2007年にゴルフGT TSIに搭載されて登場し、その後ラインアップを次々と拡大して、フォルクスワーゲンの主力エンジンとなったTSI。2008年には1.4L 122psのシングルチャージャーと7速乾式DSGを組み合わせたゴルフの「真打ち」というべきモデルが登場した。その国際試乗会の模様をを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年4月号より)
グラム単位で軽量化を施した新エンジン
2007年1月にデビューしたゴルフGT TSIにて、直噴ガソリンエンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーをダブルで組み合わせたツインチャージャーを採用し、1.4Lの排気量から最高出力170psを引き出したTSIユニット第一弾を登場させて以来、フォルクスワーゲンが積極的に打ち出しているのがダウンサイジングというコンセプトである。
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小排気量のガソリン直噴エンジンに相性の良い過給器を組み合わせることで、より排気量の大きなクルマと同等の動力性能を確保する。元々はターボ過給される直噴ディーゼルエンジン、TDIにて確立されたこの考え方を応用したTSIは、省燃費とハイパフォーマンスを両立させるガソリンエンジンの切り札的存在と言えるだろう。
そんなTSIの新たな仲間が、ラインアップの中でボトムレンジを受け持つことになる最高出力122psの1.4L直噴ターボユニットである。注目すべきは、まずツインチャージャーではないということ。そしてギアボックスに、何と7段のギアを有する新しいDSGが組み合わされるということだ。
エンジン本体は、EA111型と呼ばれるフォルクスワーゲンきっての生産量を誇る鋳鉄ブロックを用いる1.4Lで基本的に変わりはない。
大きく違うのは過給器周辺の構成。まずターボチャージャーはツインチャージャー用より2割ほど小径のものが使われ、ピークパワーが抑えられた代わりに低速域でのピックアップを向上させている。これによって低速域でのみ作動していたスーパーチャージャーは省かれることとなった。インテークマニホールド一体型の水冷式インタークーラーも採用されている。これは吸気温度を外気温プラス10~20℃に保つ一方、前置き式に較べて取り回しが短くなるためレスポンス向上に貢献する。
そして実はエンジン内部、特にシリンダーヘッド周辺にも大幅な改良が施されている。吸気抵抗となるタンブルフラップなしに燃焼室内に流れ込む吸気に効果的な渦流をつくり出すべくインテークポートの形状を変更し、噴射形状を見直した6孔式の新しいインジェクターを採用。さらにカムシャフト1本あたり304g、ヘッドカバーが150g・・・という具合に各パーツにグラム単位で軽量化を施すことで、エンジン全体での重量はツインチャージャーTSIに対して14kgも軽くなっている。
170ps仕様のツインチャージャーTSIが従来の2.3L V5と、同140ps仕様や、やはりシングルチャージャーで160psを発生する1.8L TSIが従来の2L FSIと置き換えられたように、122ps仕様のTSIは、現在ゴルフEなどが積む1.6L FSIにとって代わることになる。スペックは最高出力122ps/5000rpm、最大トルク20.4kgm(200Nm)/1500~4000rpm。これは1.6L FSIに対して6ps、4.6kgmの向上ということになる。
そして注目の7速DSGだが、これも単にギア段数を増やしたというだけの代物ではない。もっとも大きな違いは、6速DSGがオイルでクラッチ板を冷却する湿式クラッチを使うのに対して、こちらは乾式クラッチを用いるということ。構造が簡単で重量が軽く、そして油圧をつくり出すためのエネルギーロスもなくなるのが、その利点である。
実際、必要なオイル量は6速DSGの7Lから1.7Lとされ、重量も93kgから実に70kgまで軽量化されている。しかし一方で、熱容量の問題から受け止められるトルクは小さくなり、6速DSGの350Nmに対して、7速DSGは最大トルク250Nmまでのエンジンに対応する。
発進時のマナーが良い新しい7速DSGの効果
新しいTSIとDSGという、乗る前から期待せずにはいられないこの組み合わせ。スペインはバルセロナ近郊にて対面した試乗車には、ボディサイドに「7SPEED DSG」と大きな字で書かれていて、ちょっと気恥ずかしくも思われたのだが、実際にそのステアリングを握って走り出したら、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまった。要するに、その走りはそれぐらい印象的なものだったのである。
まず感心させられたのが、懸案とも言うべき発進時のマナーの良さだ。DSGにとってほぼ唯一の気がかりと言えるこの部分、先にデビューしたゴルフTSIコンフォートラインでは制御がさらに上手になって、登場当初のようなギクシャク感を完全に払拭していたが、この122psTSIと7速DSGの組み合わせは、洗練度でわずかながらさらにその上を行くという感じだ。1500rpmの段階で発生するトルクが、1.6L FSIの実に66%増しにもなるという低速域の充実ぶりに加えて、1速ギア比が6速DSGのそれより15%近く低められていることから、きわめて滑らかに、そして軽快にクルマが動き出すのである。
変速は相変わらずスムーズで、Dレンジで走行中、60km/h超で早くも7速に入るほど頻繁にギアチェンジが行われているにもかかわらず、煩雑な印象はまるでない。しかもトルクに余裕があるため、そこから緩やかに加速したいという時には、アクセルをじわりと踏み込めばキックダウンさせずにスーッと速度を上げることができる。
もちろん、必要とあらば右足にさらに力を入れてギアを2段ないし3段飛ばす迅速なキックダウンを誘発して、即座に力強い加速を得ることもできる。そうやって全開にし続けると、シフトアップの時にのみ軽いショックが伝わることもあるが、それも刺激の演出と思えば気に障るほどのものではないと言い切っていいだろう。
小径ターボチャージャーを使うだけに、トップエンドの伸びはツインチャージャー、特に170ps仕様にはかなわない。5000rpmくらいで頭打ちとなり、その後も回りはするもののパワー感は明確に衰える。そうは言っても、ヨーロッパ仕様の最高速度は195km/hと決して遅くはない。ましてや日本で乗ると考えれば、まったく不満も問題もないはず。たとえば0→100km/h加速は1.6L FSI+6速ATの11.5秒に対して9.4秒と、瞬発力は確実に高まっているのだ。
そして気になる燃費はと言えば、EU混合モードで5.9L/100km、つまり約16.9km/Lという驚異的な数値を叩き出している。これまた1.6L FSI+6速ATの7.6L/100km(13.2km/L)に対するアドバンテージは明らかである。小排気量化によるフリクションロスの低減、燃焼効率の向上などエンジンの効率向上に加えて、7速DSGが多段化のメリットで6速DSGより10%近く高い7速ギア比を採用でき、100km/h走行時のエンジン回転数をわずか2050rpmに抑えていることなどが効果を及ぼしているのだろう。
まだ7速DSGの準備が整う前の昨年夏に、6速MTとの組み合わせで乗った時から、この122psの新TSIユニットのポテンシャルの高さには深く感心させられていた。率直に言って、これがあれば140ps仕様のツインチャージャーは必要ないのでないか。そんな風にすら思わされたほどだ。
今回の試乗でも、タイトなワインディングロードを走っている時など、充実した低速トルクがもたらす高いドライバビリティと十分なパフォーマンス、そしてエンジン、ギアボックスを合わせれば40kg近い軽量化によってもたらされたフロント荷重の軽さが効いた心地良いフットワークに、個人的にはこれで十分というのではなく、これこそ本命という思いを新たにした次第だ。
7速DSGとTSIエンジン、見えてきた今後の戦略
最後にTSIとDSGの今後の展望についても触れておこう。まず、この7速DSGは先に書いた通り、最大トルク250Nmまでのエンジンに対応している。ここで気付いた人もいることだろう。ゴルフGT TSIの170ps仕様でも最大トルクは240Nm(24.5kgm)で、十分許容範囲内なのだ。将来的にはこの組み合わせも、燃費向上を考えれば可能性は大いにあるに違いない。
TSIエンジンに関しては、ラインアップをさらに下方へと拡大していくことになる。以前、その開発を指揮するDr.H.ミッデンドルフは、次の置き換えターゲットは最高出力102psの1.6Lだと話していた。近い将来、ポロなどのモデルのためにさらに小排気量のTSIが用意されることになるはずだ。
シングルチャージャーTSIと7速DSGという、これまで以上に多くのユーザーに訴求することになるであろうラインアップの登場によって、完全に波に乗った感のあるTSIエンジンによるフォルクスワーゲンのダウンサイジング戦略。今後の動向にもますます注目である。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年4月号より)
フォルクスワーゲン ゴルフTSI 122ps仕様 主要諸元
●全長×全幅×全高:4204×1759×1513mm
●ホイールベース:2578mm
●車両重量:1226kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1390cc
●最高出力:122ps/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●最高速:195km/h
●0→100km/h加速:9.4秒
※欧州仕様
[ アルバム : フォルクスワーゲン ゴルフTSI 122ps仕様 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
まさに高コスト低価格を実現してたからなぁ
給油口が無駄に電磁式で開けられた楽しさ