■「M3」をピックアップに仕立てる
もともと「M3」はレースシーンで活躍することを目指して開発されたクルマである。しかし、その初代M3の頃から、オープンモデルである「M3カブリオレ」がラインナップに加わるなど、ボディバリエーションの拡張には余念がなかったようだ。そこで、市販化こそされなかったが、非常に魅力的なM3のプロトタイプを紹介しよう。
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●1986 BMW「M3ピックアップ」
E30 3シリーズには、クーペ、セダン、カブリオレ、ツーリングと、多彩なボディ形状がラインナップされていたが、ピックアップは市販モデルラインナップには存在していない。
荷物を運搬するために製作されたE30「M3ピックアップ」だが、ベースにカブリオレのボディが選ばれたのには、ふたつの理由があった。
その理由のひとつは、当時のBMW Mディビジョンで完璧なコンディションのカブリオレの個体を持っていたこと。第二に、カブリオレが内蔵しているブレース(支柱)は、ピックアップに使用するのに理想的だったこと、というふたつの理由である。
E30 M3にはカブリオレも存在するが、最初のM3ピックアップが、E30 M3の特徴的なオーバーフェンダーボディではなく、ナローボディで作られたのは、こうした理由による。
当初、このM3ピックアップには、192psを発生する2リッターエンジンが搭載されていた。E30 M3に搭載されていたS14型をベースに、ショートストローク化によって排気量を2リッターに収めた、通称「イタリアンM3」のエンジンである。これは、2リッターの排気量を超えると多くの税金がかかるイタリアの税制への対策として作られたエンジンである。
ちなみに、この「イタリアンM3」のエンジンは、ナローボディの3シリーズに搭載し、「320is」という名称でイタリアで販売されていた。
その後、200psを発生するE30 M3に搭載されていた2.3リッター直列4気筒エンジンに積み替えられた。
このM3ピックアップは、26年の間、ファクトリーの周辺を実際に運搬車として走り回っていた。
BMW M3ピックアップが、長い期間現役であったという事実は、このように作り出されてきたワンオフのモデルたちが、単にエンジニアがおこなう試みではないという、はっきりとした証拠である。
それどころか、想定された仕事に対して、最適化された高性能車だったといっていいだろう。
●2011 BMW「M3ピックアップ」
初代のM3ピックアップは、非常に便利ではあったが、さすがに26年も経過すると、幾分調子も悪くなり、後継車が登場することとなる。
E93 M3カブリオレをベースとして製作したのが、2台目のM3ピックアップである。
このM3ピックアップの誕生には、ひとつのエピソードがある。それは、2011年の春に、エイプリルフールになにかおもしろいことをやろう! とあるスタッフが言い出したことが発端となる。
実際にニュルブルクリンクを走らせ、あたかも開発途中であるかのようにスパイショットを撮影して、リークしたのである。そして2011年4月1日に、セダン、クーペ、カブリオレに続く第4のバリエーションとしてプレスリリースで発表したというわけだ。
そしてそのプレスリリースには、「420psをボンネット下に収め、積載能力は450kg、Mの血筋が証明するドライビングプレジャーと、日常的な使い勝手を高次元で融合させた新型。Cd値は、M3クーペよりもわずかに高く、コンバーチブルよりも50kg軽量で、20kgのタルガルーフを取り外すことで、さらなる低重心化となり、さらにシャープなハンドリングを実現」と書かれていた。
最初のM3ピックアップは、ファクトリーの敷地内だけでしか走行できなかったが、2代目のM3ピックアップは、公道を走ることが出来る最強のトランスポーターである。
■ありそうでなかった「M3」の派生モデルとは?
ちょうどE46型3シリーズがまだ現役だった頃、ツーリング(ワゴン)がブームとなり、いろいろなメーカからセダンをベースにしたツーリングモデルがリリースされていた。
そこで、プロダクションモデルとして真剣に検討されていたのが、「M3ツーリング」である。
●2000 BMW「M3ツーリング」
Mモデルでツーリングがラインナップに加わったのは、E34型「M5ツーリング」とE60型「M5ツーリング」のみである。E46型M3ツーリングは市販化されることはなかったが、プロトタイプを製作することで、社内的にはある目標を達成することが出来た。
たとえば、量産モデルの3シリーズ・ツーリングモデルからM3ツーリングを製造するのに、たいした困難を伴わないという事が判明したのである。もっとも困難だと考えられていたプロダクションモデルのリアドアを改造して、リアのオーバーフェンダーと合致させるために、コストの掛かる特別な設備が必要ないということがわかったのである。
万が一、M3ツーリングの生産にゴーサインが出たら、内装などのMモデル専用パーツを簡単に取り付けることができることを知る上で、プロトタイプが重要な役割を担ってくれたのである。
しかし、残念ながらこのあとM3ツーリングがラインナップに加わったというニュースはまだ届いていない。
●1996 BMW「M3コンパクト」
「M3コンパクト」は、若い顧客層向けのMモデルのエントリーモデルを探ることだった。コンパクトにまとまったそのボディサイズは、現在のBMW「M2」の祖先だと考えてもいいかもしれない。
M3コンパクトには、E36「M3C」のエンジンが321psの最高出力そのまま搭載されていた。E36M3Cの車重が1470kgだったことを鑑みると、わずか1.3tの軽いボディには、十分すぎるパワーだったことが伺える。
ドイツの自動車雑誌「auto motor und sport」が1996年の13号でテストした際、「150kgも軽量で、機敏で、より堅くて(高剛性で)、しかも妥協をしなかった」と熱狂的に記している。
しかし、BMWのワークショップのチーフによると、M3コンパクトが仮に市販されたとしたら、S50エンジンはパワーダウンして搭載することになったであろうということだ。
このE36のコンパクトボディにE36M3のエンジンを換装するというチューニングは、2000年代前半に、日本でもチューナーが製作している事実が数例ある。
しかし、エンジンパワーとシャシのバランスが悪く、クラッシュした固体も多い。いみじくも、ワークショップチーフが語ったように、パワーダウンさせないと市販化は無理であったことを、裏付けるエピソードである。
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