毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
間もなく登場の日本仕様にも期待大か!?北米のスバル新型WRXを初代WRX S4オーナーがズバリと斬る!
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスバル インプレッサグラベルEX(1995年発売)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/SUBARU
【画像ギャラリー】グラベルEXのベースとなったインプレッサスポーツワゴンWRX(歴代)をギャラリーでチェック!
■「クロスオーバーステーションワゴン」の先駆けとして誕生したグラベルEX
高性能なステーションワゴンとオフローダーが、それぞれの境界線を超えて混じり合い、新たな価値を作ること。
つまり「クロスオーバー車を作る」という根本的なコンセプトは決して悪くなかったものの(むしろ、きわめて先進的な思想だった)、当時のRVブームの表層をあまりにも軽薄になぞってしまったためにキワモノ扱いされ、歴史の闇へと消えていった(ほぼ)元祖クロスオーバーステーションワゴン。
それが、スバル インプレッサ グラベルEX(エックス)です。
スバル インプレッサ グラベルEXは、1992年に登場した初代インプレッサ スポーツワゴンWRXにさまざまなオフロード風味をちりばめ、今で言う「クロスオーバーSUV」に近い形の派生モデルとして1995年に発売されました。
スバル インプレッサ グラベルEX
グラベルEXは、インプレッサ スポーツワゴンの最低地上高を30mm高めて185mmとし、フロントには当時流行りのグリルガードを、リアには、これまた当時流行っていた背面スペアタイヤを装着。
ベースとなった初代インプレッサ スポーツワゴンWRX
ちなみに車名はグラベルEXですが、グリルガードと背面タイヤカバーには「GRAVEL EXPRESS」との文字が記されていました。
搭載エンジンはインプレッサ スポーツワゴンWRXと同じ最高出力220psのEJ20型水平対向4気筒DOHCターボで、トランスミッションは5MTまたは4速AT。
……このようなスペックを2021年の視点で見ると「なかなか魅力的やんけ」とも感じるわけですが、当時はまだ「クロスオーバー車」という概念が世の中で一般的でなかったからか、それとも後述する理由からか、インプレッサ グラベルEXはほとんど売れませんでした。
そのためスバルは、インプレッサ グラベルEXを1313台作っただけで速やかに生産終了とし、在庫分を売り切った時点で、販売のほうも終了となりました。
■実は「チャラかったから」!? グラベルEXが消えた本当の理由
今日の視点で見るならば「なかなか悪くない、高性能ステーションワゴンをベースとするクロスオーバー車」と思えるスバル インプレッサ グラベルEXはなぜ、たったの1313台しか作られないまま廃番となったのでしょうか?
そして廃番となっただけでなく、「グラベルEX(笑)」的な嘲笑の対象あるいは黒歴史に、なってしまったのでしょうか?
「時代的に早すぎた」「アウトドアで使うには荷室が狭すぎた」「背面スペアタイヤのせいでリアゲートを開けるのがめちゃめちゃ面倒くさかった」など、さまざまな理由はあるかと思います。
しかし、根本的なことを言うなら「チャラかったから」だと、筆者は思っています。
同時期、というかインプレッサ グラベルEXよりほんの少し前に登場した「スバル レガシィ グランドワゴン」は、基本的な成り立ちはインプレッサ グラベルEXとほぼ同一でした。
すなわち、レガシィ ツーリングワゴンの車高と最低地上高を上げて悪路も走れるようにし、同時に、無骨なデザインの専用バンパーなどでオフローダーとしての“イメージ”も訴求した商品です。
スバル レガシィ グランドワゴン。日本では1995年8月に登場。1995年10月に登場したグラベルEXよりわずか2ヶ月早く登場
そんなレガシィ グランドワゴンはその後「レガシィ ランカスター」へと正常進化し、さらには、今なお愛され続けている「レガシィ アウトバック」へと発展していったことは、皆さんよくご存じのとおりです。
そんなレガシィ グランドワゴンと――表層ではなく基本的な考え方は――ほぼ同じだったはずのインプレッサ グラベルEXが短命に終わった理由。それは、チャラさゼロで「本質」だけを目指したレガシィ グランドワゴンと違い、グラベルEXは「RVブームの表層」を志向し、軽薄に模倣してしまったからです。
余計で危険なグリルガードなど付けず、荷室が使いづらくなるだけの背面タイヤも採用せず、あくまでも本質的な「ステーションワゴンとオフローダーとのクロスオーバー」を志向したならば、その後の自動車の歴史は変わっていた可能性すらあります。
しかし当時のスバルは――誰が何を考えていたのかは知りませんが――柄にもない「時代への迎合」を行い、インプレッサ グラベルEXにチャラいRV風の架装をしてしまいました。
そのため、中身だけで見れば「世界初の本格スポーティクロスオーバー車」になったかもしれないインプレッサ グラベルEXは、「意味不明なRVもどき」として完全に笑いの対象となっている三菱 ギャランスポーツと同列の存在まで、堕ちてしまったのです。
インプレッサベースのクロスオーバーという意味では、グラベルEXの実質的後継モデルといえるスバル XV
判断ミスは誰にでも、どんな会社にもありますし、後からやいやい言うだけで済む筆者のような職業は、まぁ気楽なものです。
しかしそれでも、素材と根本的なコンセプトは悪くなかっただけに、残念でならないのです。
■スバル インプレッサ グラベルEX 主要諸元
・全長×全幅×全高:4595mm×1690mm×1470mm
・ホイールベース:2520mm
・車重:1310kg
・エンジン:水平対向4気筒DOHCターボ、1994cc
・最高出力:220ps/6000rpm
・最大トルク:28.5kgm/3500rpm
・燃費:10.2km/L(10・15モード)
・価格:234万9000円(1995年式 5MT)
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