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テクノロジーによる快楽の追求──新型メルセデス・ベンツS400d 4マチック試乗記

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テクノロジーによる快楽の追求──新型メルセデス・ベンツS400d 4マチック試乗記

フルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツの新型「Sクラス」のディーゼルモデルに今尾直樹が試乗した。

新型にふさわしいインテリア

超絶スペックでも平穏な日常が過ごせる

新型車に乗るたびにたまげる私ですけれど、新型Sクラスには本当にたまげた。これぞ「ラグジュアリーの再定義」。あるいは、「Human-centered Innovations(人間中心の革新)」。前者はプレスリリース、後者はカタログにあることばだけれど、う~む、感服つかまつった。

正式に「Sクラス」と命名された1972年誕生の初代(116シリーズ)以来、メルセデス・ベンツの旗艦は、つねに人間中心の革新によってラグジュアリーを再定義する存在だった。

とはいえ、それがこんなにわかりやすいかたちで提示されたことは、少なくとも筆者が知る1980年代半ば以降、初めてではあるまいか。以下、国内仕様のベーシック・モデルたるS400 d 4マチックに試乗したので、筆者なりにドキュメンタリィの手法でもって、ご紹介したい。

それはまだ3月なのに5月を思わせるさわやかな日となるはずの朝のことだった。東京はるか郊外に住む私は、S400dの広報車を預かっているイナガキくん、拙稿の担当者宅へ向かうべく、朝5時半に自宅から徒歩3分、けっこう離れている屋外の駐車場に向かうと、がちょーん、愛車のフロント・ガラスが凍結している。ああ、なんたる。氷を溶かすスプレーをとりに家に戻るのも面倒だ。ともかくエンジンをかけ、その熱でフロントのガラスの氷が溶けるまで車内で待つ。その間、やることがないのでスマホでYouTubeを見る。最近筆者がハマっているの……。

と、ドキュメンタリィとはいえ、こんなことを書いていては、読者諸兄に呆れられるので、S400d 4マチックに乗り込む場面にワープします。

ドア・ハンドルがポップアップ式になっていることには、それほどたまげなかった。キーをもって近くづくだけで自動的に音もなく出てくるので違和感がまったくないからだ。

しかして運転席に座ると、室内全体がピンクやブルーのアンビエント・ライトで発光している。20分ほど遅刻したとはいえ、さわやかな朝の7時半頃のことである。だというのに映画『ブレードランナー』とか『ブラック・レイン』とかに出てくる夜の接待を伴うお店のような、そういう意味ではこころが弾む、ポップな雰囲気だともいえるけれど、これでは落ち着かない……。

と、思った私は、これを消してくれるようイナガキくんに頼んだ。

イナガキくんはダッシュボード中央にデンと鎮座する、異様にでっかい12.8インチの縦型有機ELの画面にタッチし、室内に標準で備わる247個のLEDライトの光量を落として、最終的にはオフにした。ミレニアル世代の彼にとって、こんなことはお茶の子さいさいだった。

ライトが消えると、ダッシュボードは落ち着いた色のウッド・パネルで覆われているのがわかった。もやが晴れたように、伝統と威厳、謹厳実直なメルセデス・ベンツSクラスの新型にふさわしいインテリアが浮かび上がってきたのだ。それを望んでいる私がいる一方、夜の雰囲気が消えていくのをさみしく見送る私もいた。夜のことは夜に。自分をそう納得させた。

静かで快適な乗り心地

新型Sクラスの国内仕様には、いまのところ、3.0リッター直列6気筒ディーゼルターボのS400dと、同ガソリンのS500の2種類があり、どちらもギアボックスは9速オートマチックで、駆動方式は4WDの4マチックとなる。本国にはS350dというRWDモデルがあるけれど、基本的に4WD化されたことが新型Sクラスの特徴のひとつとされる。

くわえて、後輪操舵システムを日本仕様では標準装備する。60km/h以下では前輪と逆方向に後輪が最大4.5°、60km/h以上では同方向に最大3°ステアし、低速では小まわりをよく、中高速では安定性を高める。これを装備するのとしないのとでは、回転半径が1m異なるという。

ボディにはこれまで通り、スタンダードとロング・ホイールベースの2種類がある。サイズ的には、スタンダード同士の比較で先代よりも54mm長く、55mm幅広い。全高は21mm低くなっているものの、室内高は1mm増えている。標準ボディで3106mmもあるホイールベースは先代より71mm延長されており、しかして居住空間は前後席ともに先代より広がっている。

ガソリンとディーゼルでは、ガソリンが上位に位置づけられており、今回のS400d 4マチックは国内のSクラスのベーシック・モデルということになる。

とはいえ、そのベーシック・モデルでさえ、こんなにウッドが使われていて、しかも試乗車は「レザーエクスクルーシブパッケージ」という66万円のオプションを装着している。これは営業マンならずともオススメのオプションで、ナッパレザーのシート表皮に、フロントはふかふかの枕がヘッドレストの手前についていて、たいへん心地よいだけでなく、ステアリングを切った反対側のシートのサイド・サポートがちょっと内側に動いて乗員の上体を支えてくれる機能や、マッサージ機能まで前席にもれなくついてくる。

ふかふかの枕は先代Sクラスにあったけれど、このふかふか具合がじつによろしい。イナガキくんちの駐車場を出てしばらく走るや、その静かなこと、乗り心地の心地よいことに、う~む、と、たまげた私は、エア・ベッドのような、いかにも心地よさげなベッドで寝たまま移動しているみたいな感覚をおぼえた。

これぞ人間研究の賜物

足まわりは、エア・サスと可変ダンパーを備える「AIRマティックサスペンション」を標準装備している。エア・ベッドという連想は、この電子制御のメカニズムからも来ている。試乗車はオプションの「AMGライン」というスポーティな仕様で、20インチのホイールを履いている。標準は18インチだから、おそらくこの試乗車よりもまろやかであるにちがいない。

さはあれど、「ダイナミックセレクト」、いわゆるドライブ・モードを「コンフォート」にして走っていると、20インチの、前255/40、後ろ285/35という極太扁平タイヤにもかかわらず、乗り心地は完璧な空調の働きもあって快適至極、繰り返しになるけれど、高級ホテルの高級ベッドに寝転んだ気分のまま、私は箱根方面へと向かった。

首都高速3号線を走っていると、太陽の光が強くなり、室内はものすごく明るくなった。開口部の大きな「パノラミックスライディングルーフ」のカーテンが開いていたからだ。これを閉じるべく、ルーフにあるスイッチを手探りに触ると、音もなくルーフが開いた。電動シートのスイッチ同様、軽くタッチするだけで反応し、押したり引いたりする必要がない。人間の労力をなくすことを新型Sクラスは徹底している。しかも電動シートにせよ、スライディング・ルーフにせよ、動き方のスムーズで静かなことは特筆に値する。

スライディング・ルーフは、およそ250個、1.6cmごとに配置されるLEDのアンビニエント・ライトなどと、「ベーシックパッケージ」という70万円のオプションで一括丸ごと装着される。

横浜から海老名あたりまで渋滞に見舞われたけれど、自動再発進機能付き運転支援システムのおかげで難なく通過し、走り始めて1時間もしたころ、「バイタライジング・プログラム」というのを「メディアディスプレイ」という名前の有機ELスクリーンが「エナジャイジング・コンフォート」のプログラムによって推奨してきた。私はこのシステムを、つい先だってメルセデスAMG E63S 4マチック+で経験し、まことにけっこうなものであると思っていた。早速、推奨に従ってスイッチをオンにすると、SクラスのこのシステムはE63用よりさらにすばらしいものだった。

どっくんどっくんどっくん。前衛的な、ビートの効いた音楽が静かに流れ、メディアディスプレイに赤い抽象画のような動画があらわれるのは同じだけれど、シートのマッサージ機能がより多様に、より動く。お尻も動く。背中も動く。バックレストの角度まで、ドライバーを驚かさない範囲で微妙に変わる。空調とも連動していて、ステキな香りも漂ってくる。アンビエント・ライトをカットしていたので未体験ながら、照明も連動するらしい。惜しいことをした。

単なるギミックのように思われるかもしれないけれど、少なくとも1回は効果がある。退屈が紛れて、元気になる。これぞ人間研究の賜物だろう。すごいこと考えたなぁ。日本式のマッサージではなくて、高級ホテルのマッサージを自動車がやってくれるのだ。

これで日本的な、お線香の香りとかも出して、禅的瞑想のプログラムをつくったりしても、シリコン・バレーのひとたちにウケるかもしれない。

ハンドリングは文句なし

箱根の山道に到着すると、ダイナミックセレクトを「スポーツ+」にして走りまわった。「スポーツ+」にしても、乗り心地はストローク感を残していて、適度なスポーティ・サルーンという感じだ。

排ガスの浄化システムに意を払った直列6気筒のディーゼル・ユニットは、2ステージ・ターボチャージャーの力を借りて、330psの最高出力を3600~4200rpmで、700Nmという分厚い最大トルクを1200~3200rpmで発揮する。ディーゼルなのに、3000rpm近辺から、ちょっと控えめに快音を発する。

車重は、フロントのシートのモーターの数だけで60個もついているなど、豪華装備なのに、2180kgにおさまっている。ボディの軽量化につとめた賜物だろう。

ハンドリングは文句なしで、思うように曲がる。後輪操舵とトルキーな3.0リッター・ディーゼル直列6気筒ターボの働きもあって、全長5mの巨体であることを忘れる。ブレーキも優秀だ。

いやぁ、これはいいです。2021年のザ・ベスト・カーだろう。1293万円、オプションを入れると1600万円ほどの車両価格のこのクルマが、安い! と、思えるのだ。ケチで、稼ぎの少ない、私のような人間にも。

試乗後、不思議と、『モダンタイムス』でチャップリンが自動食事マシンでトウモロコシとかを食べるシーンが思い浮かんだ。あれは機械文明に対する痛烈な風刺だったわけだけれど、新型Sクラスはテクノロジーが実現した、テクノロジーによる上げ膳据え膳。もしくはテクノロジーによる快楽の追求であり、あえて突っ込んで申し上げれば、夜のことを朝からしてもいい。と、主張しているようにも思える。人間、ばんざい。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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