2024年シーズンのF1は、前年王者であるレッドブルの優位性が崩れ、最終戦までコンストラクターズ選手権のタイトル争いが繰り広げられる1年となった。シーズン中は7人の勝者が生まれ、上位勢にはどのチームにも優勝のチャンスがあった一方、中団チームは数少ない入賞のチャンスを確実にものにしなければならず最終戦まで熾烈な争いが続いた。
そんな2024年シーズンに開発されたF1マシンを振り返るこの企画では、今回は26年ぶりにコンストラクターズ選手権のタイトルを獲得したマクラーレン・フォーミュラ1チームの『MCL38』を取り上げる。
【F1チーム代表の現場事情:マクラーレン】破綻の危機からチームを救出、ついにタイトルに導いたブラウンの歓喜の日
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■MCL38/マクラーレン・フォーミュラ1チーム
ワークス体制でのパワーユニット(PU)供給が受けられず、メルセデスのカスタマーPUを搭載するマクラーレン。かつてマクラーレンはホンダと組んだときに、ワークス体制でパワーユニットをホンダから供給できたため『サイズ・ゼロ』というアグレッシブな車体開発にこだわって、うまくいかなかった経験があった。あれから7年が経ち、2024年のマクラーレンは与えられた環境下で最善を尽くす開発でワークス勢を撃破していった。
サイドポンツーンのインテークは上面が前方に伸びたレッドブル・タイプを開幕戦から採用。ただし、レッドブルのように大きく伸ばさずにミラーとほぼ同じ位置までしか伸ばしていない。また、インテークの形状もレッドブルのように横長の薄いタイプではなく、この位置からでも開口部がハッキリと確認できるほどスクエアな形状をしているのがわかる。
フロントウイングはショートノーズで、シーズン序盤は1段目のメインフラップの中央の湾曲は緩やかなスプーン形状をしていた。
シーズン最初のメジャーアップデートは、第6戦マイアミGP。ここで投入されたフロントウイングは、メインフラップのスプーン形状がややスクエアな形状に変更。さらにアッパーフラップのデザインも一新された。このモディファイにより、それまでマクラーレンのマシンが伝統的に問題を抱えていた回り込むコーナーでの性能を改善され、ランド・ノリスのF1初優勝に大きく貢献した(写真はエミリア・ロマーニャGPで撮影したもの)。
マイアミGPのアップデートでは、サイドポンツーンのインテークの上面がミラーステイの付け根よりも前方に伸びている。また、インテークの形状が正方形から横長の長方形に変更され、サイドポンツーン下の空気の流れが改良されている。
マイアミGPでのアップデートではエンジンカウルにも改良が加えられた。序盤戦で採用されたエンジンカウルは丸い部分が大きく出っ張った碇型のような形状をしていた。
それがマイアミGPからは丸い部分がほとんどなくなり、なで肩タイプに。またサイドポンツーンの両端もなだらかになり、結果的にコクピット側との間にあった溝が浅くなっている。コーナーで舵角がついたときでもダウンフォースを安定して発生させるのが目的だと考えられる。
それ以外にもフロントサスペンションの車体側の付け根のフェアリングの角度が序盤戦までは下向きになっていた(写真上の赤矢印)のが、マイアミGPからはほぼ水平に持ち上げられている(写真下)。そのほかのサスペンションアームも1本1本すべて形状が変更されている。これにより、マクラーレンは空気抵抗が大きく改善され、フロアでのダウンフォースを維持しつつ、ストレートスピードが向上するという2024年のベストマシンへと進化していくこととなる。
じつはマクラーレンのメジャーアップデートはマイアミGPが最初で最後だった。このマイアミGPのアップデートもそれまでの開発の方向を維持しつつ、ディテールをファインチューニングするものだった。フロントウイングの3枚のアッパーフラップと翼端板の接続部分の折り返しも、2024年に細かな改良を行ってきたマクラーレンを象徴するアップデートだ。ライバルチームが小さなフィンを付けているのは異なり、流線型をした美しいデザインとなっている。
ライバルチームの多くが、よりダウンフォースを得ようとフロアなどを大きくアップデートして迷走するなか、マクラーレンは地道に細かいアップデートを積み重ねて、徐々にペースを上げていった。そして、気がついたときにはライバル勢を従えて、10チーム中トップを独走していた。派手なアップデートはないが、シーズンを通して失敗作をほとんど作らなかったマクラーレン。マシンの開発を成功させるためのお手本のようなアップデート術だったと言っていい。
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