祐天寺のサイクル・ショップ
祐天寺駅から徒歩5分、駒沢通りに面したコンクリート打ちっ放しの小さなビルの1階で、お店の外見はサイクル・ショップという感じではない。バーとかカフェ、あるいは美容院といったイメージである。もっとも、お店の外に古いロード・レーサーが何台か置いてあるから、わかるひとにはすぐわかる。
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店内は狭いけれど、古いロード・レーサーが壁に飾ってあったり、置いてあったりで、じつにエンスージアスティックな雰囲気を醸し出している。高級自転車専門の古道具屋だ。
ドラーリはスチール・フレームのみが入ってすぐのところにあった。
「オーソドックス、質実剛健という感じなんですよね」とコルサコルサ代表の江口静一さん(45歳)は冷静に語った。
すぐ近くの壁にMASI(マージ)の、その名もストラディバリという2016年に発売された同社90周年モデルが飾ってある。イタリアン・バイクの巨匠アルベルト・マージがつくったこちらはフレームだけで5000ユーロ、それにカンパニョーロ50周年のパーツが組んである。価格はおのずとそれなりになるけれど、フレームをじっくり見ていると、軽量化のためか単なるデザインのためのデザインなのか、ところどころにダクトが設けられていたりして、素人目でも手が込んでいるとわかる。
「いまのご時世、利益追求で、フレームもCADでやるので、こうはならない。つくりやすいものを売りつける時代になっている。ハンド・メイドのよさとは相反します。自転車もクルマと一緒の路線をいっている」
イタリアのロード・レーサーにもブランド化の波、量産化の波がおよんでいて、かつてはたくさんあった小さな工房は危機的な状況にある、と江口さんはいう。アンドレアさんが引退したジュゼッペ・ドラーリ翁を説得してドラーリを復活させたのは、イタリアの職人仕事の伝統を守りたかったからだろうし、同時にビジネス・チャンスもあると考えたのだろう。
「富裕層、文化人は(テイラー・メイドの自転車の)危機に気づいています。けっして価格も高くはないんですよ。フェラーリとかアルファ・ロメオ的な存在というか、伊達の象徴です。コルサ、レースで生きていくラテンの象徴。象徴だから色気がある。レーサーのなかに美しさが滲み出てくる」
クルマの例が出てくるのは、江口さんがクルマ好きだからで、89年に登場した日産スカイラインR32 GT-Rの名前も出てきた。R32はグループAレースで勝つために生まれたクルマだった……。ドラーリは色気というよりはイタリアの職人気質が滲み出ている。武骨で職人気質、トレンドはどうでもいいというタイプだという。
ドラーリはジュゼッペ翁が父親から受け継いだ自転車づくりを守り続けていることに最大の特徴があるわけだから、まさにイタリアの職人気質の塊といえる。父親はイタリアの英雄ファウスト・コッピが愛用したビアンキのフレーム・ビルダーだった。けれど、親子ともども、自分の名前を冠した自転車をコツコツつくり続けるのみだった。そのおかげで、ジョルジオ アルマーニ社の元重役で、いまも同社の取締役会のメンバーをつとめているアンドレアさんの目に止まり、復活するという小さな奇跡が起きた。
アンドレアさんからインターネットで連絡があり、2018年5月にエロイカ・ジャパンで来日するから会って話がしたいということだった。ドラーリの代理店を引き受けることにしたのは、アンドレアさんの情熱だった。
「いい目してるな、というか。あとあと考えると、よく見てるなと思いました。ポイントがわかっていないと、たぶんウチに来ない。トレンドをよく読んでいる。ここまで足を運んでくださるのに、過去からの流れを見てたんじゃないかな」
江口さんはエロイカ・ジャパンには最初期から全面協力していて、海外からの客のアテンドから現場でのメカニックまでこなしているという。
ちなみに、エロイカ・ジャパンというのは往年のロード・レース用自転車を往年の道路環境で走らせることで往年の英雄たちの気分を味わおう、というイタリアで1997年から始まったイベントである。1987年までに製造されたクラスと、1988年以後に製造されたスチール・フレームをもつヴィンテージ・タイプのクラスがある。その日本版であるエロイカ・ジャパンは2013年から催されている。
江口さんが「日本で唯一のヴィンテージ・バイク専門店」「世界で最高のヴィンテージ・バイクのレストアラー」を自負するコルサコルサを開いたのは2013年と、奇しくもエロイカ・ジャパン初開催と同じ年だ。江口さんはオートバイ、クルマ好きで、草レースのメカニックをやったりしていた。メカをいじるのが好きだった。けれど、電子制御が入ってきた現代のクルマはロム・チューンが主流になり、「ものすごい嫌気がさして離れちゃった」。
そんなときに、近所の鉄工所のおじさんからピナレロをもらう。1953年創業のイタリアの名門ロード・バイクである。「そのときにズガーンときて」、すっかりハマった。もともと身体を動かすのが好きだったから、自転車がカラダに合った。江口さん、横須賀の自衛隊に所属していたこともあって、英語に親しんでもいた。やがて、「いろいろいいわけ」しているうちに中古部品を、ちょっとハードルが高かったけれど、海外からインターネットで手に入れるようになる。
そう、ロード・レーサーを手に入れると、「いろいろいいわけ」するものなのだ。仲間と走りに行って、オレが遅いのはギアが合ってないからだとか、順位もタイムも関係ないのに、つい張り合う。若さと別れ目の30代ともなれば、なおさらだったろう。
「中古のパーツを手に入れ、それを直して売るのが性に合っていた」と自己分析する江口さんは、もらったピナレロの縁もあってだろう、イタリアの自転車が好きになり、独学で自転車を組んで納められるようになった2008年、ボロいアパートの一室を借り、「エクスバイシクル」という屋号で、ヴィンテージ・バイク部品のインターネット販売を始める。そのアパートが取り壊されることになり、実店舗を開くと同時に屋号を「コルサコルサ」に変えたのが、前述のごとく2013年のことだった。
オーダーの付加価値
開業すると、ネット販売時代からつきあいのあった「コワいおじさん」が無理難題をもって押し寄せた。そうして、いつの間にか、あそこに行けばなんとかなる、という評判がつくられていった。海外からパーツの売り込みがネットを通じて入るようにもなった。当時はまだコンペティターが少なかったことも幸いした。
「自転車部品て、ものすごい繊細なんですよ。多少器用じゃないと扱えないんです。一番はディレイラー(変速機)。どうしても買っちゃうんです。買うのはいいんですけど、くっつかない。それをすり合わせるにはどうするか。ほかの自転車屋は、できない、と突っぱねちゃう。それを、ちょっと待って、と。なんとかやろうとするので信用というか、任せてみようということになったんじゃないかと……」
そういうなかで、アンドレアさんから連絡が入り、ドラーリの代理店となる契約が結ばれた。では、質実剛健のドラーリのフレームを使って、どんな自転車に仕上げればよいのだろう?
「ブランドとしての認知はないので、ウチの場合、クラシックなバイクをつくるのをオススメするのが本来の姿なんですけど、モダン・バイクの部品をつけるのも問題ない」と江口さんはいい、さらにこう続けた。
「ウチでオーダーしてよかった、と思われるような付加価値をつけたい。ハンドルを革巻きにするとか、ツルシはいらないと思うんですよ。そこで、ウチじゃないとできないような色付けをしてあげれば、ドラーリが輝くのかなと」
革巻きのハンドルとメッキはコルサコルサの得意とするところだ。もちろん客の好みによって変わってから、あくまで江口さんの提案である。フレームは2500ユーロぐらいで、消費税込み35万円、完成車で60万円ぐらいが目標だという。カンパニョーロの廉価な部品を付けることを想定している。もっと安くもできるけれど、「安くしたなりになる」。
ドラーリの魅力は、「変わらないことにある。時代に迎合せずにコツコツつくり続ける。そうすれば、ある一定の数、シンパシーを感じるひとが必ずいる。アンドレアさんも模索していると思う。イタリア・ブランドとして行き詰まっているところもある。そういうときに、なにか貫くというのも大事だと思うんです」
エロイカに出場できるエロイカ・スペックに仕立てることもできるし、実用で通勤に使ってもいい。スチール・フレームはアルミと違って柔らかいから膝によかったりする。「ひとつバネがついているよう」で、車体の振動がダイレクトに来ない。疲れや痛みが出にくい。マイルドだから、中高年に乗りやすい。
自転車用語で「進む」「進まない」というのがあって、鉄フレームは「進まない」。エネルギーがかかってからたわむ。力を受けて止めてから前に出るイメージ。対してカーボンやアルミはクルマでいえばF1のようなところがある。40代のひとたちがそれをもつのはナンセンス。それより、長くのんびり乗っていられる鉄のほうが優位性が高い、というひともいる、そうである。
「ウチの仕事は聞くこと。聞く自転車屋さんは少ない。聞いて聞いて、受け止める」
そうやって客がなにを求めているのかを探り出し、それに合わせた自転車を提供するのだという。ドラーリを近頃、ストリート・カルチャーとして人気が出てきたピスト(固定ギア)にする手もある。「すっとしたのをつくりたい」というような江口さんのアイディアをいろいろ聞いて、こんな原稿を書いていると、ホントに欲しくなっちゃうなー。ドラーリはいま注文して、届くのは半年先になるという。じつはマージもいいなぁとか思ったりして……。
CORSACORSA (コルサコルサ)
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