発売以来指名買いが殺到し3年待ちとも4年待ちともいわれるランドクルーザー300を、ランクルプラド、豪州仕様の70 VXらとともに国内屈指のオフロードコース、さなげアドベンチャーフィールド(愛知県豊田市)で乗り倒した!
オフロードのイメージはないがうんちくはたっぷりの自動車評論家 鈴木直也氏の評価はいかに? 本誌から最速でその“神髄”をご紹介!
※本稿は2021年10月のものです
文/鈴木直也 写真/TOYOTA、ベストカー編集部 撮影/TOYOTA、西尾タクト
初出:『ベストカー』2021年11月26日号
[gallink]
■23度の急坂も700mmの水深も 4車種を乗り比べで進化を痛感
ランクル300の人気の秘密を考える時、やはりオフロード性能と耐久性、信頼性の高さは最重要ポイント。「究極のオフロード性能」を体感すべく、さなげアドベンチャーランドで試乗した。
試乗コースは、傾斜20度を超える登り下りをはじめ、モーグルやロックなど人工的なガレ場、そして水深70cmに達する渡渉など、かなりシビアな設定。
ランドクルーザー300 GRスポーツ(V6、3.3Lディーゼルターボ 800万円)。今回のコースはモーグルや岩や石がごろごろの登坂、そして水深700mmのウォーターセクションもある難コース
普通のオフロード試乗会だと、クルマを壊す可能性を考えてここまでハードなコース設定は用意しない。ランクル開発者の自信のほどがうかがえる
この難コースをランクル300、そのGRスポーツ、プラド(豪州仕様だが日本仕様に近い)、豪州・南アフリカ向けランクル70の4車種を乗り比べたのだが、難関だらけの厳しいコースで、新型ランクル300の進化を痛感した。
ランクル300の何が凄いって、一番感心したのはこのシビアなコンディションでの安心感だ。
最新のラダーフレームを採用したことで軽量化と高剛性を両立。E-KDSSの効果はバツグンで絶対ムリと思われる極悪路も難なく走破する
今回はクローズドコースだからいいが、どこか遠い異国のジャングルで同じことをやれと言われたら恐怖。スタックしたりクルマを壊したりしたら、本当に命にかかわる。
そんな状況下では、物理的な走破力と同じくらいハイテクによる運転支援システムがありがたいのだ。
ランドクルーザー300 AX(V6、3.5Lガソリンターボ 550万円)。E-KDSSを採用されない標準モデルだが、クロールコントロールで難コースも確実に走破
300の4WDシステムは、マルチテレインセレクトでさまざまな路面に対応してセッティングを変えられ、マニュアルでデフロックも可能だが、インストラクターによると「全部AUTOでOKです」とのこと。
元々究極だったオフロード走破性が200から300になって劇的に向上したわけではなく、進化したのは変化する路面に自動的に対応する能力。
L4に入れるだけで、ランクル300はたぶん世界中にあるオフロードの99%くらいは対応可能なんじゃないかと思う。
実際に走り出して真っ先にセットするのは、クロールコントロールだ。これをセットしておけば、アクセルにもブレーキにもいっさい触れずに登りでも下りでも時速1km~5kmを維持してくれる。
ランドクルーザープラド TZ-G(直4、2.8Lディーゼルターボ豪州仕様・日本仕様は554万3000円)。世界でランドクルーザーといえば、プラドのこと。300に比べるとコンパクトで、安心感がある
ペダル操作から解放されたドライバーはステアリングに集中できるから、ワダチや突起などでコース取りの難しい状況で、心理的負担がものすごく軽くなる。
前後のスタビライザーを独立して電子制御するE-KDSSを標準装備するGRスポーツでは最適な姿勢制御を常に行ってくれるから、ノーマルの300よりもさらに安心感が増し、走破性もアップする。
もうひとつ、「これはすげぇありがたい!」とつくづく思ったのが、マルチテレインモニターによる映像情報だ。
オフロード走行ではライン取りが重要。マルチテレインモニターなら死角をはっきり映し出す
ロックセクションでは、タイヤ1本分くらいの精度でライントレースしないと、岩に乗り上げてスタックする可能性がある。
直近の映像を高精細に映し出し、タイヤの接地ラインまで教えてくれるこのモニターを使うと、ライン取りが驚くほど容易になるのだ。
逆に、ハイテク装備をいっさい持たないランクル70では、シンプルさゆえの面白さを感じたが、「じゃ、アフリカでどっちを選ぶ」と言われたら迷わずランクル300。
ランドクルーザー70 VX(V8、4.5Lディーゼルターボ 豪州仕様)。LC76とよばれるランドクルーザー70はパートタイム4WDに前後リジッドサスのスパルタンぶり。岩のセクションではライン取りとテクニックが試される
またプラドの走破性も相当なもので、300に比べるとコンパクトなぶん安心感がある。
世界中でランクルを走らせるユーザーには、毎日シビアなコンディションの悪路を走破している人がたくさんいる。
そういう人たちにとって、ランクルは世界最高のワークホース。その事実に改めて感銘を受けた試乗だった。
今回試乗した4車種の主要諸元
■カーボンフリー時代でもランクルは不滅か?
カーボンニュートラルが叫ばれる今の時代、「耐久性と信頼性を考え、今回のランクル300では敢えて電動化を見送りました」というのはかなり勇気のいる決断だ。
先鋭化した環境運動家あたりから、「トヨタはCO2削減に後ろ向きなのでは?」とか、あらぬ因縁をつけられる可能性だってある。おそらくトヨタ内部でも葛藤があったはずだ。
この決断を後押ししたのは、世界170カ国、累計1000万台のランクルユーザーの存在だと思う。
今でこそ、プレミアムSUVとして押しも押されもせぬブランドだが、その本質は馬車馬のように働く実用車。
歴代ランクルは意図的にプレミアム化を狙ったわけではなく、ワークホースとしての信頼性/耐久性を徹底的に追求してきた結果、自然に生まれたのがランクルのブランドステイタス。これを裏切ったらランクルではなくなってしまう。
だから、電動化も慎重に進めることが求められる。ハイブリッドの本家たるトヨタだから、ランクルに搭載しても信頼性や耐久性は間違いないが、新興国では、メンテナンス面で不安もあり、壊れた時でも応急修理で帰ってこられるか、といった懸念は残る。
実は、アメリカでは新型タンドラにガソリンの3.5L V6ツインターボにモーターを追加した“i-FORCE MAX”というハイブリッドパワートレーンが発表されていて、そのままランクルにも搭載可能なはず。
3代目となったタンドラは、3.5リッターV6ツインターボエンジンに、モーターを追加したi-FORCE MAXと命名されたハイブリッドを搭載。システム最大出力は443ps、システム最大トルクは80.6kgmに達する
日本を含む先進国向けには、近い将来ハイブリッドモデルが追加される可能性は高い。
しかし、世界中ですでに“社会インフラ”と化したランクルの存在を考えた時、グローバルで電動化するのはまだしばらく先。時間をかけた対応が必要なんだと思う。
【番外コラム】RAV4のAdventureに待望の2.5Lハイブリッド追加!
アクティブなスタイリングで人気のアドベンチャーは2L NAのみのラインナップだったが、11月のマイナーチェンジでE-Fourの2.5Lハイブリッドが追加される。
悪路での走破性の高さに加え、ハイブリッドモデルなら経済性や静粛性も手に入る。
アドベンチャーに欲しかったハイブリッドが追加。マイナーチェンジによってフロントライトをLED化するなど顔つきも変わる。2.5Lハイブリッドはパワフルで雪道も強そうだ
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