主流で、「アイサイト」のようなカメラを使ったシステムは珍しい存在。数十cmの間隔でふたつのカメラを配置して、人間の目のように、障害物までの距離を計測する仕組みとなります。
ただし、赤外線がレーザーに比べてカメラシステムの価格が高いのが課題でしたが、そうした常識を崩したのが、イスラエルの企業です。
ひとつのカメラで、障害物までの距離を正確に判定し、さらに歩行者や対向車などの動きを正確に把握することができるシステム。こうした技術を、画像認識と呼びます。
この分野で世界をリードしているのが、イスラエルのエルサレムに本社があるモービルアイ社です。現在は、アメリカの大手半導体メーカー・インテルの子会社になりました。
モービルアイは、画像認識の技術に特化して、半導体の設計を行う企業です。この半導体を、アメリカと欧州の大手自動車部品メーカーが採用。さらに、それらが自動車メーカーに供給されます。
当初は、ボルボやGMなど欧米メーカーが採用し、その後、日本のメーカーでは日産やマツダがモービルアイの技術を使っているのです。
■世界に広がる「自動ブレーキ」、義務化へ
モービルアイの技術は、自動ブレーキだけではなく、自動で車線変更する自動操舵システムなど、自動運転への分野へ直結。そのため、日産は『自動運転技術を活用した』という枕言葉を使って、運転支援システムの「プロパイロット」のテレビCMを始めました。
このように、スバルの「アイサイト」が市場を切り開き、モービルアイが世界的に普及させた自動ブレーキ。 日本では、軽自動車にまで標準装備されるようになります。
当初は、赤外線を使った比較的安価な装備でしたが、日本メーカーのカメラをひとつ装着したシステムが一般化してきました。
ホンダは、軽自動車の「N-BOX」にて、走行中の前車に自動追従する機能を含む自動ブレーキを標準装備。これが、「N-BOX」人気の大きな要素です。
ホンダに限らず、最近の自動ブレーキは、走行中に前方の危険を認識して減速、または完全停止するだけではなく、アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置も、自動ブレーキの仲間といえます。
コンビニの駐車場に前向きに駐車していて、誤ってアクセルを大きく踏み込んでも、カメラやレーザーが障害物を感知して、エンジンの回転数を制御するシステムです。
国際連合の欧州委員会は2019年2月、日本やEUなど参加40ヵ国で販売する新車で自動ブレーキ装着を義務化することを決めました。早ければ2020年からの実施を目指します。
日本ではすでに、軽自動車を含めて新車の約7割に自動ブレーキ機能が搭載され、今後はさらに普及が進むことは間違いありません。
また、『自動ブレーキ』という表現について、ユーザーが走行中の安全について過度な期待をするとして、国土交通省は「広告などで活用する際は十分な配慮が必要」との見解を示しています。
このように、ユーザーへの理解や認知に一役買った『自動ブレーキ』ですが、過信し過ぎてしまうというデメリットも出てきているようです。
今後もさらに進化した技術が登場するなかで、ユーザーにわかりやすく、誤解されないような宣伝方法が期待されます。 【了】
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