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ヴォワザンC27 エアロスポーツ 壮観なアールデコ・スタイル 1台限りのクーペ 前編

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ヴォワザンC27 エアロスポーツ 壮観なアールデコ・スタイル 1台限りのクーペ 前編

ヴォワザンの革新的で個性的な自動車

見事なアールデコ・デザインのツートーン・ボディ。目隠しで運転席に座らされても、壮観な内装生地とダッシュボードを目にすれば、ヴォワザンに乗っていると気付きそうだ。

<span>【画像】ヴォワザンC27 エアロスポーツ 1934年前後のクラシック・モデルと比較 全83枚</span>

フランスの発明家、ガブリエル・ヴォワザン氏が残した革新的で個性的な自動車は、スタイリングだけではない。ステアリングホイールのホーン用レバーや、助手席側のヒューズ・ホルダーまで、特徴的なディティールにも事欠かない。

1934年に発表されたC27 エアロスポーツにも、多くの発明が含まれている。特許取得してあるものも少なくない。

フロントガラスはフレームレス。ガラスに穴が開けられ、ボルトで固定されている。後方へスライドするルーフを開くと、四角く切り取られた空が頭上に広がる。

艷やかな黒で仕上げられたダッシュボードには、ヒューズ・ホルダーのほかにノブやスイッチ、イエーガー社製のメーターが整然と並ぶ。足もとのペダルへ刻印されたガブリエル・ヴォワザン氏のイニシャル、GV以外、ブランド名を示すロゴはない。

細身のボンネットの先には、垂直に伸びた翼があしらわれている。ヴォワザンを象徴するマスコットだ。とある依頼主から1921年に要望を受け、アルミニウムの端材で急ごしらえしたのが起源だという逸話がある。

華やかなインテリアに包まれると、動力性能や操縦性にも期待が高まる。ブガッティに匹敵するスポーツカーだったのだろうか。あるいはモーターショーを飾る、ショーカー的要素が強かったのだろうか。

航空機で培った経験が活きるボディ

スターターのボタンを押し、3.0L直列6気筒エンジンを始動させる。エンジン音は小さく、特に興奮を誘うノイズではない。3バルブ構造を採用したエンジンが、白い排気ガスを後方に広げる。

複雑な構造の6気筒エンジンは、パワーやトルクを優先していない。静かな回転音と燃費効率を求めている。そのかわり、シャシーとボディは軽量。航空機の生産で培った経験が活きている。

長いシフトレバーが、フロアから姿を見せるトランスミッションから伸びる。1速から2速のレシオはショート。ステアリングコラムには、3速と4速に相当する2つのオーバードライブのスイッチが付いている。クラッチペダルは軽い。

走り始めると、排気ガスの白い濁りはすぐに消えた。エンジン音はさらに静かになり、極めて滑らかに回転を始める。

ステアリングラックはスクリュー&ナット式と呼ばれるタイプ。戦前のモデルとしては比較的軽く、素早くタイヤの向きが変わる。小回りも効く。ブレーキは前後ともドラムで、オリジナルのサーボでアシストされる。

筆者が特に印象深く感じたのは、ルーフを後方にスライドさせても保たれる剛性感。ボディが路面の影響で振動する素振りもなく、8点で強固に固定されるドアもきしまない。

フロントアスクルは鍛造。リジッドアスクルのリアは、当時らしい乗り心地を生んでいるが、サスペンションは油圧式のショックアブソーバーを備える。ノブを回して、減衰力の調整もできる。

僅か2台が作られたヴォワザンC27

シートは低く、フロアはフラット。運転姿勢は、1934年のモデルとしては現代的。5角形に下がくびれたサイドウインドウのラインが、ドライバーの肘とフィットする。

そもそも、ヴォワザンを運転できること自体が特別な体験だ。さらに、1台だけ作られたC27エアロスポーツの運転ほどレアな体験はない。フランス・パリのオスマン通りの街灯が、ヴォワザンのボディに映り込む様子を想像してしまう。

ヴォワザンは、2シーターのクルマを殆ど生産しなかった。1934年のカタログには、短い3.1mのシャシーをベースとした、2ドアのスポーツモデルが掲載されていたが。

当時の提示価格は、9万フラン。ブガッティ・タイプ57 グランレイドより1万フランも高かったが、イスパノ・スイザのシャシーの半額ではあった。

C27が生産されたのは、僅か2台。1台目は、コーチビルダーのフィゴーニ社がボディを手掛けた、カブリオレだった。オーダーしたのはペルシャ人。番号52001のシャシーに、大胆なグリーンとイエローのツートーン・ボディが載せられた。

そのヴォワザンC27 カブリオレは、第二次大戦の戦火を生き延びた。その後、カリフォルニアのクラシックカー・コレクター、ピーター・マリン氏が購入している。

徹底的なレストアを経て、イエローとブラックのボディに塗り直され、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスでお披露目された。クロームのワイヤーホイールと、オーストリッチの内装が印象的だった。

話題を集めたアールデコ・スタイル

2台目に作られたクーペのC27 エアロスポーツは、ボディもヴォワザンの工場でデザインされている。シャシー番号は52002で、1935年のジュネーブとバルセロナの自動車ショーで発表。アールデコ・スタイルが大きな話題を集めた。

ところが、ガブリエルは2シーターモデルを好きではなかったらしい。「硬めの乗り心地で少し窮屈な車内の2シーターは、快適ではないと感じていたようです」。と、ヴォワザン愛好家のフィリップ・モック氏が説明する。

「4シーターのC25 エアロダインを特に気に入っていました。自動車に対する彼の哲学を、より良く表現できていたのでしょう」

今回ご紹介するヴォワザンC27 エアロスポーツの最初のオーナーは、建築家のアンドレ・テルモント氏。ガブリエルの旧友で、仕事のお礼として、アンドレへプレゼントしたという説がある。

ガブリエルとアンドレは、航空機でも自動車でもアイデアを共有し、協力して仕事に取り組んでいた。2人が出会ったのは、1900年にパリの建築事務所で建築の勉強に取り組んでいた頃だ。

ヴォワザンに詳しい、レグ・ウィンストーン氏が翻訳した本に記されている。「建築家のジャン・ルイ・パスカルが開いた学校で、建築を学んでいました。その哲学は、直感ではなく論理。そして簡素化。合理的な設計と、上品な立面図を習得したのでしょう」

姿を消したC27 エアロスポーツ

第一次大戦が始まると、ガブリエルとアンドレはパイロットとして訓練を受けた。平和が戻ると、ガブリエルが手掛けるクルマのデザインをアンドレが担当。ヴォワザン独特の優雅なカーブを描くスタイリングを生み出した。称えるべき功績といえる。

ガブリエルは、ピエール・パトウト氏やル・コルビュジエ氏など、著名な建築家とも交流が深かった。実際、コルビュジエはヴォワザンを複数台所有しており、多くの建築図面にヴォワザンのクルマが描かれている。

C27 エアロスポーツは、当初はツートーンのボディにレザー内装で仕立てられていた。だがアンドレがオーナーだった10年の間に、ボディは目立たない色に塗り直されている。恐らく戦時中だろう。

1945年まで、アンドレは日常的な移動手段としてヴォワザンに乗った。その後、ポーランド生まれの画家、モイズ・キスリング氏の息子が2番目のオーナーとして引き継ぐ。キスリングも、美術を通じたアンドレの友人だった。

その間にヴォワザンはルーフを破損。本来はスライド式だが、固定ルーフのクーペとして修理を受けたようだ。しばらくしてパリ在住のヴォワザン専門家、ロバート・サリオット氏が購入。彼の門下生だったジャン・テラモルシ氏へ貸し、運転させている。

このテラモルシは後にルノー5 ターボを開発し、ルノー・スポールのディレクターに就任する人物だ。ところが1960年代になり、C27 エアロスポーツは姿を消してしまう。スクラップ業者へ売られたということだった。

この続きは後編にて。

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