絶版から20年以上たっても、まったく色褪せず、思い出すと胸が熱くなるクルマがある。スバルアルシオーネSVXはその代表的な一台といえるだろう。3.3L水平対向6気筒エンジンを搭載し、「グラスtoグラスのキャノピー」と呼ばれた特徴的なルーフを持つ2ドアクーペ。
どれほど望んでも、もうこうしたクルマが世に出ることは難しいだろう。
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そんなアルシオーネSVX、どのような経緯でデビューすることになったのか。デビュー直後も、現在のように「名車だ」と評価されていたのか。当時を知る自動車ジャーナリストの片岡英明氏に伺いました。
文/片岡英明 写真/SUBARU
【画像ギャラリー】絶版から20年以上たつ今も多くのファンがいるスバルアルシオーネSVX
■大改革から生まれた新しい価値観を持つレガシィ
スバルといえば、優れた回転バランスの水平対向エンジンを積み、駆動方式は走るステージに関わらず高いトラクション能力を発揮するフルタイム4WD(AWD)というイメージが強い。
その存在が多くの人に知られるのはレオーネ4WDツーリングワゴン(1981年登場)からだった。
レオーネ4WDツーリングワゴン
だが、レオーネでは世界と戦えないし、「時代に取り残される」と考える社員も少なくなかった。1985年に社長に就任した田島敏弘氏は、この意見に賛意を示し、スバルの大改革に乗り出している。
栃木県の葛生にスバル研究実験センターを開設するとともに、近代的なテストコースを建設。また、デザインの重要性を説き、お膝元の群馬県太田市にデザインセンター新館を建設した。
東京の青山にはスバルデザイン東京別室を開設している。北米市場の伸長に向けて生産工場のSIAも設立した。この改革運動から生まれたのが、新しい価値観を持つレガシィであり、アルシオーネSVXだ。
■1991年秋発売「アルシオーネSVX」誕生のきっかけ
この2車の誕生には、イタルデザインを率いるジョルジェット・ジウジアーロが深く関わっている。
1985年10月、ジウジアーロは東京モーターショーの開催に合わせて来日した。この機を捉え、スバルのデザイナーなどはジウジアーロと接触し、デザイン契約を結んだのである。デザインを依頼したのは、「コードネーム44B」と呼ばれ、1989年1月にデビューを飾るレガシィの4ドアセダンだ。
初代レガシィセダン
だが、このデザインプロジェクトには続きがあった。
レガシィのデザインスケッチを依頼したときに、ジウジアーロから第2世代のアルシオーネのデザイン提案を持ちかけられたのだ。そこで初代レガシィとセットでデザインを依頼し、4WDスペシャルティカーの開発を並行して進めることにした。
いうまでもないが、このスポーツクーペが1991年秋に発売され、センセーションを巻き起こす「アルシオーネSVX」だ。
■デザインのベースとしたのは初代アルシオーネ
田島敏弘社長は、スバルのエンジニアに高価格帯のクルマを開発させようと意欲を燃やし、叱咤激励している。
このスバル社内の意識改革から生まれたのがレガシィであり、アルシオーネSVXだ。
両車ともプラットフォームやサスペンションを新設計しただけでなく、パワートレインもゼロから設計している。ジウジアーロが描いたレガシィは、北米の販売サイドから「デザインがスポーティすぎて売りづらい」と反論が出た。
フォルムは、のちに登場するアリストと似ていたようだ。そこで社内デザイナーが新たにスケッチを描いている。
レガシィの開発が佳境を迎えた時、イタリアからアルシオーネSVXのモックアップが日本に届いた。
ジウジアーロがデザインしたのは、日本の小型車枠に収まる5ナンバーサイズの2ドアクーペである。これは初代アルシオーネをベースにしていたからだ。ノーズ先端にはポップアップ式のセミリトラクタブル・ヘッドライトを配していた。
■1989年秋「スバルSVX」を名乗り鮮烈デビューを飾る
パワーユニットは、レガシィに搭載するために開発された2LのEJ20型水平対向4気筒DOHC4バルブか、そのターボ仕様を想定している。
レガシィと並行して開発を進めていたが、次世代エースのレガシィの開発を最優先したため、アルシオーネSVXの開発は先送りされてしまう。
レガシィの量産化のメドが立ち、アルシオーネSVXの開発が再開されたが、バブル景気が吹き荒れたし、メイン市場は北米なので、ボディをサイズアップしている。
北米をメイン市場とし、ボディサイズをアップしている
また、北米では上質な6気筒エンジンを好む人が多いため、水平対向4気筒をベースに6気筒化に挑むことにした。そのためフロントまわりを新たにデザインし、全幅も広げている。
このプロジェクトの成果が人々の前に姿を現わすのは1989年秋だ。
フランクフルト・モーターショーで鮮烈なデビューを飾っている。そして同年10月に幕張メッセで開催された第28回東京モーターショーのスバルブースに国内初披露として展示された。
流麗なクーペボディと美しいホワイトのインテリアに
このときは「スバルSVX」を名乗り、流麗なクーペボディと美しいホワイトのインテリアを披露している。その脇には水平対向6気筒エンジンや4WDシステムなども展示された。
■上質感のあるインテリアと意のままの走りが楽しめるクルマ
それから2年後の1991年9月、アルシオーネSVXが秘密のベールを脱ぐ。
エクステリアはショーカーと大きくは変わっていない。全幅は1770mmだ。大胆なグラスtoグラスのラウンドキャノピーとスムースなガラスの昇降を実現するため、パーテーションを設けた。
また、紫外線と赤外線をカットするUVガラスを採用したグラスキャノピーからトランクリッドへと続く部分も量産するのが難しかったが、ポリエステル樹脂を使って変形させることなく美しいフォルムを実現している。傾斜の強いフロントガラスのゴムシールの開発にも長い時間を費やした。
インテリアは大人の香りが漂う上質感が売りだ。インパネからドアトリムまで流れるような一体デザインとし、逆L字型のメーターパネルを組み込んでいる。サイドウインドーは割り切り、開口面積は小さい。
クオリティの高さはそれまでのスバルとは比べ物にならない。上級グレードのバージョンLはレザーシートを標準装備した。
全幅は1770mmのクーペにもかかわらず、意のままの走りを楽しめた
エンジンはEG33と名付けられた3318ccの水平対向6気筒DOHCだ。最初はEJ20型エンジンを6気筒化した3Lエンジンを開発していたが、もう少し余裕が欲しいと要望が出たため、途中で排気量を10%引き上げて3.3Lとした。
最高出力は240ps/6000rpm、最大トルクは31.5kg-m/4800rpmだ。トランスミッションは電子制御4速ATだけの設定としている。
サスペンションは前後ともストラットだ。駆動方式はスバルが得意とする4WDだが、当時の最先端を行く不等&可変トルクスプリット配分の電子制御(VTD)4WDを採用した。センターデフに加え、電子制御LSDを装備し、前後輪のトルク配分を自在にコントロールできる。
ハンドリングは軽やかで、スタビリティ能力も高い。
また、バージョンLは4輪操舵の4WSも装備するから、狙ったラインにピタリと乗せることが可能だった。4WDであることを忘れさせるほどコントローラブルで、このサイズのクーペにもかかわらず、意のままの走りを楽しめた。
■今も根強いファンを持つ稀代の名車‼
アルシオーネSVXは、エンジニアの情熱が伝わってくる魅力的なスペシャルティカーだった。
だが、バブルが弾け、スポーツクーペのブームもさったので販売は伸び悩んだ。また、当時スバルの販売店は高級スペシャルティカーのユーザー層と縁遠かったこともあり、車両価格400万円に近かったアルシオーネSVXの販売に苦労した。
こうした事情もあって、1997年に生産を終了した時点で、この美しいスペシャルティカーの国内販売は累計6000台に届いていない。
1997年に生産を終了 この時点で国内販売は累計6000台に届いていない...
頼みの綱だった北米市場でも保険料が高騰したため、販売は2万台弱にとどまった。
だが、アルシオーネSVXの価値と魅力は、21世紀の今になるとよく分かる。バブルに翻弄され、つまずいた。だが、いまも根強いファンはその車名を胸に抱き、思い出を語っている。こうしたクルマはそう多くない。稀代の名車と言えるだろう。
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みんなのコメント
お盆で叔父が帰ってくるなり、爺さんと親父が
「バカ!外車なんか乗ったらいかん!ご近所に見つかる前に車庫にかくせ!」と騒いでた(笑)
クーペってカッコいい!GTってカッコいい!と感じた思い出のクルマです。