トヨタは以前からコンパクトなハイブリッド車を豊富に揃えたが、最近は新しいプラットフォームを使ったモデルに刷新している。2020年2月にアクア、同年8月にはヤリスクロス(この2車種はノーマルエンジンも用意する)、2021年7月にはハイブリッド専用車のアクアをフルモデルチェンジした。
これら3車のハイブリッドシステムやプラットフォームは、部分的に仕様が異なるものの、基本的には共通だ。そしてトヨタはハイブリッドでは長い実績があり、販売店の数も多いから購入しやすい。
ホンダに勝って時代に負けた?? トヨタとウィッシュの選択【偉大な生産終了車】
コンパクトなハイブリッド車を買いたいユーザーは、ヤリスハイブリッド/ヤリスクロスハイブリッド/アクアで選択に悩むこともあるだろう。そこでこの3車のベストな選び方を考えたい。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】トヨタのオススメコンパクトカー3モデルを徹底チェック!
■トヨタコンパクトハイブリッド3モデル各車の特徴は?
まずこの3車で、ベーシックな位置付けになるのがヤリスだ。日本ではヴィッツの後継にあたり、全長を3940mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)を2550mmに抑えた5ナンバー車だ。
車両重量はハイブリッド2WD・Zが1090kgと軽い。WLTCモード燃費は2WD・Zが35.4km/L、ハイブリッドXは36km/Lだから、日本で購入可能な乗用車のなかでは燃費性能が最も優れている。
最もベーシックなヤリス。WLTC燃費で35km/Lを超えるという現世界最強レベルの燃費性能を誇る。走りも軽快だが、そのかわり後席は少し窮屈
その代わり欠点として、後席の狭さが挙げられる。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々だ。運転感覚は軽快だが、乗り心地は硬めに感じられる。
ヤリスクロスは、コンパクトなSUVで、全長は4180mmだからヤリスに比べて240mm長い。全幅も70mmワイドな1765mmだから3ナンバー車になる。外観の存在感を強めた。
後席の足元空間はヤリスとあまり変わらないが、床と座面の間隔が20mm拡大したので、腰が落ち込んで膝の持ち上がる窮屈な着座姿勢は改善されている。後席に座る乗員の足が前席の下に収まり、広々感はないものの、ヤリスほど窮屈ではない。
販売店では「ヤリスを検討していたお客様が、後席が窮屈という理由で、ヤリスクロスを選ぶこともある」という。
「後席が狭いのはちょっと・・・」という層に対して訴求力があるというヤリスクロス。ボディはヤリスよりひと回り大きく3ナンバーになっている
乗り心地は低速域では少し硬い。開発者は「売れ筋になるハイブリッドZの場合、乗り心地と走行安定性のバランスでは本当は17インチタイヤがベストだが、外観のカッコよさを考えて18インチを採用した」と述べた。
それでもヤリスに比べると、粗さを抑えている。WLTCモード燃費は2WD・Zが27.8km/Lだから、ヤリス2WD・Zの35.4km/Lに比べると見劣りする。
アクアは5ナンバーサイズのコンパクトなハイブリッド車だが、ヤリスに比べるとボディが少し長い。全長は4050mmだからヤリスを110mm上まわり、ホイールベースも50mm伸ばして2600mmに設定した。
そのために後席の足元空間が広がり、前述の測り方で後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ弱だ。大人4名が乗車して快適に移動できる。
アクアはヤリスに比べて乗り心地も向上した。ホイールベースの拡大、スイングバルブを内蔵したフロントショックアブソーバーの装着などが利いている。3車のなかでも、乗り心地はアクアが最も快適で、次はヤリスクロス、ヤリスの順番だ。
そしてアクアは走行安定性も優れている。ヤリスに比べると操舵した時の反応は穏やかだが、危険を避ける時などは、後輪がしっかりと接地して安定性が高い。
アクアはホイールベースが最も長く、全高は1485mm(2WD)で、ヤリスの1500mm、ヤリスクロスの1590mmに比べると低い。重心も下がり、走行安定性を高めるうえで有利な条件がそろっている。
3種のなかで最も上質なアクア。ボディのサイズ感(と、価格)はヤリスとヤリスクロスの中間だが、後席の空間にも余裕があるという
アクアで注意したいのは後方視界だ。サイドウインドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げたから、斜め後方が見にくい。後席に座った時も閉鎖感が伴う。
またホイールベースが長いので、ハイブリッドZの最小回転半径は5.2mだ。ヤリスの同グレードは5.1mだから、アクアは若干大回りになる。ただしヤリスクロスの5.3mよりは小回りが利く。購入時には、販売店の試乗車で車庫入れや縦列駐車を行い、取りまわし性を確認したい。
アクアのWLTCモード燃費は、2WD・Zで見ると33.6km/Lだ。ヤリスハイブリッド2WD・Zの35.4km/Lには負けるが、ヤリスクロスハイブリッド2WD・Zの27.8km/Lよりは優れている。両車の中間的な数値になる。
■お買い得な車種は?
装備と価格のバランスも比べたい。
ヤリスハイブリッド2WD・Zの価格は232万4000円で、アルミホイールは8万2500円、100V・1500Wの電源コンセントは4万4000円のオプションだ。この2つをオプション装着した合計額は245万500円になる。
ヤリスクロスハイブリッド2WD・Zの価格は258万4000円で、アルミホイールは標準装着される。100V・1500Wの電源コンセントは4万4000円のオプションだから、これを加えた合計額は262万8000円だ。
アクア2WD・Zの価格は240万円で、アルミホイールや100V・1500Wの電源コンセントは標準装着した。さらにディスプレイオーディオのサイズは、ヤリスとヤリスクロスが8インチなのに対して、アクアは10.5インチに拡大する。
アクアのインパネ。ディスプレイは10.5インチと、ヤリス系の8インチよりひと回り大きくて見やすくなっている
以上のようにアルミホイールや100V・1500W電源コンセントのオプション価格を含んだ合計額は、アクア2WD・Zが最も安く240万円、ヤリスハイブリッド2WD・Zは245万500円、ヤリスクロスハイブリッド2WD・Zは262万8000円になる。
しかもアクアは前述のとおりディスプレイオーディオのサイズも拡大され、後席の居住性、走行安定性、乗り心地も3車のなかでは最も優れている。
従って3車のなかでは最も買い得な車種はアクアだ。ヤリスは居住性、乗り心地、価格の割安度でアクアに劣る。ヤリスは運転感覚がアクアよりも軽快で、燃費性能も優れているが、総合力では勝てない。
アクアはお買い得感が高いコンパクトハイブリッド車だ。居住性、乗り心地、価格の割安度でバランスがいい
そのためにコンパクトカーのハイブリッドを買うならアクア、ノーマルエンジンならヤリスという選び方になる。
ガソリン車を買うならヤリス。他2車種には設定されていない1Lエンジン仕様など、やろうとすれば絶対的な価格が一番低くできる
ヤリスクロスも価格の割安感、後席の居住性、乗り心地でアクアに負けるが、SUVという独自の価値を備える。そこに魅力を感じるなら、ヤリスクロスも検討したい。
ヤリスクロスはSUVという独自の価値感やデザインが魅力。ノーマルエンジン仕様なら本体価格約180万円から手が届く
■アクアがお買い得な価格設定になっている理由
ちなみにメーカーが公表している1カ月の販売目標は、ヤリスがハイブリッドとノーマルエンジンを合計して7800台、ヤリスクロスは4100台だが、アクアはノーマルエンジンを用意しないハイブリッド専用車なのに9800台と多い。
つまりアクアは、優れた燃費性能が求められる2030年度の燃費基準も視野に入れ、機能や装備のわりに価格を抑えて大量な販売台数を狙っている。
バイポーラ型ニッケル水素電池は、リチウムイオン電池より色々な意味で安全性が高いニッケル水素電池を高容量化したものだ。アクアが売れることで、この電池もより安くすることができる
そのためにバイポーラ型ニッケル水素電池も開発した。現時点ではヤリスやヤリスクロスのリチウムイオン電池に比べて価格が高いが、生産台数が増えれば、コストが下がってバイポーラ型ニッケル水素が安くなる。
効率を高めるには車種の選択と集中も不可欠だから、今後のトヨタのコンパクトカーは、ハイブリッドをアクア、ノーマルエンジンをヤリスに絞ることも考えられる。広い室内を求めるユーザーには、ダイハツ製のルーミーが対応する。パッソの存続は、ヤリスに1Lエンジン搭載車があるので微妙だろう。
このようなトヨタの戦略に基づいて、アクアは買い得度を強め、推奨度の高いコンパクトハイブリッド車に仕上げられた。
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みんなのコメント
むしろトヨタもよくこんなにラインナップを詰めたものだと思う。
特にこの者の言う「走行安定性」「視界」は一般人の考えるそれとはかなり違うので、鵜呑みにしてはならない。