軽自動車販売比率が40%の大台に
text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)
【画像】最近、どのクルマが売れている? 2021年4月の売れ筋ベスト5【登録車/軽】 全100枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
2021年4月(単月)の国内新車販売状況を見て驚いた。軽自動車の販売比率が40%に達したからだ。
最近の新車販売では、軽自動車の比率が37%前後と高めに推移してきたが、2021年4月には遂に40%の大台に乗った。
これに伴ってメーカー別の国内新車販売台数ランキングにも変動が生じている。
1位:トヨタ、2位:スズキ、3位:ダイハツ、4位:ホンダ、5位:日産と続く。
1位のトヨタは昔から変わらないが、2位のスズキ、3位のダイハツは新しい動向だ。
両社とも軽自動車を中心に扱うメーカーだから、軽自動車販売比率の40%達成とも合致する。
ちなみに2019年(暦年)は、2位がホンダ、3位はスズキ、4位はダイハツという順番だった。
それが2020年になると、スズキが2位に浮上してホンダは3位に下がり、2021年にはダイハツにも抜かれて4位となった。
もともと近年の国内販売では軽自動車が勢力を強めており、2020年の終盤から2021年に掛けてはこの傾向が一層強まった。
2020年4月のメーカー別販売台数を見ると、トヨタは11万9524台に達するが、2位のスズキは5万3645台だから半数以下だ。
1位と2位の差はきわめて大きい。
そして3位のダイハツは4万8290台、4位のホンダは4万7820台だ。2位から4位は僅差になる。5位の日産は2万8341台だから再び差が開いた。
ホンダが伸び悩んで4位まで下がった理由は何か?
ホンダ、売れ筋のモデルが限られた
ホンダ車の売れ行きを車種別に見ると、主力のフィットは2020年4月の登録台数が前年の37%に留まった。
販売店に尋ねると以下のように返答された。
「最近は半導体の不足で、フィットなどの納期が延びて登録が滞っています。ディーラーオプションのETCユニットなどが遅れることもあります」
「また4月には新型のヴェゼルが発売されて受注は好調ですが、納車はまだ本格化していません」
これらの事情が重なって、ホンダはスズキやダイハツに抜かれた。
またホンダでは従来以上に軽自動車比率が高まった。2021年4月には、国内で新車として売られたホンダ車の57%を軽自動車が占めている。
フルモデルチェンジしたNワンの届け出台数は2488台と少ないが、それでも以前に比べれば多く、ホンダの軽自動車比率を60%近くまで押し上げた。
軽自動車の販売台数に、フィットとフリードの登録台数を加えると、国内で2021年4月に販売されたホンダ車の75%に達する。納車が開始されたヴェゼルまで加えると83%だ。
つまり今のホンダの国内販売は、少数の軽自動車とコンパクトな車種が支えている。そのためにオデッセイ、CR-V、シビック、インサイト、アコードなどの存在感と売れ行きは低調だ。
これらの低迷がホンダ全体の売れ行きに影響を与えた。
日産、新型モデルの投入が大幅に滞る
日産については、2007年頃までの国内販売は、トヨタに次ぐ2位だった。
それが2008年にリーマンショックによる世界的な経済不況が発生して、新型車の開発も凍結された。
この影響で2011年以降の日産では、国内に向けた新型車の投入が大幅に滞っている。新型車の発売は1~2年に1車種程度になり、売れ行きも急速に下がった。
そのために2014年以降の日産の国内販売ランキングは、5位で落ち着いている。
2010年の国内販売台数は64万5320台であったが、2020年は46万8518台だから10年前の73%に留まる。
新型車が減り、設計の古い車種が増えると、売れ行きが急降下するのは当然だ。
ホンダの売れ行きが下がり日産の低迷も続く一方で、スズキとダイハツには、メーカーの販売ランキング順位を浮上させる理由があった。
スズキは隙間を突いて入り込みやすい
トヨタに次いで2位のスズキでは、小型車を安定的に売るようになったことが利いている。
スズキの2010年における小型/普通車の登録台数は6万3583台だったが、2020年はコロナ禍の影響を受けながらも1.7倍の10万7247台に達した。
スズキが小型/普通車に力を入れる背景には、軽自動車市場の先行き不安がある。
軽自動車税は、自家用乗用車であれば以前は年額7200円だったが、今は1万800円に増税された。
その一方で自動車税は下がり、排気量1000cc以下の車種は、2万9500円から2万5000円に値下げされている。
加えて軽自動車市場では、スズキとダイハツの販売合戦が激しさを増して、収益確保という意味ではマイナスの効果も生じ始めている。
前述の通りホンダの国内販売では、軽自動車比率が60%に近付き、日産も安定的に40%を超える。
各社が軽自動車に群がっている状況だから、スズキは逆に小型車に力を入れる。
ホンダや日産が軽自動車の売れ行きを伸ばした結果、小型/普通車市場では、トヨタが50%以上のシェアを握る。
2021年4月は、レクサスを含めると57%に達した。小型/普通車では、トヨタだけが圧倒的な売れ行きを誇るから、スズキは隙間を突いて入り込みやすい。
特にソリオは、全長が短くて背の高いスライドドアを備えたコンパクトカーだから、ライバル車はトヨタのルーミーとその姉妹車だけだ。
両車を比べると、後席の座り心地、走行性能、乗り心地などの商品力はソリオが圧倒的に優れているから、販売力は弱くても堅調に売れている。
また主力の軽自動車も、2019年末にハスラーがフルモデルチェンジし、スペーシアはSUV風のギアを加えて販売は好調だ。
ジムニーは大量に売れる商品ではないが、2021年には1か月平均で4000台以上を届け出している。
ワゴンRやアルトも含め、スズキは複数の商品をバランス良く販売することで、したたかに2位の座を獲得した。
ダイハツ小型/普通車 5年前の34倍
ダイハツはスズキほど小型/普通車の登録台数は多くないが、それでも以前に比べれば急増した。
2015年に国内で登録されたダイハツの小型/普通車は、1年間にわずか1654台であったが、2020年は5万6169台だ。5年前の34倍に達する。
スズキと同様の理由で、小型車の売れ行きを増やした。
またタントは、2019年に登場した主力車種としては販売が不調ながら、ムーヴキャンバスが堅調に売れて需要の下降を抑えている。
その結果、ダイハツは国内販売では僅差ながらホンダを抜いて3位に浮上した。
ただし軽自動車、将来的に油断できぬ
今後は各メーカーとも、環境対応で電動車(ハイブリッドを含む)の普及を進める。
日産も2030年代の早い段階で、すべての車種を電動化する方針を打ち出した。
そうなると環境対応の開発コストが高まり、自動運転技術などにも多額の投資が必要だから、従来に比べると新型車への開発投資は減る。
特に電動機能を備えない純粋なエンジン車は大幅に少なくなる。直近の国内販売では、この隙間を突いて、軽自動車がさらに伸びる余地がある。
ただしそのさらに先を見通すと、価格を抑える必要のある軽自動車では電動化が難しい。
軽自動車が成立しなくなって消滅すれば、安価なクルマも失われ、公共の交通機関が未発達な地域ではライフラインに支障を来たしてしまう。
軽自動車の販売比率が40%に達して、国内販売ランキングの2位がスズキ、3位はダイハツという状況は、今後直近の売れ方を先取りしたものといえるだろう。
メーカーは今のうちにマイルドハイブリッドの発展型など、軽自動車の価格に見合った高効率な電動化技術を磨き、将来の燃費規制に対応する必要がある。
軽自動車では、国産メーカーが全社共同で電動技術を開発して、量産効果を得るといった対策も必要になりそうだ。
今はトヨタがダイハツの親会社になり、スズキとも提携しているから、連携を図りやすい。
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商品力についてここまではっきり本当のことを書いてくれてる記事を初めて見たわ。