後輪を操舵する4WSが、クルマのキャラクターをここまで変えてしまうのに心底驚いた。それが、ランボルギーニ「ウラカンEVO」を操って、生まれて初めてのパワードリフトを体験した私の、偽らざる心境である。
4WSでよく知られている機能のひとつは、小まわり性がよくなる点だ。狭い道での切り返しや車庫入れの際には、これがとても役立つ。ただし、近年スポーツカーメーカーが熱心に4WSを採り入れているのは、高速域でのリアグリップを高めるのが主な目的である。
4WSの難しい話をギューっと要約すると、コーナーの曲がっていく方向に後輪も少しだけ操舵してあげると、リアタイヤの横グリップが高まってコーナリングが安定する、となる。ウラカンEVOも、この原理を使ってコーナーリング性能を高めているのだけれど、それだけではない。ときには、4WSを使ってわざと不安定な状態も作り出しているのだ。
ご存じのとおり、ドリフトとは後輪が横滑りしている状態。言い換えれば、タイヤの横グリップが不足している状態でもある。でも、プロフェッショナルドライバーでないわれわれには、この状態を作り出すのが難しい。そこでウラカンEVOはコーナーの入り口などで「ドライバーがドリフトしたがっている」と、判断した場合、4WSを通常とは逆向きに使ってリアタイヤの横滑りを意図的に引き出してくれる。
ただし、リアタイヤのグリップが低いままだと簡単にスピンしてしまうので、ドリフトが始まったらリアタイヤがほどよいグリップを生み出すように4WSを調整。安定したドリフト状態を作り出すお手伝いをしてくれるのだ。
とはいえ、「ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ」(LDVI)という名称の制御系がそんな緻密なコントロールをおこなっているなど、ドライバーはまったく気づかないはず。そのくらいLDVIはスムーズに、そして自然にドリフトの態勢を作り出してくれるのだ。多くのドライバーが「なんかオレって急に運転が上手くなった?」と錯覚するほど、その作動は見事なものである。
その秘密は、LDVIに採用されたフィードフォワード制御にある。一般的な制御方式はフィードバックと呼ばれる。いま起きていること、過去に起きたことを次の制御に反映させるのがフィードバック。「お客様の声をフィードバックしました」と、メーカーが喧伝するときに使うのと同じ考え方だ。
では、フィードフォワードとはなにか? といえば、なにかが起きる前に、次に起こることを予想して制御をおこなう。フィードバックが過去形だとしたらフィードフォワードは未来形といってもいいだろう。
もっとも、現在の自動車に未来を予想するのは不可能。では、ウラカンEVOの場合はどうしているかといえば、ドライバーの操作を検知し、ここからクルマが次にどのような状況に陥るかを予測。これを判断材料として4WS、4WD、スタビリティ・コントロール、トルクベクタリングなどをコントロールしているのだ。
たとえば高速コーナーの進入で、ドライバーがブレーキングを残しながら強めにステアリングを切ると、ウラカンEVOはドライバーが「ドリフトしたがっている」と、判断。4WSを瞬間的に逆位相に振ってリアタイヤのグリップを落としてドリフトの態勢を作り出す。そのあとも、ドライバーがカウンターステアを当てていれば、ドリフトの態勢ができるだけ長く続くように後輪操舵量や前後のトルク配分などを自動的に調整してくれるのである。
前置きがかなり長くなったが、ウラカンのマイナーチェンジ版であるウラカンEVOの国際試乗会はF1バーレンGPの会場でもある「バーレーン・インターナショナル・サーキット」で開催された。
まずは、ランボルギーニの走行モード切り替えシステム「ANIMA」で、一般公道走行用の“ストラーダ”を選び、コースを走り出す。クルマの安定感や扱いやすさはこれまでのウラカンとほぼ同様だ。
従来型ウラカンよりも最高出力が30ps増して640psとなったV型10気筒 5.2リッター自然吸気エンジンは、ウラカン・ペルフォルマンテから移植されたもの。「高回転まで気持ちよくまわるなぁ」と、思いつつもパワーアップの恩恵をとくに意識することもなく、インストラクターの後を追ってコースを周回する。
ただし、コーナリングスピードがすでに限界に近づいているらしく、「安定・安全第1」のストラーダ・モードでは、コーナーの脱出でエンジン出力が絞られ、前を行くインストラクターとの間隔は広がるいっぽう。そこで私は躊躇うことなくANIMAをスポーツ走行用である“スポルト”に切り替えた。
このスポルトこそ、前述したパワードリフトを存分に楽しめるセッティングである。するとコーナー進入でハードブレーキングを試みただけでリアタイヤがむずがり始める。そこで、ていねいにステアリングを切り込めば、リアタイヤがまさにほどよいスピードでアウト側に流れてくれるではないか! これに歩調をあわせるようにして、カウンターステアをあてるとともに、それまでブレーキペダルをコントロールしていた右足をスロットルペダルに踏み換えてリアタイヤにパワーを“継ぎ足して”やれば、ドリフト状態のままクルマが前進するパワードリフトが作り出せる。それも、瞬間芸ではなく、かなり息の長いパワードリフトだ。
何度も書くが、瞬間的なカウンターステアならまだしも、スロットルでパワーを補いながらドリフト状態を長く保ったのは私にとって初めての体験。それをウラカンという正真正銘のスーパースポーツカーで味わえたのだから、その喜びと達成感はまさに筆舌に尽くしがたいものだった。
もっとも、サーキット走行を楽しむならドリフトだけがすべてではない。プロのレーシングドライバーが予選アタックのときにするような、リアタイヤのスライドを最小限に抑え、グングンと前にクルマを進ませていく走りが味わえるのも、醍醐味のひとつである。もし、こういった走りをウラカンEVOで楽しみたいなら、前述のANIMAでサーキット走行用の“コルサ”を選べばいい。すると、4WSがリアのグリップを最大限に引き出すよう制御。ドリフトを最小限に抑えた“ラップタイム重視”のドライビングを堪能できる。
つまり、ウラカンEVOはANIMAをストラーダ、スポルト、コルサと切り替えると、まったく表情を変えてしまうスーパースポーツカーなのである。そしてまた、大きな役割を演じているのが4WSだ。しかも、スタビリティを高めるだけでなく、あえて下げるためにも利用したのがランボルギーニ技術陣の革新的なところ。くわえて、ウラカンがもともと持つ4WDや基本バランスの良さを活かし、ウラカンEVOは完成した。
正直、私とおなじくらいのスキルを持つドライバーがサーキットでスーパースポーツカーを振りまわしたいのなら、ウラカンEVOを上まわるクルマはほかにないだろう、と思うのであった。
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